Title: Shin chokusen wakashu
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Title: Kokka taikan
Author: Anonymous
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Title: Library of Congress Subject Headings
1232 Japanese fiction poetry masculine/feminine LCSH 10/2002
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10/2002
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新勅撰和歌集

新勅撰和歌集序

すべらぎのみ ことのりを承りてわが國の大和歌を撰ぶ こと、みづがきの久しき昔より始まりてすがの根の永き代々に傳はれり。いはゆる古今、後撰の二つの集のみにあらず。公ごとになずらへて集め記されたるためし、昔といひ今といひその名多く聞ゆれど、九重の雲の上に召されて久方の月に交はれる輩、この事を承り行へる跡はなほ稀なり。白河の畏き御世 ことわざ繁き政に臨ませたまひてなゝそぢあまりの御よはひ保たせたまひしはじめ、後拾遺を撰べる一たびなむありける。然るにわが君天の下知ろしめしてよりこの方、十年餘りの春秋四方の海立つしき浪も聲靜かに、七つの道民の草葉も靡き悦べり。苅菰の亂れしを治め、秋草の衰へしを興させ給ひき。秋津島又更に賑ひ天つ日嗣二たびさかりなり。たゞ延喜天暦の昔、時すなほに民豐かに悦べりし政を慕ふのみにあらず。又寛喜貞永のいま、世治まり人安く樂しき ことの葉を知らしめむために殊更に集め撰ばるゝならし。定家、濱松の年積りかは竹の世々に仕うまつりて、七十の齡に過ぎふた品の位を極めて、志もの事を聞きて上にいれ、上の事をうけて下にのぶるつかさを給はれる時にあひて、たらちねの跡を傳へ古き歌の殘をひろふべき仰せ事を承るによりて、春夏秋冬折節の言の葉を始めて、君の御世をいはひ奉り、人の國を治めおこなひ、神を敬ひ、ほとけに祈り、己が妻をこひ、身の懷を述ぶるにいたるまで、部をわかち卷を定めて、濱の眞砂の數々に浦の玉藻かき集むるよし、貞永元年十月二日これを奏す。名づけて新勅撰和歌集とすといふ こと志かり。

新勅撰和歌集卷第一
春歌上

御製

うへのをのこども年の内に立つ春といへる心を仕うまつりける次でに


あら玉の年もかはらでたつ春は霞ばかりぞ空に志りける




皇太后宮大夫俊成

立春の歌とてよみ侍りける


天の戸をあくる氣色も靜にて雲ゐよりこそ春は立ちけれ




紀貫之

延喜七年三月内の御屏風に元日雪ふれる日


けふしもあれみ雪しふれば草も木も春てふなべに花ぞ咲ける




讀人志らず

題志らず


冬過ぎて春はきぬらしあさ日さす春日の山に霞たなびく





久かたの天のかぐ山このゆふべ霞たなびく春たつらしも




京極前關白家肥後

春の始雨ふる日草の青み渡りてみえ侍りければ


いつしかとけふ降りそむる春雨に色づき渡る野べの若草




大中臣能宣朝臣

題志らず


わが宿のかきねの草の淺みどりふる春雨ぞ色は染めける




貫之

三條右大臣の家の屏風に


とふ人もなき宿なれどくる春はやへ葎にも障らざりけり




權中納言師俊

法性寺入道前關白の家にて十首の歌よみ侍りけるに鶯をよめる


鶯の鳴きつるなべにわが宿の垣ねの雪はむらぎえにけり




源俊頼朝臣

鶯花を告ぐといへる心をよみ侍りける


春ぞとは霞みに志るし鶯は花のありかをそことつげなむ




待賢門院堀川

久安六年崇徳院に百首の歌奉りける、春の歌


霜がれはあらはにみえし芦の屋のこやのへだては霞 なり


前參議親隆


松島やをじまが崎の夕霞たなびきわたせあまのたくなは




皇太后宮大夫俊成

後徳大寺左大臣十首の歌よみ侍りけるに遠村霞といへる心をよみ侍りける


あさ戸あけて伏見の里に眺むれば霞にむせぶうぢの河浪




覺延法師

守覺法親王の家に五十首の歌よみ侍りけるに、春の歌


住吉の松の嵐もかすむなりとほざとをのゝ春のあけぼの




源師光


山のはも空も一つにみゆる哉これやかすめる春の明ぼの




式子内親王

百首の歌に


にほの海や霞のをちにこぐ船のまほにも春の景色なる哉




八條院六條

後京極攝政、左大將に侍りける時百首の歌よませ侍りけるに


月ならでながむる物は山のはによこ雲わたる春の明ぼの




曾禰好忠

題志らず


さほ姫の面影さらすおるはたの霞たちきる春の野べかな





木のめはる春の山べをきてみれば霞の衣たゝぬ日ぞなき





卷もくの穴師の檜原春くれば花か雪かとみゆる木綿しで





朝なぎにさをさすよどの川長も心とけては春ぞみなるゝ




山邊赤人


山本に雪はふりつゝ志かすがにこの川柳もえにけるかも




伊勢

柳をよみ侍りける


青柳の枝にかゝれる春雨はいともてぬける玉かとぞみる





淺みどり染めてみだれる青柳の糸をば春の風やよるらむ




中務

天暦の御時御屏風の歌


吹く風に亂れぬ岸の青柳はいとゞ浪さへよればなりけり




二條院讃岐

千五百番歌合に


百敷や大宮人のたまかづらかけてぞなびくあを柳のいと




按察使隆衡

春の歌よみ侍りけるに


おしなべて木のめも今は春風の吹くかたみゆる青柳の糸




内大臣

寛喜元年十一月、女御入内の屏風の繪、山人家柳をよみ侍りける


うちはへて世は春ならし吹く風も枝をならさぬ青柳の糸




正三位知家


[1]




鎌倉右大臣

春の歌とてよみ侍りける


[2]霞たなび





このねぬる朝げの風にかをるなり軒ばの梅の春のはつ花




九條右大臣

梅の花を折りて中務がもとに遣しける


いと早も霜にかれにしわが宿の梅を忘れぬ春はきにけり




山上憶良

筑紫にて梅の花をみてよみ侍りける


春されば先さく宿の梅の花ひとりみつゝや今日を暮さむ




凡河内躬恒

題志らず


孰れをかわきてをらまし梅の花枝もたわゝにふれる白雪




貫之


やまかぜに香をたづねてや梅の花にほへる里に鶯のなく




坂上是則

亭子院の歌合に


きつゝのみ鳴く鶯の古郷はちりにし梅の花にぞありける




式子内親王

題志らず


たが垣ねそこともしらぬ梅が香の夜はの枕に慣にける哉




權大納言家良


玉ほこの道のゆくての春風にたが里知らぬ梅の香ぞする




殷富門院大輔


誰れとなくとはぬぞつらき梅の花あたら匂を獨り詠めて




正三位家隆


いくさとか月の光も匂ふらむ梅咲く山のみねのはるかぜ




後京極攝政前太政大臣

春の歌とてよみ侍りける


難波津に咲くやむかしの梅の花今も春なるうら風ぞふく




覺延法師

守覺法親王の家の五十首の歌よみ侍りけるに


春のよの月にむかしや思ひ出づる高津の宮に匂ふ梅かも




皇太后宮大夫俊成


梅が香も身にしむ頃は昔にて人こそあらね春のよのつき




大貳三位

高陽院の梅の花を折りて遣して侍りければ


いとゞしく春の心の空なるに又花の香を身にぞしめつる




宇治前關白太政大臣

返し


空ならば尋ねきなまし梅の花まだ身にしまぬ匂とぞみる




前關白

家の百首の歌に夜梅といふ心をよみ侍りける


梅が香も天ぎる月にまがへつゝそれともみえず霞む頃哉




宜秋門院丹後

後京極攝政の家の歌合に曉霞をよみ侍りける


春の夜のおばろ月夜やこれならむ霞にくもる有明のそら




權中納言師時

百首の歌奉りけるとき歸鴈をよめる


歸るらむ行方もしらず鴈が音のかすみの衣たち重ねつゝ




大納言師氏

題志らず


久かたのみどりの空の雲間より聲もほのかに歸る鴈がね




前大納言資賢


立ち返り天の戸わたる鴈がねは羽風に雲の波やかへらむ




讀人志らず


白妙の浪路わけてや春はくる風ふくまゝに花もさきけり




藤原基俊

中納言の家なる歌合し侍りけるに山寒花遲といへる心をよみて遣しける


みよしのゝ山井の氷柱結べばや花の下ひも遲くとくらむ




修理大夫顯季

題志らず


霞しく木のめはるさめふる ごとに花の袂はほころびにけり


權中納言長方


花ゆゑにふみならすかなみ吉野の吉野の山の岩のかげ道




久我太政大臣

寛治七年三月十日白河院北山の花 [3]御覽じおはにしましける日處々尋花といへる心をよませ給うけるに

山櫻かたもさだめずたづぬれば花よりさきにちる心かな




右衞門督基忠


春は唯ゆかれぬ里ぞなかりける花の梢を志るべにはして




皇太后宮大夫俊成

崇徳院近衛殿に渡らせ給ひて遠尋山花といふ題を講ぜられ侍りけるによみ侍りける


面影に花の姿をさきだてゝいくへこえきぬ峯の志らくも




後京極攝政前太政大臣

家に花の五十首の歌よませ侍りける時


昔たれかゝる櫻のたねをうゑて吉野を春の山となしけむ




寂蓮法師


いかばかり花さきぬらむよしの山霞にあまる峯の志ら雲




藤原成宗

おなじ家に女房の百首の歌講じ侍りける日五首の歌よみ侍りけるに


花なれや外山の春のあさぼらけあらしにかをる峯の白雲




入道前太政大臣

家に三十首の歌よみ侍りけるに、花の歌


志ら雪の八重山ざくら咲きにけり所もさらぬ春の明ぼの




式子内親王

百首の歌に


高砂のをのへの櫻尋ぬればみやこのにしきいくへ霞みぬ





霞みぬるたかまの山のしら雲は花かあらぬか歸る旅びと




前關白

家の歌合に雲間花といへる心をよみ侍りける


まがふとも雲とは分かむ高砂のをのへの櫻色かはりゆく




關白左大臣


立ちまよふよし野の櫻よきてふけ雲にまたるゝ春の山風




典侍因子


さかぬまぞ花ともみえし山櫻おなじたかねにかゝる白雲




中宮少將


絶々にたなびく雲のあらはれてまがひもはてぬ山櫻かな




後徳大寺左大臣

文治六年女御入内の屏風に


花盛わきぞかねつるわが宿は雲の八重たつ峯ならねども




後京極攝政前太政大臣

家に百首の歌よませ侍りけるに


春はみな同じ櫻となりはてゝ雲こそなけれみよし野の山




俊惠法師

清輔朝臣の家に歌合し侍りける、花の歌


みよしのゝ花の盛としりながらなほしら雲と誤たれつゝ




皇太后宮大夫俊成

正治二年百首の歌奉りける、春の歌


雲やたつ霞やまがふ山ざくら花よりほかも花とみゆらむ




正三位家隆

千五百番歌合に


けふみれば雲も櫻もうづもれて霞かねたるみよし野の山




[1] A character here is illegible. Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads 青柳の糸.

[2] SKT reads 霞たなびく.

[3] SKT reads 御覧じにおはしましける.




新勅撰和歌集卷第二
春歌下

光孝天皇御製

みこに坐しましける時の御歌


山櫻立ちのみかくす春霞いつしかはれてみるよしもがな




山邊赤人

題志らず


かみさびてふりにし里にすむ人は都に匂ふ花をだにみず




貫之


梓弓はるの山べにゐる時はかざしにのみぞ花は散りける




源重之


色寒み春やまだこぬと思ふまで山の櫻をゆきかとぞみる




橘俊綱朝臣

山花未落といへる心をよみ侍りける


まだちらぬ櫻なりけり古郷のよしのゝ山のみねのしら雲




和泉式部

月のあかき夜花にそへて人に遣しける


いづれ共わかれざりけり春のよは月こそ花の匂なりけれ




藤原顯仲朝臣

尋花遠行といふ心をよみ侍りける


かへりみる宿は霞にへだゝりて花の所にけふもくらしつ




百首の歌奉りける時


高砂の麓の里はきえなくに尾上のさくらゆきとこそみれ




權中納言俊忠

堀川院の御時女房東山の花尋ねに遣しける時よみ侍りける


けふこずば音羽の櫻いかにぞとみる人 ごとに問はまし物を


權中納言師時


立ちかへり又やとはまし山風に花ちる里の人のこゝろを




藤原教兼朝臣


駒なべて花のありかを尋ねつゝよもの山べの梢をぞ見る




讀人志らず

その日逢坂こえて尋ね侍りけるに花山のほどに誰ともしらぬ女車の花を折りかざして侍りける道のかたはらに立ちて上達部の車にさしいれさせ侍りける


朝まだき尋ねぞきつる山ざくらちらぬ梢の花のしるべに




權中納言國信

同じ御時中宮の女房花みに遣しける日花爲春友といへる心をよみ侍りける


花さかぬ外山の谷の里人にとはゞや春をいかゞくらすと




中納言實隆

同じ御時鳥羽殿に行幸の日池上花といへる心をよませ給ひけるに


櫻花うつれる池の影みれば波さへけふはかざし折りけり




基俊

法性寺入道前關白の家にて雨中花といへる心をよみ侍りける


やま櫻袖の匂やうつるとて花のしづくに立ちぞぬれぬる




讀人志らず

寛平の御時きさいの宮の歌合の歌


春ながら年は暮れなむ散る花を惜しと鳴くなる鶯のこゑ





色深くみる野べだにも常ならば春はすぐ共形見ならまし




貫之

延喜六年月次の御屏風、三月田返す所


山田さへ今は作るをちる花のか ごとは風におほせざらなむ


大貳三位

左兵衛督朝任花見にまかるとて文遣して侍りける返しに


誰もみな花の盛は散りぬべきなげきのほかの歎やはする




大納言師忠

後冷泉院の御時月前落花といへる心をよませ給ひけるに


春のよの月もくもらでふる雪は梢にのこる花やちるらむ




六條入道前太政大臣

建暦二年の春内裏に詩歌を合せられ侍りけるに山居春曙といへる心をよみ侍りける


月影の梢にのこる山の端にはなもかすめる春のあけぼの




權中納言定家


名も志るし峯の嵐も雪とふる山さくらどをあけぼのゝ空




藤原行能朝臣

暮山花といへる心をよみ侍りける


あすもこむ風靜かなるみ吉野の山の櫻はけふ暮れぬとも




後京極攝政前太政大臣

五十首の歌奉りけるに花下送日といへる心を


故郷のあれまく誰か惜むらむわが世へぬべき花の陰かな




關路花


相坂の關ふみならすかち人の渡れどぬれぬ花のしらなみ




西行法師

題志らず


風吹けば花の白浪岩こえてわたりわづらふ山がはのみづ





哀わがおほくの春の花をみて染めおく心たれにつたへむ




權中納言長方


春風のやゝふくまゝに高砂のをのへにきゆるはなの白雲




右衞門督爲家

前關白の家の歌合に雲間花といへる心をよみ侍りける


立ち殘す梢もみえず山櫻はなのあたりにかゝる志らくも




藤原隆祐


葛城や高嶺の雲をにほひにてまがひし花の色ぞうつろふ




中宮但馬


たづねばや嶺の白雲晴れやらでそれともみえぬ山櫻かな




大納言定通

建暦二年大内の花のもとにて三首の歌仕うまつりけるに


歸るさの道こそ知らね櫻花ちりのまがひにけふは暮しつ




源師光

太宰大貳重家歌合し侍りけるに花をよめる


櫻花年の一とせ匂ふともさてもあかでやこの世つきなむ




鎌倉右大臣

題志らず


櫻花ちらばをしけむ玉ほこの道行ぶりに折りてかざゝむ




内大臣


さもこそは春は櫻の色ならめ移りやすくも行く月日かな




參議雅經


春の夜の月も有明になりにけりうつろふ花に詠せしまに




藤原行能朝臣


うつろへば人の心ぞあともなき花のかたみは峯の志ら雲




藤原信實朝臣


山櫻咲きちる時の春をへてよはひも花のかげにふりにき




殷富門院大輔


櫻花ちるを哀といひ/\ていづれの春にあはじとすらむ




前大僧正慈圓

花の歌よみ侍りけるに


花ゆゑにとひくる人の別まで思へばかなしはるの山かぜ





ちる花の故郷とこそなりにけれわが住む宿の春の暮がた




後京極攝政前太政大臣


花はみな霞の底にうつろひて雲に色づくをはつせのやま





高砂の尾上の花に春暮れてのこりし松のまがひ行くかな




入道前太政大臣

建保六年内裏の歌合に、春の歌


恨むべき方こそなけれ春風のやどり定めぬ花のふるさと




權大納言公實

題志らず


山櫻春の形見にたづぬればみるひとなしに花ぞちりける




按察使兼宗

後京極攝政の家の歌合に遲日をよみ侍りける


斧のえもかくてや人はくたしけむ山ぢ覺ゆる春の空かな




周防内侍

堀川院の御時あさがれひのみづに櫻の造り枝にまりをつけてさゝげ給へりけるを見てよみ侍りける


長閑なる雲居は花もちらずして春のとまりに成にける哉




正三位家隆

寛喜元年女御入内の屏風、海邊網引く所


浪風も長閑なる世の春にあひて網の浦人立たぬ日ぞなき




本院侍從

里に出でゝ侍りける頃春の山を詠めてよみ侍りける


雲ゐにもなりにけるかな春山の霞立ち出でゝ程やへぬ覽




大江千里

歳時春尚少といへる心をよみ侍りける


年月に増る時なしと思へばや春しも常にすくなかるらむ




二條院讃岐

千五百番歌合に


春の夜の短きほどをいかにして八聲の鳥の空に志るらむ




入道前太政大臣

春の暮の歌


白雲にまがへし花はあともなし彌生の月ぞ空にのこれる




貫之

亭子院の歌合に


散りぬともありとたのまむ櫻花春は果てぬと我に知すな




讀人志らず

參議顯實が家の歌合に


みぬ人にいかゞ語らむくちなしのいはでの里の山吹の花




皇太后宮大夫俊成

故郷山吹といへる心をよみ侍りける


ふりぬとも芳野の宮は川きよみ岸の山吹かげもすみけり




鎌倉右大臣

題志らず


玉藻刈るゐでの志がらみ春かけて咲くや川瀬の山吹の花




入道二品親王道助

暮春の心を


忘れじな又こむ春をまつの戸に明けくれ馴れし花の面影





花散りてかたみ戀しきわが宿にゆかりの色の池の藤なみ




俊頼朝臣

雨中藤花といへる心をよみ侍りける


雨ふれば藤のうらばに袖かけて花に萎るゝ我身と思はむ




嘉陽門院越前

五十首の歌奉りけるに


吉野河たぎつ岩ねの藤の花手折りてゆかむ波はかくとも




前關白

百首の歌の、春の歌


立ちかへる春の色とはうらむともあすや形見の池の藤浪




關白左大臣

家に百首の歌よみ侍りける暮春の歌


なれきつる霞の衣立ち別れ我をばよそにすぐるはるかな




内大臣


けふのみとをしむ心もつきはてぬ夕ぐれかぎる春の別に




皇太后宮大夫俊成

久安百首の歌奉りける時三月盡の歌


行く春の霞の袖を引きとめて志をるばかりや恨かけまし




新勅撰和歌集卷第三
夏歌

相模

題志らず


霞だに山路に志ばし立ち止れ過ぎにし春の形見ともみむ




二條太皇太后宮大貳

夏衣たちかへてける今日よりはやま時鳥ひとへにぞ待つ





二條院皇后宮常陸

夏のはじめの歌とてよみ侍りける


今日はまづいつしか來鳴け郭公はるの別も忘るばかりに




前關白

家の百首の歌に首夏の心をよみ侍りける


けふよりは浪にをりはへ夏衣ほすや垣根のたまがはの里




讀人志らず

題志らず


千早振賀茂の卯月になりにけりいざ打群れて葵かざゝむ




後徳大寺左大臣

文治六年女御入内の屏風に


幾返りけふのみあれにあふひ草頼をかけて年のへぬらむ




權中納言定家

寛喜元年女御入内の屏風に


久方のかつらにかくるあふひ草空の光にいくよなるらむ




讀人志らず

中納言行平の家の歌合に


すむ里は忍のもりの時鳥この志たこゑぞ志るべなりける




田原天皇御製

題志らず


神なびのいはせの森の郭公ならしの岡にいつかきなかむ




祐子内親王家紀伊


聞きてしも猶ぞまたるゝ時鳥なく一聲にあかぬこゝろは




法性寺入道前關白太政大臣

時鳥の歌十首よみ侍りけるに


よしさらばなかでもやみね時鳥きかずば人もわする計に




大藏卿行宗

題志らず


いつのまに里なれぬらむ時鳥けふを五月の始とおもふに




參議雅經

建保六年内裏の歌合、夏の歌


郭公なくやさ月の玉くしげ二こゑ聞きて明くる夜もがな




前關白

寛喜元年女御入内の屏風、五月沼江菖蒲宴の所


深き江にけふあらはるゝ菖蒲草年のをながき例にぞ引く




入道前太政大臣


幾千世といはがき沼の菖蒲草ながき例にけふやひかれむ




讀人志らず

寛平の御時きさいの宮の歌合の歌


おしなべてさ月の空をみわたせば水も草葉も緑なりけり




貫之

題志らす


郭公こゑきゝしより菖蒲草かざす五月と知りにしものを




正三位家隆

時鳥の歌よみ侍りけるに


ほとゝぎす去年宿かりし古里の花たちばなに皐月忘るな




祝部成茂


今ははやかたらひつくせ郭公ながなく比の皐月きぬなり




源師賢朝臣

白河院の御時うへのをのこどもきさいの宮の御方にくだ物申しけるたまふとて上に花橘を折りておかれたりける箱のふた返しまゐらすとてよみ侍りける


郭公こよひ何處にやどるらむ花たちばなを人にをられて




康資王母

返し


ほとゝぎすはな橘の宿かれて空にや草のまくらゆふらむ




大炊御門右大臣

久安百首の歌奉りけるに、夏の歌


覺束なたれ杣やまの時鳥とふになのらですぎぬなるかな




皇太后宮大夫俊成


さらぬだにふす程もなき夏の夜をまたれても鳴く郭公哉




右兵衛督公行

十首の歌奉りける時


小夜ふかみ山郭公名のりして木の丸どのを今ぞ過ぐなる




後徳大寺左大臣

文治六年女御入内の屏風に


時鳥雲の上よりかたらひてとはぬになのるあけぼのゝ空




右衛門督爲家

寛喜元年十一月女御入内の屏風に郭公をよみ侍りける


永き日の杜のしめ繩くり返しあかず語らふほとゝぎす哉




權中納言長方

故郷郭公といへる心をよみ侍りける


あれにけるたか津の宮の時鳥たれとなにはの事語るらむ




皇太后宮大夫俊成

後法性寺入道前關白百首の歌よませ侍りける時五月をよめる


降初めて幾日になりぬ鈴鹿川やそせも志らぬ五月雨の比




後徳大寺左大臣

五月雨をよみ侍りける


五月雨にむつ田のよどの河柳うれこす波や瀧のしらいと




六條入道前太政大臣

五月雨にいせをの海士の藻汐草ほさでも頓て朽ぬべき哉





前右近中將資盛


五月雨の日をふる儘にひまぞなき蘆の志のやの軒の玉水




左近中將公衡


さみだれの比もへぬればさはだ川袖つく計淺き瀬もなし




源家長朝臣


うちはへていく かへぬる夏引の手引の糸の五月雨の空


春宮權大夫良實

題志らず


橘のしたふく風や匂ふらむむかしながらのさみだれの空




藤原光俊朝臣

一本關白左大臣の家の百首の歌よみ侍りけるに


五月雨の空にも月は行くものを光みねばや志る人のなき




相摸

宇治入道前關白の家の歌合に


五月は雨あかでぞすぐる郭公夜深く鳴きし初音ばかりに




前大僧正慈圓

題志らず


郭公きゝつとや思ふ五月雨の雲のほかなるそらの一こ志




橘俊綱朝臣

時鳥の歌あまたよみ侍りけるに


ほとゝぎす聞くともなしに足引の山路に歸る明ぼのゝ聲




源師賢朝臣


たが里にまたできつらむ時鳥こよひばかりの五月雨の聲




後京極攝政太政大臣

百首の歌に


郭公いま幾夜をか契るらむおのが五月のありあけのころ




祐盛法師

前中納言師仲五月の晦日人々さそひて右近の馬場に罷りて郭公まち侍りけるに


今日ことに聲をばつくせ時鳥おのがさ月も殘りやはある




權中納言師時

堀川院の御時きさいの宮にて閏五月郭公といふ心をよみ侍りける


雲路よりかへりもやらず時鳥猶さみだるゝ空のけしきに




俊頼朝臣

題志らず


やよや又きなけみ空の時鳥五月だにこそをちかへりつれ




覺盛法師


みな月の空ともいはじ夕立のふるからをのゝならの下影




讀人志らず


草ふかきあれたるやどの燈火の風に消えぬは螢なりけり




入道二品親王道助

家に五十首の歌よみ侍りけるに、江螢


しら露の玉江のあしのよひ/\に秋風ちかく行く螢かな




參議雅經


難波めがすくも焚く火の深き江に上にもえても行く螢哉




祭主輔親

法成寺入道前攝政の家の歌合に


夏の夜の雲路は遠くなりまされ傾ぶく月のよるべなき迄




正三位顯家

夏月をよみ侍りける


夜もすがら宿る清水の凉しさに月も夏をやよそにみる覽




如願法師

題志らず


明けぬるか木間もりくる月影の光もうすき蝉のはごろも




藤原實方朝臣

石山にて曉ひぐらしの鳴くを聞きて


葉を志げみ外山の陰やまがふらむ明くるも志らぬ蜩の聲




正三位知家

寛喜元年女御入内の屏風、杜邊山井流水ある所


夕ぐれは夏より他をゆく水のいはせの森のかげぞ凉しき




正三位家隆

海邊松下行人納凉の所


夏衣ゆくてもすゞしあづさ弓いそべの山の松のしたかぜ




後京極攝政前太政大臣

六月祓の心をよみ侍りける


早き瀬の歸らぬ水に御秡してゆく年波のなかばをぞしる




前關白

寛喜元年女御入内の屏風


吉野川かは浪早く御秡して志らゆふ花のかずまさるらし




正三位家隆


風そよぐならの小河の夕暮は御祓ぞ夏の志るしなりける




新勅撰和歌集卷第四
秋歌上

曾禰好忠

初秋の心をよみ侍りける


久方の岩戸の關もあけなくに夜半にふき志く秋のはつ風




大納言師氏


鵲のゆきあひの橋の月なれば猶わたすべき日こそ遠けれ




大納言師頼


昨日には變るとなしに吹く風の音にぞ秋は空に志らるゝ




西行法師

題志らず


玉にぬく露はこぼれてむさしのゝ草の葉むすぶ秋の初風




正三位家隆


暮行かば空の氣色もいかならむ今朝だにかなし秋の初風




右衞門督爲家


音たてゝいまはた吹きぬわが宿の荻の上ばの秋のはつ風




藤原資季朝臣

うへのをのこども初秋の心をつかうまつりけるに


足引の山志た風のいつのまに音ふきかへて秋はきぬらむ




關白左大臣

家に百首の歌よみ侍りけるに早秋の心を


夏すぎてけふや幾日になりぬらむ衣手すゞし夜はの秋風




内大臣


天つ風そら吹き迷ふ夕ぐれの雲のけしきに秋はきにけり




藤原信實朝臣


よる浪の凉しくもあるか志きたへの袖師の裏の秋の初風




宜秋門院丹後

千五百番歌合に


眞葛原うらみぬ袖の上までも露おきそむる秋はきにけり




菅原在良朝臣

法性寺入道前關白中納言中將に侍りける時山家早秋といへる心をよませ侍りけるに


山里は葛のうら葉をふき返す風のけしきに秋をしるかな




土御門内大臣

殷富門院大輔三輪の社にて五首の歌人々によませ侍りけるに、秋の歌


秋といへば心の色もかはりけり何故としも思ひそめねど




[4]曾彌好忠

題志らず


櫻麻のかりふの原を今朝みればと山かたかけ秋風ぞ吹く




鎌倉右大臣


ゆふぐれは衣手すゞし高圓のをのへの宮の秋のはつかぜ





ひこぼしのゆきあひをまつ久方の天の河原に秋風ぞ吹く




殷富門院大輔


鵲のよりはの橋をよそながら待渡る夜になりにけるかな




法印猷圓


天の川わたらぬさきの秋風に紅葉の橋のなかやたえなむ




崇徳院御製

百首の歌めしける時


天の川八十瀬の浪もむせぶらむ年まち渡るかさゝぎの橋




藤原敦仲

清輔朝臣の家に歌合し侍りけるに七夕の心をよみ侍りける


あまの河うきつの波に彦星のつまむかへ舟今やこぐらし




前中納言基長

後三條院の御時上のをのこども齋院にて七夕の歌よみ侍りけるに


思へ共つらくもある哉七夕のなどか一夜と契りそめけむ




菅原在良朝臣

法性寺入道前關白の家にて七夕の心をよみ侍りける


天の川ほしあひの空もみゆ計たちなへだてそ夜はの秋霧




權大納言經輔

宇治入道前關白の家にて七夕の歌よみ侍りけるに


織女のわが心とやあふことを年に一たびちぎりそめけむ




正三位家隆

百首の歌よみ侍りける、秋の歌


草の上の露とるけさの玉章に軒端のかぢは元つ葉もなし




權中納言伊實

七夕後朝の心をよみ侍りける


七夕の天の川浪立ちかへりこの暮ばかりいかでわたさむ




藤原清輔朝臣


天の川みづかげ草におく露やあかぬわかれの涙なるらむ




八條院高倉


むつ ごともまだつきなくに秋風に七夕つめや袖ぬらすらむ


前大納言隆房


たまさかに秋の一夜をまちえても明くる程なき星合の空




式子内親王

百首の歌の中に


秋といへば物をぞ思ふ山のはにいざよふ雲の夕ぐれの空




二條院讃岐


今よりの秋の寐覺をいかに共荻のはならで誰かとふべき




入道二品親王道助

秋の歌とてよみ侍りけるに


荻のはに風の音せぬ秋もあらば涙のほかに月はみてまし




入道前太政大臣


をぎのはにふきと吹きぬる秋風の涙さそはぬ夕暮ぞなき




相模

題しらず


いかにして物思ふ人の住かには秋よりほかの里を尋ねむ




大納言師氏


志ら露と草葉におきて秋のよを聲もすがらにあくる松虫




左近中將公衡

秋の歌とてよみ侍りけるに


よひ/\の山のはおそき月影をあさぢが露に松虫のこゑ




藤原教雅朝臣


かれはてゝ後は何せむあさぢふに秋こそ人を松虫のこゑ




權中納言隆親

うへのをのこども隣庭萩といへる心をつかうまつりけるに


へだて來し宿のあしがきあれはてゝ同じ庭なる秋萩の花




讀人志らず

題志らず


白露のおり出す萩の下紅葉ころもにうつる秋はきにけり





この比の秋風さむみ萩の花ちらす志ら露おきにけらしも





飛鳥河往來の岡の秋はぎはけふ降る雨にちりか過ぎなむ




柿本人丸


志ら露と秋の花とをこきまぜてわく ことかたきわが心かな


祐子内親王家小辨


さを志かの聲聞ゆなり宮城野のもとあらの小萩花盛かも




大藏卿行宗

白河院にて野草露繁といへる心ををのこども仕うまつりけるに


狩衣萩の花ずり露ふかみうつろふいろにそぼちゆくかな




鎌倉右大臣

家に秋の歌よませ侍りけるに


道のべの小野の夕霧立ちかへりみてこそ行かめ秋萩の花





古里の本荒の小萩いたづらにみる人なしに咲きかちる覽




藤原基綱


白すげのまのゝ萩原咲しより朝立つ鹿のなかぬ日はなし




權中納言師時

雲居寺の瞻西上人歌合し侍けるに


未明たをらでをみむ萩の花うは葉の露のこぼれもぞする




按察使公通

權中納言經定歌合し侍りけるによみて遣しける


女郎花志め結ひ置きしかひもなく靡きに鳬な秋の野風に




二條院讃岐

題志らず


尋ねきて旅寐をせずば女郎花獨や野べにつゆけからまし




讀人志らず

菅家萬葉集の歌


名にしおはゞ強ひてたのまむ女郎花人の心の秋はうく共




三條右大臣

式部卿敦慶のみこの家に人々まうできて遊びなむどし侍りけるに女郎花をかざしてよみ侍りける


をみなへし折る手にかゝる白露は昔のけふにあらぬ涙か




左京大夫顯輔

久安百首の歌奉りける時、秋の歌


わぎもこが裾野に匂ふふぢ袴露は結べどほころびににけり




權中納言長方

題志らず


さらずとてたゞにはすぎじ花薄まねかで人の心をもみよ




參議雅經


花薄くさの袂をかりぞなくなみだの露やおきどころなき




源具親朝臣


心なき草のたもとも花ずゝき露ほしあへぬ秋はきにけり




藤原信實朝臣

閑庭薄といへる心をよみ侍りける


まねけとてうゑし薄の一本にとはれぬ庭ぞ茂りはてぬる




藤原成宗

閑庭荻をよめる


いく秋の風のやどりとなりぬらむ跡たえはつる庭の荻原




前大僧正慈圓

題志らず


主はあれど野となりにける籬かな小萱が下に鶉なくなり




讀人志らず


おぼつかな誰とか知らむ秋霧のたえまにみゆる朝顔の花




後京極攝政太政大臣

月の歌あまたよみ侍りけるに


白雲の夕ゐるやまぞなかりける月をむかふる四方の嵐に




大炊御門右大臣

權中納言經定、中將に侍りける時歌合し侍りけるによみて遣はしける、月の歌


天つ空うき雲はらふ秋風にくまなくすめる夜はの月かな




正三位家隆

題志らず


さらしなや姨捨山のたかねより嵐を分けていづる月かげ




源公忠朝臣

延喜の御時八月十五夜月の宴の歌


古もあらじとぞ思ふ秋のよの月のためしは今宵なりけり




權中納言定家

養和の比ほひ百首の歌よみ侍りし、秋の歌


天の原思へばかはる色もなし秋こそ月のひかりなりけれ




關白左大臣

家に百首の歌よみ侍りける、月の歌


あしびきの山の嵐に雲きえてひとり空ゆく秋の夜のつき




藤原資季朝臣

月の歌とてよみ侍りける


見るまゝに色變りゆく久方の月のかつらの秋のもみぢ葉




寐超法師

八月十五夜よみ侍りける


天つ空こよひの名をや惜むらむ月にたなびく浮雲もなし




寂蓮法師


數へねど秋の半ぞ志られぬる今夜に似たる月しなければ




權中納言定家

後京極攝政、左大將に侍りける時月の五十首の歌よみ侍りけるによめる


あけば又秋の半も過ぎぬべし傾ぶく月の惜しきのみかは




左近中將基良

月の歌よみ侍りけるに


山の端のつらさばかりや殘るらむ雲より外にあくる月影




權律氏公猷


いづくにか空ゆく雲の殘るらむ嵐まち出づる山のはの月




中原師季


待ちえても心やすむる程ぞなき山のはふけて出づる月影




眞昭法師


袖のうへに露おきそめし夕よりなれていく夜の秋の月影




藤原頼氏朝臣

關白左大臣の家の百首の歌よみ侍りける、月の歌


わけぬるゝ野原の露の袖の上にまづ志る物は秋の夜の月




正三位家隆

入道二品親王の家に、五十首の歌よみ侍りけるに、山家月


松の戸をおし明方の山かぜに雲もかゝらぬ月をみるかな




後京極攝政前太政大臣

文治六年女御入内の屏風に、駒迎の所


あづまよりけふ相坂の山こえて都にいづるもち月のこま




小侍從

和歌所の歌合に海邊秋月といへる心をよみ侍りける


沖つ風ふけひのうらによる浪の夜ともみえず秋のよの月




前關白

百首の歌に、月の歌


むら雲の峯にわかるゝ跡とめて山のはつかに出づる月影




御製

うへのをのことも海邊月といへる心をつかうまつりける次でに


わかの浦芦べのたづのなく聲に夜わたる月の影ぞ寂しき




正三位家隆

秋の歌奉りけるに


須磨の蜑の間遠の衣よや寒きうら風ながら月もたまらず




藤原光俊朝臣

名所月をよめる


明石潟あまのたく繩くるゝより雲こそなけれ秋の月かげ




權中納言宗通

白河院鳥羽殿におはしましけるに田家秋興といへる心ををのこども仕うまつりけるに


賤の男の門田の稻の假にきてあかでもけふを暮しつる哉




藤原道信朝臣

題志らず


最ど志く物思ふやどを霧こめて眺むる空もみえぬけさ哉




前大僧正慈圓


夜はにたくかひやが煙立ちそひて朝霧ふかし小山田の原





藻鹽やく煙もきりに埋もれぬすまのせきやの秋の夕ぐれ




正三位知家

海霧といへる心を


煙だにそれともみえぬ夕霧に猶志たもえの蜑のもしほ火




正三位家隆

題志らず


ふみわけむ物ともみえず朝ぼらけ竹のは山の霧のした露




西行法師


をぐら山麓をこむる夕霧にたちもらさるゝさを志かの聲




[4] SKT reads 曾禰.




新勅撰和歌集卷第五
秋歌下

讀人志らず

寛平の御時きさいの宮の歌合の歌


秋の夜のあまてる月の光にはおくしら露を玉とこそみれ




能因法師

九月十三夜の月をひとり眺めて思ひ出で侍りける


さらしなやをば捨山に旅寐してこよひの月を昔みしかな




小野小町

題志らず


秋の月いかなる物ぞわが心何ともなきにいねがてにする




選子内親王家宰相

九月月あかき夜よみ侍りける


秋のよの露おきまさる草村にかげうつりゆく山のはの月




道信朝臣

隈なき月を眺めあかしてよみ侍りける


いつとなく詠めはすれど秋のよのこの曉は ことにもある哉


菅原在良朝臣

對月惜秋といへる心をよみ侍りける


月ゆゑに長き夜すがら詠むれどあかずも惜しき秋の空哉




侍從具定母

秋の歌よみ侍りけるに


うき世をも秋の末葉の露の身におきどころなき袖の月影




按察使兼宗


有明の月の光のさやけさはやどすくさ葉の露やおきそふ




左近中將伊平


三室山した草かけておく露に木のまの月の影ぞうつろふ




後京極攝政前太政大臣

百首の歌の中に


槇の戸のさゝで有明になりゆくを幾夜の月ととふ人もなし




參議雅經

建保二年秋の歌奉りける時


身を秋の我世や痛くふけぬ覽月をのみやは待となけれど




正三位家隆


限あれば明けなむとする鐘の音に猶長き夜の月ぞ殘れる




權大僧都有果

入道二品親王の家にて秋月の歌よみ侍りけるに


風さむみ月は光ぞまさりける四方の草木の秋のくれがた




小侍從

後京極攝政百首の歌よませ侍りけるに


いくめぐり過行く秋にあひぬらむ變らぬ月の影を眺めて




八條院六條


秋の夜は物思ふ ことのまさりつゝいとゞ露けきかたしきの袖


京極前關白家肥後

秋の夜人々もろ共に起きゐて物語し侍りけるに


秋の夜を明かしかねては曉の露とおきゐてぬるゝ袖かな




右衛門督爲家

うへのをのこども秋十首の歌つかうまつりけるに


片岡の杜の木の葉も色付ぬわさ田のをしね今やからまし




讀人志らず

寛平の御時きさいの宮の歌合の歌


唐衣ほせど袂のつゆけきはわが身の秋になればなりけり




人丸

題志らず


秋田もるひたの庵に時雨ふりわが袖ぬれぬほす人もなし




躬恒


秋深き紅葉の色のくれなゐにふり出つゝ鳴く鹿の聲かな




俊子

兵部卿元良の御子しがの山越の方に時々かよひ住み侍りける家をみにまかりて書き付け侍りける


狩にのみくる君待つと振出つゝ鳴く志賀山は秋ぞ悲しき




中納言家持

題志らず


秋萩の移ろふをしとなく鹿のこゑ聞く山は紅葉しにけり




鎌倉右大臣


雲のゐる梢はるかに霧こめて高師のやまに鹿ぞ鳴くなる




前大僧正慈圓


むべしこそ此頃ものは哀なれ秋ばかりきくさをしかの聲




前參議經盛

歌合し侍りけるに鹿をよみ侍りける


峯になく鹿の音近く聞ゆなり紅葉吹きおろす夜はの嵐に




八條院高倉

建保六年内裏の歌合、秋の歌


我庵は小倉の山の近ければ憂世をしかとなかぬ日ぞなき




權中納言實守

鹿の歌とてよみ侍りける


大江山遙におくる鹿の音はいく野をこえて妻をこふらむ




六條入道前太政大臣

建保五年四月庚申五首の歌、秋朝


大かたの秋をあはれと鳴く鹿の涙なるらし野べのあさ露




正三位知家

澗底鹿といふ心をよみ侍りける


さを鹿のあさ行く谷の埋れ水影だにみえぬ妻をこふらむ




如願法師

題志らず


さを鹿の鳴く音もいたく更けにけり嵐の後の山のはの月




大貳三位

後冷泉院御子の宮と申しける時梨壺の御前の菊面白かりけるを月あかき夜いかゞと仰せられければ


いづれをかわきて折るべき月影に色みえまがふ白菊の花




權大納言長家

旦に參りて侍りけるに此歌の返しつかうまつるべきよし仰せられければよみ侍りける


月影に折りまどはるゝ白菊は移ろふ色やくもるなるらむ




天暦御製

康保三年内裏の菊合に


かげ見えて汀にたてる白菊はをられぬ浪の花かとぞみる




右兵衛督公行

崇徳院月照菊花といふ心をよませ給うけるに


月かげに色もわかれぬ白菊は心あてにぞ折るべかりける




按察使公通


月影もかをるばかりをしるしにて色はまがひぬ白菊の花




鎌倉右大臣

月前菊といふ心をよみ侍りける


ぬれて折る袖の月かげふけにけり籬の菊の花のうへの露




入道二品親王道助

題志らず


わが宿の菊のあさ露色もをしこぼさでにほへ庭の秋かぜ




權大納言忠信

秋の歌よみ侍りけるに


なく/\も行きてはきぬる初雁の涙の色をしる人ぞなき




鎌倉右大臣


渡の原八重のしほ路にとぶ雁のつばさの浪に秋風ぞ吹く




如願法師


月になく雁の羽風のさゆる夜に霜をかさねてうつ衣かな




眞昭法師


嵐ふく遠山がつのあさ衣ころも夜さむのつきにうつなり




曾禰好忠

擣衣の心をよみ侍りける


衣うつ砧のおとをきくなべに霧立つそらに雁ぞ鳴くなる




貫之


から衣うつ聲きけば月きよみまだ寐ぬ人を空にしるかな




皇太后宮大夫俊成

久安百首の歌奉りける秋の歌


衣うつ響は月のなになれや冴えゆく儘にすみのぼるらむ




入道前太政大臣

百首の歌奉りける秋の歌


風さむき夜はの寐覺のとことはになれても寂し衣うつ聲




前大納言隆房


今こむと頼めし人やいかならむ月になく/\衣うつなり




承明門院小宰相

題志らず


月のいろも冴えゆく空の秋風にわが身ひとつと衣うつ なり


後京極攝政前太政大臣

月五十首の歌よみ侍りけるに


獨寐の夜さむになれる月みれば時しもあれや衣うつこゑ




權大納言家良

秋の歌よみ侍りけるに


しろたへの月の光におく霜をいく夜かさねて衣うつらむ




正三位家隆


白妙のゆふつけ鳥も思ひわびなくや立田の山のはつしも




建保六年内裏の歌合、秋の歌


手向山紅葉の錦ぬさあれど猶ほ月かげのかくるしらゆふ




前關白

百首の歌の中に、秋の歌


置きまよふ篠のは草の霜の上によをへて月の冴え渡る哉




正三位家隆

千五百番歌合に


秋の嵐吹きにけらしな外山なる柴の下草いろかはるまで




藤原信實朝臣

題志らず


日をへては秋風寒みさを鹿のたちのゝ眞弓紅葉しにけり




入道前太政大臣

百首の歌奉りけるに、秋の歌


秋の色の移ろひ行くを限とて袖に時雨のふらぬ日はなし




參議雅經


秋の行く野山の淺茅うら枯れて峰に分るゝ雲ぞしぐるゝ




鎌倉右大臣

題志らず


雁なきて寒きあさげのつゆ霜にやのゝ神山色づきにけり




西行法師


山里は秋のすゑにぞ思ひしるかなしかりけり木枯のかぜ





限あればいかゞは色の増るべきあかずしぐるゝ小倉山哉




藤原伊光


紅のやしほの岡の紅葉ばをいかにそめよと猶しぐるらむ




内大臣

建保二年秋の歌奉りけるに


みなと川秋ゆく水の色ぞこきのこる山なく時雨ふるらし




參議雅經


足引のやまとにはあらぬ唐錦たつたの時雨いかでそむ覽




僧正行意


我宿はかつちる山の紅葉ばにあさ行く鹿の跡だにもなし




皇太后宮大夫俊成

後法性寺入道前關白の家の歌合に紅葉をよみ侍りける


志ぐれ行く空だにあるを紅葉ばの秋は暮ぬと色にみす覽




式子内親王

百首の歌の中に


秋こそあれ人は尋ねぬ松の戸を幾重もとぢよ鳶の紅葉ば




權中納言定家

關白左大臣の家の [5]百首○よみ侍りけるに

時雨つゝ袖だにほさぬ秋の日にさ杜三室の山は染むらめ




從三位範宗


露時雨染めはてゝけり小倉山けふやちしほの峯の紅葉ば




中宮但馬


幾年かふるの神杉志ぐれつゝ四方の紅葉に殘りそめけむ




權中納言隆親

うへのをのこども秋十首の歌つかうまつりけるに


志ぐれけむ程こそみゆれ神なびの三室の山の峯の紅葉ば




法印覺寛

題志らず


染め殘す梢もあらじむら時雨猶あかなくの山めぐりして




正三位家隆

建保四年右大臣の家の歌合故郷紅葉をよめる


故郷のみかきが原のはじもみぢ心とちらせ秋の木がらし




後法性寺入道前關白太政大臣

文治六年女御入内の屏風に


すそ野より峯の木ずゑにうつりきて盛久しき秋の色かな




後徳大寺左大臣


木のもとに又咲きかへせから錦大宮人にみまし志かせむ




權中納言經忠

左京大夫顯輔歌合し侍りけるに紅葉をよみて遣しける


嵐吹くふなぎの山の紅葉ばゝ時雨のあめに色ぞこがるゝ




關白左大臣

家に百首の歌よませ侍りけるに、紅葉の歌


龍田川みむろの山の近ければ紅葉を浪に染めぬ日ぞなき




小侍從

後京極攝政百首の歌よませ侍りけるに


おきて行く秋の形見やこれならむ見るも仇なる露の白玉




禎子内親王家攝津

秋の暮の歌


行く秋の手向の山のもみぢ葉はかたみ計やちり殘るらむ




權中納言實有


木枯の誘ひはてたる紅葉ばをかは瀬の秋と誰れ詠むらむ




參議雅經

秋はけふくれなゐくゝる立田川ゆくせの浪も色變るらむ





入道前太政大臣

九月盡によみ侍りける


明日よりは名殘を何にかこたましあひも思はぬ秋の別格




八條院高倉


すぎはてぬいづら長月名のみして短かりける秋の程かな




[5] SKT reads 百首歌.




新勅撰和歌集卷第六
冬歌

大伴池重

題志らず


神無月時雨に逢る紅葉ばのふかば散りなむ風のまに/\




相摸


いつも猶ひまなき袖を神無月濡しそふるは時雨なりけり




在原元方


わび ごとや神無月とはなりにけむ涙のごとくふる時雨かな


俊子

大納言清蔭亭子院御賀のため長月の頃俊子に申し付けて色々に營みいそぎ侍りける事過ぎにける神無月のついたち申し遣しける


千々の色に急ぎし秋は過ぎに鳬今は時雨に何を染めまし




曾禰好忠

題志らず


露ばかり袖だにぬれず神無月紅葉は雨とふりにふれども




前中納言匡房


から錦むら/\殘る紅葉ばや秋の形見のころもなるらむ




權大納言宗家


殘しおく秋のかたみのから錦たちはてつるは木枯のかぜ




右近大將通房

後朱雀院の御時うへのをのこども大井川に罷りて紅葉浮水といへる心をよみ侍りけるに中將に侍りける時


水の面に浮べる色のふかければ紅葉を浪とみつる今日哉




九條太政大臣


大井川うかぶ紅葉のにしきをば波の心にまかせてやたつ




中納言資綱

後冷泉院の御時殿上の逍遙に同じ心をよみ侍りける


紅葉ばの流れもやらぬ大井川かはせは浪の音にこそきけ




橘俊綱朝臣

白河院の御時うへのをのこども月前落葉といへる心をよみ侍りけるに


久方の月すみ渡る木がらしにしぐるゝ雨は紅葉なりけり




入道二品親道助

題志らず


木がらしの紅葉ふき志く庭の面に露も殘らぬ秋の色かな




大藏卿有家

千五百番歌合に


霜おかぬ人目も今はかれはてゝ松にとひくる風ぞ變らぬ




正三位家隆

建保五年内裏の歌合、冬山霜


かさゝぎの渡すやいづこ夕霜の雲居に志ろき峰のかけ橋




藤原信實朝臣

冬關月


須磨のうらに秋をとゞめぬ關守も殘る霜夜の月はみる覽




權中納言師俊

法性寺入道前關白内大臣に侍りける時家の歌合に


露結ぶ霜夜の數のかさなれば耐へでや菊の移ろひぬらむ




延喜御製

延喜十二年十月御前のやり水のほとりに菊植て御遊び侍りける次によませ給うける


水底にかげをうつせる菊の花浪のをるにぞ色まさりける




源公忠朝臣


おく霜に色染め返しそぼちつゝ花の盛は今日ながら見む




上東門院小少將

里に出でゝ時雨しける日紫式部に遣しける


雲間なく詠むる空もかきくらしいかに忍ぶる時雨なる覽




紫式部

返し


理りの時雨の空は雲間あれど詠むる袖ぞかわくよもなき




源師賢朝臣

山路時雨といへる心をよみ侍りける


袖ぬらす時雨なりけり神無月いこまの山にかゝるむら雲




右衛門督爲家

冬の歌よみ侍りけるに


冬きては志ぐるゝ雲の絶間だに四方の木葉のふらぬ日ぞなき




正三位知家


時雨にはぬれぬ木葉もなかり鳬山は三笠のなのみふりつゝ




源兼昌

法性寺入道前關白の家の歌合に


夕づく日いるさの山のたかねより遙にめぐる初時雨かな




藤原公重朝臣

前參議經盛歌合し侍りけるに


山のはに入日の影はさしながら麓の里は志ぐれてぞ行く




平經正朝臣


村雲の外山の峯に懸るかとみれば志ぐるゝ志がらきの里




前内大臣

建保六年内裏の歌合に冬歌


神無月志ぐれにけりなあらち山行きかふ袖も色變るまで




前大僧正慈圓

題志らず


み山木の殘りはてたる梢よりなほ志ぐるゝは嵐なりけり





月におもふ秋ののこりの夕暮に木陰ふきはらふ山颪の風




前大納言忠良


秋の色はのこらぬ山の木がらしに月の桂の影ぞつれなき




殷富門院大輔


空さむみこぼれておつる白玉のゆらぐ程なき霜がれの庭




正三位家隆


ふる里の庭の日影もさえくれてきりの落葉に霰ふるなり




千五百番歌合に


夕づく日さすがにうつる柴の戸に霰吹まく山おろしの風




兵部卿成實

百首の歌よみ侍りける冬の歌


さゆる夜はふるや霰の玉くしげみむろの山の明方のそら




前關白

建保四年百首の歌の中に、冬の歌


岩たゝく瀧津かはなみ音さえて谷の心やよざむなるらむ




式子内親王

題志らず


ふきむすぶ瀧は氷にとぢはてゝ松にぞ風の聲もをしまぬ





おちたぎつ岩きりこえし谷水も冬はよな/\ゆき惱む なり


中宮但馬

關白左大臣の家の百首の歌よみ侍りけるに氷をよめる


ねや寒き寐くたれ髮のながき夜に涙の氷むすぼゝれつゝ




西行法師

題志らず


風さえてよすればやがて氷りつゝ返る浪なき志賀の唐崎




内大臣

寛喜元年女御入内の屏風湖邊氷結


志賀の浦や氷のひまを行く船に波も道あるよとやみる覽




宜秋門院丹後

千五百番歌合に


冬の夜はあまぎる雪に空さえて雲の浪路にこほる月かげ




二條院讃岐


打ちはへて冬はさばかり長き夜に猶殘りける有明のつき




皇太后宮大夫俊成

久安百首の歌奉りける時、冬の歌


月きよみ千鳥鳴くなりおきつ風ふけひのうらの明方の空




權中納言國信

千鳥をよみ侍りける


友千鳥むれて渚にわたるなり沖の志らすに汐やみつらむ




源顯國朝臣


風ふけば難波のうらの濱千鳥あしまに浪の立居こそなけ




源具親朝臣

千五百番歌合に


小夜千どり湊吹きこす鹽風にうらより外の友さそふなり




鎌倉右大臣

題志らず


風寒み夜の更けゆけばいもが島かたみの浦に千鳥鳴く也




前關白

寛喜元年女御入内の屏風、山野雪朝


年さむき松の心もあらはれて花さくいろをみする雪かな




内大臣


あらはれて年ある御代の印にや野にも山にもつもる白雪




權中納言長方

題志らず


敷島やふるの都はうづもれてならしの岡にみ雪つもれり





宮木ひく杣山人はあともなしひばら杉はら雪ふかくして




正三位家隆


たかしまやみをの杣山あとたえて氷も雪もふかき冬かな




賀茂重政


卷もくの檜原の山も雪とぢて正木のかづらくる人もなし




西行法師

高野に侍りける時寂然法師大原に住み侍りけるに遣しける


大原は比良のたかねの近ければ雪ふる程を思ひこそやれ




刑部卿範兼

題志らず


玉椿みどりの色もみえぬまでこせの冬野は雪ふりにけり




清輔朝臣


雲居より散りくる雪は久方の月のかつらの花にやある覽




前關白

百首の歌の雪の歌


いる人のおとづれもせぬ白雪のふかき山路を出づる月影




關白左大臣


少女子の袖ふる雪の白妙によしのゝ宮はさえぬ日もなし




左京太夫顯輔

冬の月をよみ侍りける


雪ふかき吉野の山のたかねより空さへさえて出づる月影




後京極攝政前太政大臣

冬の歌とてよみ侍りける


寂しきはいつも詠めの物なれど雲間の峯の雪のあけぼの





志もとゆふ葛城山のいかならむ都も雪はまなくときなし




鎌倉右大臣


山たかみあけはなれゆく横雲のたえまにみゆる峯の白雪




正三位家隆


あけわたる雲間の星の光まで山の端さむし峯のしらゆき




八條院高倉

建保五年内裏の歌合、冬海雪


里のあまの定めぬ宿もうづもれぬよする渚のゆきの白浪




正三位家隆


わたの原やそ志ま白くふる雪のあまぎる浪にまがふ釣舟




康資王母

高陽院家歌合に


ふみ見ける鳰のあとさへをしきかな氷の上にふれる白雪




曾禰好忠

題志らず


千早ぶる神なび山のならの葉を雪ふりさけて手折る山人




基俊

堀川院に百首の歌奉りける時


奧山の松の葉志ろきふる雪は人だのめなる花にぞ有ける




入道前太政大臣

建保六年内裏の歌合に冬の歌


爪木こる山路も今やたえぬらむ里だにふかき今朝の白雪




參議雅經


かり衣すそ野もふかしはしたかのとかへる山の峯の白雪




兵部卿成實

關白左大臣の家の百首の歌よみ侍りけるに雪の歌


はし鷹のとかへる山の雪の内にそれともみえぬ峯の椎柴




中宮大夫通方

古溪雪をよみ侍りける


谷ふかみ雪のふる道跡たえてつもれる年を志る人ぞなき




前關白

家の歌合に暮山雪といへる心を


くれやすき日影も雪もひさにふる三室の山の松の下をれ




嘉陽門院越前

歌合に寒夜爐火といへる心を


板間より袖に志らるゝ山おろしにあらはれ渡る埋火の影




藤原隆信朝臣

後京極攝政の家の歌合に


いかなれば冬に志られぬ色乍ら松しも風の烈しかるらむ




鎌倉右大臣

題志らず


ものゝふの八十氏川を行く水の流れてはやき年の暮かな




入道二品親王道助

五十首の歌よませ侍りける時惜歳暮といふ心を


とゞめばや流れてはやき年なみのよどまぬ水は柵もなし




正三位家隆


つらかりし袖の別のそれならで惜むをいそぐ年の暮かな




如願法師


飛鳥川かはる淵瀬もある物をせくかた志らぬ年の暮かな




大納言師氏

題志らず


百敷の大宮人もむれゐつゝ去年とやけふを明日は語らむ




貫之


ふる雪を空に幣とぞ手向つる春のさかひに年のこゆれば




新勅撰和歌集卷第七
賀歌

前關白

貞永元年六月きさいの宮の御方にて始めて鶴契遐年といふ題を講ぜられ侍りけるに


鶴の子の又やしは子の末までも古き例をわが世とやみむ




關白左大臣


久方の天とぶ鶴の契りおきし千代の例の今日にもある哉




周防内侍

寛治八年八月高陽院の家の歌合に、月の歌


常よりも三笠の山の月かげの光さしそふあめのしたかな




藤原行家朝臣

祝の心をよめる


天のした久しき御代の志るしには三笠の山の榊をぞさす




後法性寺入道前關白太政大臣

百首の歌よませ侍りける時、祝の歌


八千代へむ君がためとや玉椿はがへをすべき程は定めじ




太宰大貳重家


席田に群居る田鶴の千世もみな君が齡にしかじとぞ思ふ




富家入道前關白太政大臣

堀川院の御時竹不改色といへる心をよませ給うけるに


色變へぬ竹のけしきにしるき哉萬代ふべき君がよはひは




藤原長能

長徳五年左大臣の家の歌合に


君が世の千年の松の深みどりさわがぬ水に影はみえつゝ




實方朝臣

題志らず


枝かはす春日の原の姫小松いのるこゝろは神ぞ志るらむ




清原元輔

天徳二年右大臣の五十賀の屏風


我宿の千代のかは竹ふし遠みさも行末のはるかなるかな




中納言兼輔

勅使にて齋宮に參りてよみ侍りける


呉竹のよゝの都と聞くからに君は千年のうたがひもなし




公忠朝臣

一品康子内親王裳き侍りけるに


皆人のいかでと思ふ萬代のためしと君をいのる今日かな




中納言朝忠

天暦の御時御子たちの袴き侍りけるに


大原や小鹽の小松葉を志げみいとゞ千年の影とならなむ




讀人志らず

題志らず


嬉しさを昔は袖に包みけり今夜は身にもあまりぬるかな




權中納言顯基

長元六年關白志ら川にて子日志侍りけるに


千とせまで色やまさらむ君がため祝ひそめつる松の緑は




大炊御門左大臣

永治二年崇徳院攝政の法性寺の家にわたらせ給うて松契千年といへる心をよませ給うけるに


移しうゑて志めゆふ宿の姫小松幾千代ふべき梢成るらむ




權中納言長方

後白川院の御時八十島の祭に住吉に罷りてよみ侍りける


神垣やいそべの松に事とはむ今日をば世々の例とやみる




權中納言兼光

仁安三年攝政閑院の家にて對松爭齡といへる心をよみ侍りける


うつし植うる松の緑も君が代もけふ社千代の始なりけれ




前左大臣

建仁三年正月松有春色といへる心ををのこどもつかうまつりにけ

常磐なる玉松が枝も春くれば千代の光やみがきそふらむ




權大僧都良算

御祈つかうまつりて思をのべ侍りける


俯して思ひ仰ぎて祈る我君の御代は千歳に限らざるべし




入道前太政大臣

老の後春の始によみ侍りける


春はまづ子日の松にあらず共ためしに我を人や引くべき




堀河右大臣

天喜四年閏三月中殿に翫新成櫻花歌


今日ぞ見るたまのうてなの櫻花のどけき春にあまる匂を




權大納言信家


常よりも春ものどけき君が代にちらぬ例の花をみるかな




前關白

寛喜元年十一月女御入内の屏風京花人家元日かきたる所


初春の花の都に松を植ゑて民の戸とめる千代ぞ志らるゝ




入道前太政大臣

江山人家柳ある所


名にしおはゞ志くや汀の玉柳いり江の浪に御舟こぐまで




正三位知家

池邊藤花


春日さす藤のしたかげ色みえてありしにまさる宿の池水




内大臣

四月山田早苗


御田やもり急ぐ早苗に同じくば千代の數とれわが君の爲




前關白

八月山野に鹿たてる所


今ぞこれ祈りしかひよ春日山思へばうれしさをしかの聲




人家翫月


わが宿の光をみても雲の上の月をぞ祈るのどかなれとは




田家西收興


年あれば秋の雲なすいな莚かり志く民のたゝぬ日ぞなき




入道前太政大臣


秋をへて君が齡のあり數にかり田の稻もちづか積むなり




小野宮右大臣

圓融院の御時中將公任と碁つかうまつりてまけわざに銀の籠に虫入れて弘徽殿に奉らせ侍りける


萬代の秋を待ちつゝ鳴きわたれ岩ほに根ざす松虫のこゑ




紫式部

九月九日從一位倫子菊の綿を給ひて老のごひすてよと侍りければ


菊の露わかゆばかりに袖ふれて花の主人に千代は讓らむ




元輔

菊をよみ侍りける


わが宿の菊の志ら露萬代の秋のためしにおきてこそみめ




康資王母


長月に匂ひそめにし菊なれば霜も久しく置けるなりけり




權大納言長家

後冷泉院の御時、殘菊映水といへる心を人々つかうまつりけるに


神無月のこるみぎはの白菊は久しき秋の志るしなりけり




大宮右大臣

承保三年大井河に行幸の日よみ侍りける


大井川ふるき御幸の流にてとなせの水も今日ぞすみける




前中納言伊房


おほ井川けふの御幸の驗にや千代に一たびすみ渡るらむ




入道前太政大臣

寛喜元年女御入内の屏風十一月江邊寒蘆鶴立


千代ふべき難波の芦のよをかさね霜のふりはの鶴の毛衣




權中納言定家

泥繪屏風石清水臨時祭


散りもせじ衣にすれるさゝ竹の大宮人のかざすさくらは




前中納言匡房

承保元年大甞會主基の歌丹波國かつらの山


久かたの月の桂の山人もとよのあかりにあひにけるかな




寛治元年悠紀の歌近江國三村の山


時雨ふる三村の山の紅葉ばはたがおりかけし錦なるらむ




宮内卿永範

仁安三年悠紀の風俗歌


天地をてらす鏡の山なればひさしかるべき影ぞみえける




正三位家衡

貞應元年悠紀の歌玉野


色々の草ばの露をおしなべて玉野のはらに月ぞみがける




權中納言頼資

同じ主基の風俗歌いはや山


ふか緑玉松が枝のちよまでもいはやの山ぞ動かざるべき




御屏風の歌いはくら山


足引のいはくら山の日影草かざすや神のみことなるらむ




讀人志らず

題志らず


月も日も變り行けどもひさにふる三室の山のとこみや所




西三條右大臣

延喜六年日本紀竟宴の歌譽田天皇


年へたる古き浮木をすてねばぞさやけき光とほく聞ゆる




貞信公

豐御食炊屋姫天皇


堤をば豊浦の宮につきそめてよゝをへぬれど水は洩さず




井手左大臣

天平十八年正月雪深くつもりて侍りけるあしたみこたち上達部ひきゐて太上天皇の中宮西院に參りて雪はらはせ侍りける御前にめして大御酒給ひける次でに奏し侍りける


ふる雪の白かみ迄に大君に仕へまつれば貴くもあるかな




聖武天皇御製

右大臣の左保の家に御幸せさせ給うける日


青丹善奈良の都の黒木もて造れる宿はをれどあかぬかも




新勅撰和歌集卷第八
羇旅歌

大納言旅人

太宰帥に侍りける時府官らひきゐて香椎の浦に遊び侍りけるによめる


いざや子等香椎のかたに白妙の袖さへぬれて朝菜摘てむ




中納言家持

越中守に侍りける時國のつかさふせの湖に遊び侍りける時よめる


ふせの海の沖津白浪あり通ひいや年のはにみつゝ忍ばむ




額田王

飛鳥川原の御時近江に御幸侍りけるによみ侍りける


秋の野に尾花かりふき宿れりし宇治の都の假庵しぞ思ふ




天皇御製

芳野宮にみゆき侍りける時


みよし野の山下風の寒けくにはたやこよひもわが獨ねむ




田原天皇御製

慶雲三年難波の宮にみゆきの日


葦邊行くかものはがひに霜ふりて寒き夕の ことをしぞ思ふ


讀人志らず

題志らず


何くにか我がやどりせむ高島のかちのゝ原に此日暮しつ





苦くもふりくる雨か三輪が崎さのゝ渡に家もあらなくに




辨基法師


待乳山夕こゑ行きていほざきのすみだ河原に獨かもねむ




大納言昇

亭子院の宮の瀧御覽じにおはしましける御供につかうまつりてひぐらし野といふ所をよみ侍りける


日暮し野行過ぎぬ共かひもあらじ紐とく妹もまたじと思へば




謙徳公

瓜生山をこえ侍るとて


行く人を止め兼てぞうりふ山峯立ちならし鹿も鳴くらむ




惠慶法師

大島の鳴門といふ所にてよみ侍りける


都にといそぐかひなく大島の灘のかけぢは鹽みちにけり




伊勢大輔

藤原惟規が越後へ下り侍りけるに遣しける


けふやさは思ひたつらむ旅衣身にはなれねど哀とぞ聞く




和泉式部

題志らず


こし方をやへの白雲隔てつゝいとゞ山路の遙かなるかな




藤原清正

みちの國へまかりける人に


かり初の別と思へどたけぐまの松に程へむ ことぞくやしき


左京大夫顯輔

宇佐の使の餞に


立ち別れ遙にいきのまつほどは千年を過す心地せむかも




道因法師

題志らず


志ぬ計けふだに歎く別路にあすは生くべき心地こそせね




入道前太政大臣

羇中曉といへる心をよみ侍りける


旅衣立つあかつきの鳥の音に露よりさきも袖はぬれけり




源家長朝臣

別の心をよみ侍りける


別路をおしあけ方の槇のとにまづさきだつは涙なりけり




藤原親繼


別れ行くかげもとまらず石清水相坂山は名のみふりつゝ




藤原兼高

土佐國に年へ侍りける時歌あまたよみ侍りけるに


曉ぞなほうきものとしられにし都を出でしありあけの空




藤原信實朝臣

權大納言忠信歌合し侍りけるに旅の戀をよめる


くれにもといはぬ別の曉をつれなく出でし旅のそらかな




前中納言匡房

旅の歌とてよみ侍りける


まだしらぬ旅の道にぞ出でにける野原篠原人に問ひつゝ




權大納言長家

宇治關白ありまの湯見にまかりける道にて秋の暮を惜む歌よみ侍りけるに


神なびの杜の方りに宿はかれ暮行く秋もさぞとまるらむ




權中納言通俊

齋宮群行のすゞかの頓宮にて旅の歌よみ侍りけるに


急く共けふはとまらむ旅寐する葦の假庵に紅葉散りけり




權大納言公實

關路曉雪といへる心をよみ侍りける


鳥の音に明けぬときけば旅衣さゆともこえむせきの白雪




皇太后宮大夫俊成

久安百首の歌奉りける旅の歌


わが思ふ人にみせばやもろ共にすみだ河原の夕ぐれの空





遙かなるあしやの沖のうきねにも夢路は近き都なりけり




後徳大寺左大臣

後法性寺入道前關白の家の百首の歌よみ侍りけるに旅の心をよみて遣しける


草まくらむすぶ夢路は都にてさむれば旅のそらぞ悲しき




後京極攝政前太政大臣

百首の歌奉りける時


うき枕風のよるべも白浪のうちぬるよひは夢をだにみず




式子内親王


荒磯の玉藻の床にかりねしてわれから袖を濡しつるかな




源師光


てる月のみち行く汐に浮寐して旅の日數ぞ思ひ志らるゝ




鎌倉右大臣

題志らず


世のなかは常にもがもな渚こぐ蜑の小船の綱手かなしも




法印幸清

入道二品親王の家に五十首の歌よみ侍りけるに、海旅


暮れぬとてとまりにかゝる夕浪の こと浦志るき海士の漁火


權中納言頼資

旅泊の心をよみ侍りける


夜を重ねうきねの數のつもれども浪路の末や猶殘るらむ




正三位知家


なみ枕夢にもみえずいもが島なにを形見の浦といふらむ




參議雅經

旅の心をよみ侍りける


たち返り又もやこえむみねの雲跡もとゞめぬ四方の嵐に




眞昭法師


月のいろもうつりにけりな旅衣すそ野の萩の花の夕づゆ




八條院高倉

都を離れて所々に詣でめぐり侍りける頃よみ侍りける


世をうしとなれし都は別れにきいづこの山を泊ともなし





白雲の八重たつ山をたづぬとも眞の道はなほやまどはむ




六條入道前太政大臣

建暦二年内裏の詩歌合羇中眺望といへる心をよみ侍りける


こえわぶる山も幾重になりぬらむ分けゆく跡を埋む白雲




前内大臣

建保二年内裏の歌合秋の歌


暮れば又わがやどりかは旅人のかち野の原の萩の下つゆ




蓮生法師

世をのがれて後修行の次でに淺香山をこえ侍りけるに昔のこと思ひ出で侍りてよみ侍りける


古の我とは志らじ淺香山みえし山井のかげにしあらねば




前大僧正慈圓

旅の心をよみ侍りける


歸りこばかさなる山の峯毎にとまる心を志をりにはせむ




禎子内親王家攝津

みちの國に下り侍りける人をおくりて粟津に泊りてよみ侍りける


東路の野路の草葉の露繁み行くもとまるも袖ぞ志をるゝ




業平朝臣

惟喬のみこの狩しけるともに日頃侍りてかへり侍りけるを猶とゞめ侍りければよみ侍りける


枕とて草引き結ぶこともせじ秋の夜とだに頼まれなくに




置始東人

難波にみゆき侍りける時よめる


大伴のたかしのはまの松がねを枕にぬれど家しおもほゆ




新勅撰和歌集卷第九
神祇歌

中納言當時

延喜六年日本紀竟宴の歌、下照姫


からごろも下照姫の妻戀ぞあめに聞ゆるたづならぬ音は




中納言維時

天慶六年内竟宴の歌、國常立尊


天の下をさむる始むすびおきて萬代迄に絶えぬなりけり




源公忠朝臣

月夜見尊


月讀の天にのぼりて闇もなく明らけき世をみるぞ樂しき




橘仲遠

天兒屋根尊


朝な/\てる日の光ます毎にこやねの尊いつかわすれむ




神樂のとりものゝ歌


さゝわけば袖社やれめとね川の石は踏む共いざ河原より





弓といへば志なゝき物を梓弓まゆみつき弓ひと品もなし




二條太皇太后宮大貳

堀河院の御時宮いでさせ給へりける時うへのをのこども參りてわざとならぬ物の音など聞え侍りけるに内の御遊に宮人うたはせ給ひけるを思ひ出でゝよみ侍りける


ゆふしでや神の宮人玉さかにもり出し夜はゝ猶ぞ戀しき




[6]A子内親王家宣旨

庚申の夜御