Title: Shin goshui wakashu
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Title: Kokka taikan
Author: Anonymous
Kadokawa Shoten
Tokyo
1951
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Title: Library of Congress Subject Headings
14th century
Japanese
fiction
poetry
masculine/feminine
LCSH
11/2002
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11/2002
corrector
Sachiko Iwabuchi
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前大納言爲定
立春の心を詠み侍りける
天つそら霞へだてゝ久かたの雲居はるかに春や立つらむ
源俊頼朝臣
春のはじめの歌
立ちかへる春の志るしは霞しく音羽の山の雪のむらぎえ
順徳院御製
百首の歌めしけるついでに
音羽川山にや春の越えつらむせき入れておとす雪の下水
太政大臣
延文二年後光嚴院に百首の歌奉りける時、霞を
春といへば頓て霞のなかに落つる妹背の川も氷解くらし
前中納言定家
建仁元年五十首の歌奉りける時
にほの海や今日より春に逢坂の山もかすみて浦風ぞ吹く
壬生忠岑
題志らず
足引の山のかひよりかすみ來て春知りながら降れる白雪
参議雅經
千五百番歌合に
睛れやらぬ雲は雪げの春風に霞あまぎるみよし野のやま
後京極攝政前太政大臣
正治二年後鳥羽院に百首の歌奉りける時
吉野山ことしも雪のふる里に松の葉しろき春のあけぼの
前大納言爲氏
弘長元年後嵯峨院に百首の歌奉りける時、春雪を
立ちわたる霞のうへの山風になほ空さむく雪は降りつゝ
應安六年仙洞にて廿首の歌講ぜられしついでに
後光嚴院御製
なほ冴ゆる雪げの空のあさ緑分かでもやがてかすむ春哉
左大臣
百首の歌奉りし時、山霞を
山の端に晴れぬ雪げを残しても春立ちそふは霞なりけり
從二位家隆
惟明親王の家の十五首の歌に
橋姫の霞の衣ぬきをうすみまださむしろのうぢの河かぜ
伊勢
題志らず
春霞立ちての後に見わたせば春日の小野は雪げさむけし
衣笠前内大臣
弘長元年百首の歌奉りけるとき、春雪
さらに又むすぼゝれたる若草の末野の原に雪は降りつゝ
讀人志らず
題志らず
打ち羽ぶき鳴けどもはねの白妙にまだ雪さむきはるの鶯
鷹司院按察
寳治二年後嵯峨院に百首の歌奉りける時、朝鶯
花もまだ匂はぬ程の朝な/\鳴けやうぐひす春と思はむ
亀山院御製
弘安元年百首の歌召されけるついでに
梅が香を木づたふ枝にさきだてゝ花にうつろふ鶯のこゑ
後醍醐院御製
正中二年百首の歌召されけるついでに、鶯をよませ給うける
春の來るしるべとならば咲きやらぬ花をもさそへ鶯の聲
後照念院關白太政大臣
嘉元元年後宇多院に百首の歌奉りける時
くれ竹のねぐらかたよる夕かぜに聲さへなびくはるの鶯
山邊赤人
題志らず
春の野に鳴くや鶯なつけむと我家のそのに梅のはな咲く
源信明朝臣
雪の梅の木に降りかゝれるを詠める
降る雪のしたに匂へる梅の花忍びに春のいろぞ見えける
太政大臣
貞和二年光嚴院に百首の歌奉りける時
降りかゝる梢の雪の朝あけにくれなゐうすき梅のはつ花
前大納言爲家
若菜を詠み侍りける
いざ今日は衣手濡て降る雪の粟津の小野に若菜摘みてむ
大中臣能宣朝臣
春日野の若菜も今は萠ゆらめど人には見せず雪ぞ降積む
民部卿爲藤
文保三年後宇多院に百首の歌奉りける時
里人は今や野原に降るゆきの跡も惜まずわかな摘むらむ
前關白近衛
百首の歌奉りし時、若菜
消えがての雪も友待つ春の野に獨ぞ今朝は若菜摘みける
御製
同じ心を詠ませ給うける
今朝は先野守を友と誘ひてや知らぬ雪間の若菜摘まゝし
前大納言爲氏
弘長の百首の歌奉りける時
誰か又雪間を分けて春日野の草のはつかに若菜摘むらむ
前大納言爲定
文保三年百首の歌奉りける時
且消ゆる遠方野邊の雪間より袖見えそめて若菜摘むなり
中務卿宗尊親王
題志らず
霜雪に埋もれてのみ見し野邊の若菜摘む迄なりにける哉
常磐井入道前太政大臣
弘長の百首の歌奉りける時
都人今日や野原に打群れて知るも知らぬも若菜摘むらむ
後京極攝政前太政大臣
家の百首の歌合に、若草
雪消ゆる枯野の下のあさ緑去年の草葉や根にかへるらむ
前中納言定家
建保二年内裏に百首の歌奉りける時
それながら春は雲居に高砂の霞のうへのまつのひとしほ
清原深養父
題志らず
春霞たなびきわたる卷向の檜原のやまのいろのことなる
權中納言爲重
百首の歌奉りし時、山霞を
佐保姫の霞の衣おりかけてほす空たかきあまの香具やま
讀人志らず
題志らず
足引の山の絶え%\見えつるは春の霞の立てるなりけり
御製
百首の歌召されしついでに、浦霞の心を
春きぬと霞の衣たちしよりまどほにかゝる袖のうらなみ
等持院贈左大臣
貞和二年百首の歌奉りける時
難波潟芦火の烟そのまゝにやがてぞかすむこやの松ばら
正三位知家
題志らず
春の色は分きてそれともなかりけり烟ぞ霞む鹽がまの浦
常磐井入道前太政大臣
弘長の百首の歌奉りける時
今更にかすまずとても難波潟ながむる物を春のあけぼの
前大納言爲世
嘉元元年奉りける百首の歌に、梅
梢をばよそに隔てゝ梅の花かすむかたよりにほふ春かぜ
己心院前攝政左大臣
いづくぞと梅の匂を尋ぬればしづが垣根に春かぜぞ吹く
伏見院御製
梅夕薫の心をよませ給うける
木の間より映る夕日の影ながら袖にぞあまる梅の下かぜ
藤原爲冬朝臣
春の歌あまた詠み侍りける中に
梢をばさそひもあかず梅が香のうつる袖まで春風ぞ吹く
後光嚴院御製
延文二年百首の歌めされしついでに、梅を
咲き匂ふ軒端のうめの花ざかりさそはぬ程の風は厭はじ
康資王母
梅の歌とて
梅の花ひも解く春の風にこそ匂ふあたりの袖はしみけれ
殷富門院大輔
人々にすゝめ侍りける百首の歌に
折る袖にふかくも匂へ梅の花その移り香を誰かとがめむ
讀人志らず
題志らず
紅のこぞめの梅の花の枝は咲くも咲かぬも色に出でつゝ
權大納言爲遠
延文の百首の歌奉りし時
いろよりも猶たぐひなき紅のこぞめはうめの匂なりけり
前大納言爲家
弘長元年奉りける百首の歌に、梅
梅の花色香ばかりをあるじにて宿は定かに訪ふ人もなし
式子内親王
同じ心を
袖の上に垣根の梅は音づれて枕に消ゆるうたゝ寐のゆめ
大納言旅人
天平二年正月梅の花の宴し侍るとて詠み侍りける
我が宿に梅の花散る久方のそらより雪の降ると見るまで
曾禰好忠
題志らず
絶ゆる世もあらじとぞ思ふ春を經て風に片よる青柳の糸
前關白近衛
百首の歌奉りし時、柳
立ちならぶ梢はあれど青柳の糸のみなびく春かぜぞ吹く
後光嚴院御製
延文の百首の歌召されしついでに、同じ心を詠ませ給うける
吹く風の心も知らで一かたになびきなはてそ青柳のいと
前大納言爲定
文保三年百首の歌奉りけるに
飛鳥風吹きにけらしなたをやめの柳のかづら今靡くなり
寳篋院贈左大臣
柳を詠める
今朝見れば柳のまゆの淺みどり亂るゝまでに春風ぞ吹く
前大納言爲氏
おなじ心を
淺緑色そめかけてはるかぜの枝にみだるゝあを柳のいと
等持院贈左大臣
延文の百首の歌に
雨はれて露の玉ぬく青柳のはなだの糸にはるかぜぞ吹く
左大臣
百首の歌奉りし時、春雨
春雨の降る日や今日も暮れぬらしまだ落止まぬ軒の玉水
源家長朝臣
春の歌の中に
春雨に野澤の水はまさらねど萌出づる草ぞ深くなりゆく
正三位知家
建保の百首の歌奉りける時
難波女のすくもたく火の打しめり蘆屋の里に春雨ぞ降る
光嚴院御製
題志らず
妻戀を人にやつゝむ山もとの霞がくれにきゞす鳴くなり
民部卿爲藤
文保の百首の歌奉りける時
隔て行く霞もふかき雲居路のはるけき程にかへる雁がね
法印定爲
歸雁を
言傳てむ道行きぶりも白雲のよそにのみして歸る雁がね
權大納言爲遠
百首の歌奉りし時、同じ心を
春を經て歸りなれたる古郷に待つべき物と雁や行くらむ
前參議爲實
文保の百首の歌奉りける時
越の海やなれける浦の波ゆゑにかならず歸る春の雁がね
藤原隆祐朝臣
春の歌とて
時わかぬ河瀬の波の花にさへわかれてかへる春の雁がね
土御門院御製
志ら浪の跡こそ見えね天のはら霞のうらにかへる雁がね
中務卿具平親王
鳴き歸る雁の羽風に散る花をやがて手向の幣かとぞ見る
從三位爲信
嘉元の百首の歌に
歸る雁都の春にいつなれてありなば花の憂きを知るらむ
建禮門院右京大夫
暗夜歸雁と云ふ事を
花をこそ思ひも捨てめ有明の月をも待たでかへる雁がね
前大納言俊光
嘉元の百首の歌奉りける時
横雲の空に別れて行くかりの名殘もこめぬ春のあけぼの
贈從三位爲子
誰かはと思ひし春をおのれのみ恨み果てゝや歸る雁がね
中務卿宗尊親王
弘長元年七月七日、十首の歌合に
ためのこし人の玉章今はとてかへすに似たる春の雁がね
寳篋院贈左大臣
延文の百首の歌に、花
咲きやらぬ花待つほどの山の端に面影みせてかゝる白雲
伏見院御製
霞間花と云ふ事を詠ませ給うける
櫻花咲けるやいづこ三吉野のよしのゝ山は霞みこめつゝ
題志らず
御製
櫻花今や咲くらむみよし野の山もかすみて春さめぞ降る
後醍醐院御製
正中の百首の歌めされしついでに
みよしのゝ山の山守
こととはむ今幾日ありて花は咲きなむ
藤原光俊朝臣
春の歌の中に
櫻花いま咲きぬらし志がらきの外山の松に雲のかゝれる
中園入道前太政大臣
延文の百首の歌奉りけるに
明くる夜の外山の花は咲きにけり横雲匂ふ空と見るまで
源俊頼朝臣
題志らず
櫻花咲きぬる時は三吉野の山のかひよりなみぞ越えける
藤原清輔朝臣
小泊瀬の花のさかりやみなの川峯より落つる水の白なみ
道命法師
吉野山花の下ぶし日かず經てにほひぞ深きそでの春かぜ
光明峰寺入道前攝政左大臣
足引の山ざくら戸の春風におし明け方ははなの香ぞする
和泉式部
源道濟雲林院の花見にまかりて侍りけるに其の櫻を折りて、又見せむ人しなければ櫻花今一枝をおらずなりぬると申し送り侍りける返事に
いたづらに此の一枝はなりぬなり殘りの花を風に任すな
前大納言爲世
嘉元の百首の歌奉りける時
ひと枝も折らで歸らば古里に花見ぬものと人やおもはむ
一品法親王寛尊
花の歌とて
かへさにもいかゞ手折らむ山櫻花に劣らぬ家へともがな
津守國冬
山ざくら散りのまがひの頃よりも家路忘るゝ花盛かな
從二位嚴子
花の歌の中に
白雲にまがへてだにも志をりせし花の盛や家路わすれむ
登蓮法師
題志らず
年ごとに染むる心の驗あらば如何なる色に花の咲かまし
從二位業子
あかず見る心を知らばさくら花なれよ幾世の春も變らで
前大納言爲定
文保三年奉りける百首の歌に
春を經て志賀の故郷いにしへの都は花の名にのこりつゝ
權大納言爲遠
延文の百首の歌に、花
今も尚咲けば盛のいろ見えて名のみふりゆく志賀の花園
白河院御製
題志らず
白雲の絶間にかすむ山ざくら色こそ見えね匂ふはるかぜ
寂蓮法師
白雲の重なる峯に尋ねつる花はみやこの木ずゑなりけり
後土御門入道内大臣
建長六年、三首の歌合に
山たかみ尾上の櫻咲きしより雲居はるかににほふ春かぜ
權中納言爲重
松間花を詠める
松の葉のかすめる程はなけれども尾上に遠き花の色かな
後三條入道前太政大臣
文保の百首の歌奉りける時
隔つるも同じ櫻のいろなればよそめ厭はぬかづらきの雲
一品法親王法守
題志らず
日に添へて雲こそかゝれ葛城や高間の花は早さかりかも
左大臣
百首の歌奉りし時、見花を
かづらきやうつるよそめの色ながら雲まで匂ふ山櫻かな
後西園寺入道前太政大臣
弘安元年龜山院に百首の歌奉りける時
たちかくす絶間も花の色なれや雲ゐる峯のあけ方のそら
前大納言爲家
春の歌の中に
見渡せば今やさくらの花盛くものほかなる山の端もなし
順徳院御製
百首の歌めされしついでに
花の色に猶をり知らぬかざしかな三輪の檜原の春の夕暮
八條院高倉
建保の内裏の百番歌合に
これならで何をこの世に志のばまし花にかすめる春の曙
前右大臣
百首の歌奉りし時、盛花
時の間に移ろひやすき花のいろは今を盛と見る空もなし
讀人志らず
題志らず
春風も心して吹け我が宿は花よりほかのなぐさめもなし
源邦長朝臣
花の歌の中に
暮れはてゝ色もわかれぬ梢より移ろふ月ぞ花になりゆく
惟明親王
題志らず
吉野山あらしや花をわたるらむ木末にかをる春の夜の月
大納言經信
月前落花を
春の夜の月ばかりとや眺めまし散來る花の陰なかりせば
伏見院御製
曉庭落花と云ふ事を
木ずゑには花もたまらず庭の面の櫻にうすき有明のかげ
前大納言爲定
文保三年百首の歌奉りける時
春毎のつらき習ひに散ると見て有るべき花を猶や慕はむ
せめて我が近きまもりの程だにも御階の櫻散さずもがな
謙徳公
春の歌の中に
花誘ふ風は吹くとも九重のほかには志ばし散さずもがな
修理大夫顕季
櫻花にほふにつけて物ぞ思ふかぜの心のうしろめたさに
俊惠法師
花の散りけるを見てよめる
待ちしより豫て思し散る事の今日にも花のなりにける哉
後鳥羽院宮内卿
和歌所にて釋阿に九十の賀給はせける時の屏風に
のどかなる梢ばかりと思ひしに散るも盛りと見ゆる花哉
藤原實方朝臣
題志らず
暮ると明くと見ても目かれず池水の花の鏡の春の面かげ
法性寺入道前關白太政大臣
谷隱れ風に知られぬ山ざくらいかでか花の遂に散るらむ
太政大臣
延文の百首の歌奉りける時
三吉野の瀧つ河内に散る花や落ちても消えぬ水泡なる覽
從三位仲子
百首の歌奉りし時
大井川櫻をつれてこす波にせくとも見えぬ水の志がらみ
後鳥羽院御製
春の御歌の中に
雲居なる高間の櫻散りにけり天つ少女のそでにほふまで
前關白近衛
百首の歌奉りし時
風かよふ尾上の櫻散りまがひつもらぬ程も雪と見えつゝ
常磐井入道前太政大臣
惜花といへる心を
散りまがふ花の跡吹く山風にかたみあだなる峰の志ら雲
津守國夏
題志らず
櫻色も我がそめ移すから衣花はとめけるかたみだになし
入道二品親王尊道
百首の歌奉りし時、落花
さくら花散りぬる庭の盛だにありてうき世と春風ぞ吹く
後光嚴院御製
延文二年百首の歌召されしついでに、同じ心を
庭にだにとめぬ嵐を喞たばや散るをば花の咎になすとも
權大納言時光
雲と見え雪と降りてもとゞまらぬ習ひを花に猶喞つかな
鷹司院帥
題志らず
昔より移ろふからに恨むるを苦しき世とや花の散るらむ
凡河内躬恒
延喜十三年、亭子院の歌合の歌
現には更にもいはず櫻花ゆめにも散ると見えば憂からむ
關白前左大臣
百首の歌奉りし時
さそひ行く嵐の末も吹きまよひ木のもとうすき花の白雪
爲冬朝臣
題志らず
春風のよそに誘はぬ花ならば木の本のみや雪とつもらむ
權大納言忠光
百首の歌奉りし時、落花を
山ざくら散りていくかぞ踏み分くる跡だに深き花の白雪
[1]御
山人の歸るつま木のおひ風につもれどかろき花のしら雪
前關白九條
木のもとに降ると見えても積らぬは嵐やはらふ花の白雪
寳篋院贈左大臣
花の歌あまた詠み侍りけるに
おぼろなる影とも見えず軒近き花に移ろふ春の夜のつき
伏見院御製
霞間月を詠ませ給うける
木の間洩る影ともいはじよはの月霞むも同じ心づくしを
太政大臣
百首の歌奉りし時、春月
さらでだに影見え難き夕月夜出づる空よりまづ霞みつゝ
權中納言爲重
河上春月と云ふ事を
夜と共に霞める月の名取河なき名といはむ晴間だになし
芬陀利花前關白内大臣
文保三年百首の歌奉りけるに
照りもせぬならひを春の光にて月に霞の晴るゝ夜ぞなき
崇徳院御製
題志らず
暗部山木の下かげの岩つゝじたゞこれのみや光なるらむ
前中納言定家
建保三年内裏の百首の歌奉りける時
岩つゝじ云はでや染むる志のぶ山心のおくの色を尋ねて
順徳院御製
百首の歌詠ませ給うける中に
水鳥の羽がひの山の春のいろにひとりまじらぬ岩棡かな
儀同三司
百首の歌奉りし時、苗代
昨日けふ返すと見えて苗代のあぜ越す水もまづ濁りつゝ
小野小町
題志らず
色も香も懐かしきかな蛙鳴く井手のわたりの山吹のはな
圓光院入道前關白太政大臣
山吹の花越す浪も口なしに移ろひ行くか井手のたまがは
皇太后宮大夫俊成
爲忠朝臣の家に百首の歌詠ませ侍りけるとき、瀧下山吹を
たきつ瀬の玉散る水やかゝるらむ露のみ志げき山吹の花
後宇多院御製
嘉元の百首の歌めしけるついでに、山吹
散る花のかたみもよしや吉野川あらぬ色香に咲ける山吹
前右兵衛督爲教
弘安の百首の歌奉りける時
惜めどもうつる日數に行く春の名殘をかけて咲ける藤波
清原元輔
小野宮太政大臣の家にて藤の花惜みけるに詠める
藤の花こき紫のいろよりも惜むこゝろを誰れか染めけむ
平兼盛
天徳四年内裏の歌合に詠める
我が行きて色見るばかり住吉の岸の藤波折りなつくしそ
左大臣
百首の歌奉りし時、藤を
松が枝にかゝるよりはや十返りの花とぞ咲ける春の藤波
太政大臣
延文の百首の歌奉りけるに、同じ心を
春の日の長閑けき山の松が枝に千世もとかゝる北の藤波
紀貫之
波の上に藤のかゝれるを見て詠める
水の面に咲きたる藤を風吹けば波の上にも波ぞ立ちける
千種入道前太政大臣
延文二年百首の歌奉りけるに
池の面の水草かたよる松風にみなそこかけてにほふ藤波
從一位宣子
百首の歌奉りし時
末の松咲きこす藤の波のまに又や彌生のはるも暮れなむ
前中納言定家
九條前内大臣の家の三十首のうたの中に、江上暮春を
堀江漕ぐ霞の小舟行きなやみ同じ春をもしたふころかな
民部卿爲藤
嘉元の百首の歌奉りける時、暮春
今はたゞ殘るばかりの日數こそとまらぬ春の頼なりけれ
皇太后宮大夫俊成女
題志らず
積りぬる別れは春にならへども慰めかねて暮るゝ空かな
土御門内大臣
如何計り今日の暮るゝを嘆かまし明日もと春を思わざりせば
常磐井入道前太政大臣
弘長元年百首の歌奉りける時、三月盡
月日とてやすくな過ぎそ暮れて行く彌生の空の春の別路
みつね
同じ心を
徒然と花を見つゝぞ暮しつる今日をし春の限とおもへば
[1] Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads 御製.
前中納言定家
正治二年百首の歌奉りける時
脱ぎかへてかたみとまらぬ夏衣さてしも花の面影ぞ立つ
嘉陽門院越前
千五百番歌合に
夏衣いそぎかへつるかひもなく立ちかさねたる花の面影
深守法親王
百首の歌奉りし時、更衣
今日と云へば早ぬぎかへぬ花衣散りて幾かの形見
なりけむ
後西園寺前内大臣女
遲櫻の咲きて侍りけるを見て詠める
何をかは春のかたみと尋ねまし心ありける遲ざくらかな
藤原爲冬朝臣
元弘三年、立后の屏風に、新樹を
青葉にも暫し殘ると見し花の散りてさながら茂る頃かな
贈從三位爲子
百首の歌詠み侍りける時に
袖にこそ移らざりけれ卯の花の垣根ばかりの夜はの月影
法印淨辨
夕卯花と云ふ事を
卯の花の垣根ばかりの夕月夜をちかたびとの道や迷はむ
常磐井入道前太政大臣
弘長元年百首の歌奉りける時
布晒す宇治のわたりの垣根より珍しげなく咲ける卯の花
前右兵衛督教定
中務卿宗尊親王の家の百首の歌に
神祭る今日は葵のもろかづら八十氏人のかざしにぞさす
讀人志らず
藤原爲道朝臣二たび賀茂の祭の使勤めて侍りけるにいひ遣しける
君が代に二たびかざす葵草神のめぐみもかさねてぞ知る
藤原爲道朝臣
かへし
君が代に又たちかへり葵草かけてぞ神のめぐみをば知る
前中納言匡房
堀川院に百首の歌奉りけるとき、葵を
大空のひかりに靡く神山の今日のあふひや日影なるらむ
花山院御製
夏の御歌の歌の中に
春を今はいたくも戀ひじ足びきの山郭公うらみもぞする
侍從爲親
法印長舜すゝめ侍りける八幡の社の歌に
つれなさや變らざるらむ人毎に待つとのみ聞く時鳥かな
前中納言實任
文保三年百首の歌奉りける時
まだ聞かぬ恨もあらじ郭公鳴きぬと告ぐる人なかりせば
忠岑
題志らず
郭公おのが初音を心から鳴かでやひとにうらみらるらむ
[2]A子内親王
出でなばと頼めも置かぬ山の端の月に待たるゝ郭公かな
後二絛院御製
鳴きぬべき頃と思へば時鳥寐覺にまたぬあかつきぞなき
後京極攝政前太政大臣
正治二年百首の歌奉りける時
今こむとたのめやはせじ郭公ふけぬよはを何恨むらむ
御製
人々に百首の歌召されしついでに
つらき名の立つをば知らで時鳥鳴く音計りと何忍ぶらむ
前大納言爲氏
時鳥の歌とて詠める
遂に聞く物ゆゑなどて郭公まづいそがるゝ初音なるらむ
源義將朝臣
左大臣の家にて人々三首の歌詠み侍りし時、待時鳥の心を
山ざとに去年まで聞きし郭公都に待つといかで知らせむ
前大納言經繼
嘉元の百首の歌奉りける時、同じ心を
待ち侘ぶる心にまけよ郭公しのぶならひの初音なりとも
衣笠前内大臣
弘長元年百首の歌奉りける時
忍び音を誰れに知らせて時鳥稀なる頃に待たれそめけむ
寳篋院贈左大臣
延文の百首の歌奉りける時
心をも我こそ儘せほとゝぎす誰がため惜む初音なるらむ
中宮大夫公宗母
時鳥を
わきてまづ我に語らへ郭公待つらむ里はあまたありとも
前内大臣實
延文の百首の歌に
郭公人傳にのみ聞きふりてうき身よそなる音こそつらけれ
前大僧正慈鎭
題志らず
千枝にこそかたらはずとも時鳥信太の森のひと聲もがな
正三位知家
名所の百首の歌奉りけるに
郭公今やみやこへいづみなる志のだの杜のあけがたの聲
後嵯峨院御製
五十首の御歌の中に
是ぞげに初音なるらむ聞く人も待ちあへぬ間の郭公かな
西行法師
題志らず
郭公思ひも分かぬ一こゑを聞きつといかで人にかたらむ
平氏村
曙郭公
明くるをぞ待つべかりける横雲の嶺より出づる郭公かな
權中納言爲重
里郭公と云ふ事を
山路をば今朝越えぬとや時鳥やがて音羽の里に鳴くらむ
後光明峯寺攝政左大臣
山里にて郭公を聞きて
この里もなほつれなくば時鳥いづくの山の奧をたづねむ
赤人
題志らず
宵の間もおぼつかなきを時鳥鳴くなる聲のほどの遙けき
野宮入道前内大臣
知らせばやたゞ一こゑの郭公待ちしにまさる心づくしを
前中納言爲秀
貞和の百首の歌奉りける時
なべて世に難面きよりも時鳥里わく頃の音こそつらけれ
從三位宣子
百首の歌奉りし時
時ははや知りぬるころの郭公この里人も聞きやふりなむ
左大臣
上のをのこども時鳥數聲と云ふ事を仕うまつりけるに
いく聲とかぞへむ物を時鳥鳴きつとばかりなに思ひけむ
家にて人々三首の歌詠み侍りしに、菖蒲を
菖蒲草今日はかけよと長き根を袖より見する時は來に鳬
枇杷皇太后宮
五月五日藥玉をおくるとて
ながき世の例に引けば菖蒲草同じ淀野もわかれざりけり
法成寺入道前攝政太政大臣
返し
おりたちて引ける菖蒲の根を見てぞ今日より長き例ともしる
前關白太閤
百首の歌奉りし時、菖蒲
菖蒲草今日刈る跡に殘れるや淀野に生ふる眞菰なるらむ
前關白近衛
引き結ぶあやめの草の枕をば旅とやいはむ一夜寐にけり
中宮大夫公宗
夏の歌の中に
長き根を引くに任せて沼水の深さ知らるゝあやめ草かな
一品法親王寛尊
隱沼に生ひて根深きあやめぐさ心も知らず誰かひくらむ
後光嚴院御製
百首のうためされしついでに、五月雨
五月雨はあやめの草の志づくより猶落ちまさる軒の玉水
前中納言匡房
夏の歌とて
五月雨はやどにつくまの菖蒲草軒の雫に枯れじとぞ思ふ
寂蓮法師
題志らず
小山田に水引き侘ぶる賤の男が心や晴るゝさみだれの空
皇太后宮大夫俊成
百首の歌よみ侍りける中に
種蒔しわさ田の早苗植ゑて鳬いつ秋風の吹かむとすらむ
民部卿爲藤
題志らず
小山田に板井の清水くみためて我が門去らず取る早苗哉
進子内親王
杉立てる外面の谷に水おちて早苗すゞしき山のしたかげ
前大納言爲定
文保の百首の歌奉りけるに
早苗取る同じ田面も山かげの暮るゝかたよりかへる里人
前關白九絛
百首の歌奉りし時、橘
匂ひ來る花たちばなの夕風は誰がむかしをか驚かすらむ
左大臣
右大將に任じ侍りて後内裏にて三十首の歌講ぜられし時、簷橘を
ためしある御階の右にうつるより猶袖ふれて匂ふたち花
中納言家持
夏の歌の中に
我が宿の花たちばなに郭公夜ふかく鳴けば戀まさりけり
前關白近衛
鳴く音をや忍び果てまし時鳥己が五月のなき世なりせば
藤原清正
夏の夜の月待つ程は郭公我がやどばかり過ぎがてに鳴け
山階入道前左大臣
をち返り鳴きふるせども郭公猶あかなくに今日は暮しつ
藤原爲尹朝臣
百首の歌奉りし時、郭公遍を
をちこちにはや鳴きふるす郭公今は聞きても誰に語らむ
後鳥羽院御製
題志らず
夏の夜の夢路に來鳴く子規覺めても聲はなほのこりつゝ
皇太后宮大夫俊成女
名所の百首の歌奉りける時
五月雨のをやむ晴間の日影にもなほ雲深しあまの香具山
權中納言爲重
百首の歌奉りし時、五月雨雲
暮れぬとて出づべき月も待ち侘びぬ雲に峰なき梅雨の頃
津守國量
いとゞ猶八重立つ雲の五月雨に横川の水もさぞ増るらむ
順徳院兵衛内侍
建保の百首の歌奉りし時
五月雨に小笹が原を見渡せば猪名野につゞくこやの池水
順徳院御製
眞菰生ふる伊香保の沼のいか計り浪越えぬらむ梅雨の頃
後西園寺入道前太政大臣
文保三年百首の歌奉りける時
日を經れば元の道さへ忘れ水野澤となれるさみだれの頃
從二位家隆
題志らず
庭の面に任せし水も岩越えてよそにせきやる五月雨の頃
寳篋院贈左大臣
延文の百首の歌奉りけるに
五月雨の水かさを見れば飛鳥川昨日の淵も淺瀬なりけり
關白前左大臣
百首の歌奉りし時、河五月雨
飛鳥川明日さへ降らば淵は瀬に戀るも知らじ五月雨の頃
御製
同じ心を詠ませ給うける
三吉野や川音たかき五月雨に岩もと見せぬ瀧のしらあわ
前右大臣
百首の歌奉りし時、五月雨
庭清くなりぞしぬらし五月雨に藻くづ流るゝ山河のみづ
頓阿法師
題志らず
名のみして山は朝日の影も見ず八十うぢ川の五月雨の頃
前中納言爲相
嘉元の百首の歌奉りけるに
湊川うは波早くかつ越えてしほまでにごる五月雨のころ
津守國道
夏の歌の中に
いとゞ猶入海とほくなりにけり濱名の橋の五月雨のころ
前大納言爲定
前大僧正慈勝人々に詠ませ侍りし千首の歌の中に
五月雨に落ちそふ瀧の白玉や頓てふり行く日數なるらむ
太政大臣
延文二年百首の歌奉りけるに、五月雨
しばしほす波の間もなし蜑衣田簑の志まの五月雨のころ
津守國夏
同じ心を
伊勢のあまの鹽やき衣此の程やすつとは云はむ梅雨の頃
從三位行能
名所の百首の歌奉りけるに
難波潟こやの八重ぶき洩りかねて芦間に宿る夏の夜の月
左兵衛督基氏
題志らず
忘れては春かとぞ思ふ蚊遣火の烟にかすむ夏の夜のつき
權大納言爲遠
百首の歌奉りし時、夏月
更けてこそ置くべき霜を宵の間に暫し見せたる庭の月影
前大僧正隆辨
同じ心を
見る程もなくて明行く夏の夜の月もや人の老となるらむ
從二位嚴子
待ち出づる山の端ながら明けにけり月に短き夏の夜の空
和泉式部
照射を詠める
夏の夜は照射の鹿のめをだにも合せぬ程に明けぞしにける
權中納言爲重
五月闇ともす火串の松山に待つとて鹿のよらぬ夜もなし
前大納言爲世
文保三年百首の歌奉りけるに
大井川山もと遠く漕ぎつれてひろ瀬にならぶ篝火のかげ
惟宗光吉朝臣
二品親王の家の五十首の歌に、鵜川の心を詠み侍りける
鵜飼舟のぼりもやらぬ同じ瀬に友待ちそふる篝火のかげ
權大納言時光
延文二年百首の歌奉りける時
鵜飼舟くだす早瀬の河波に流れて消えぬかゞり火のかげ
前參議忠定
名所の百首の歌奉りける時
夏草はしげりにけりな大江山越えて生野の道もなきまで
從二位家隆
春ぞ見しみつの御牧にあれし駒ありもやすらむ草隠れつゝ
後京極攝政前太政大臣
正治の百首の歌の中に
吾妹子が宿のさゆりの花かづら長き日暮しかけて凉まむ
太政大臣
延文の百首の歌奉りけるに、螢
穗に出でぬ尾花がもとの草の名もかつ顕れて飛ぶ螢かな
式子内親王
正治の百首の歌に
水暗き岩間にまよふ夏虫のともし消たでも夜を明すかな
按察使資康
百首の歌奉りし時
掬ぶ手のあかぬ志づくも影見えて石井の水に飛ぶ螢かな
後鳥羽院御製
千五百番歌合に
風をいたみ蓮のうき葉に宿占めて凉しき玉に蛙なくなり
前大納言實教
題志らず
風通ふ池のはちす葉なみかけてかたぶく方につたふ白玉
光嚴院御製
貞和の百首の歌召しけるついでに
夕立の降りくる池の蓮葉にくだけてもろき露の志らたま
後深草院辨内侍
寶治の百首の歌奉りけるとき、夕立
おのづからかたへの雲や晴れぬらむ山の端遠き夕立の空
祝部成茂
夏山の木の葉の色は染めねども時雨に似たる夕立のそら
前參議能清
夏の歌の中に
一むらはやがて過ぎぬる夕立の猶くも殘る空ぞすゞしき
僧正果守
夕立の一むら薄つゆ散りて虫の音添はぬあきかぜぞ吹く
前大納言爲定
延文二年百首の歌奉りけるに
鳴る神の音ばかりかと聞くほどに山風烈しゆふだちの空
前大納言公蔭
稻妻の光の間ともいふばかりはやくぞ晴るゝ夕立のそら
前大納言爲世
嘉元の百首の歌奉りける時
夕立のかつ%\晴るゝ雲間より雨をわけてもさす日影哉
後宇多院御製
過ぎにけり軒の雫は殘れども雲におくれぬ夕だちのあめ
讀人志らず
題志らず
行く末は露だにおかじ夕立の雲にあまれるむさし野の原
前大納言實教
蝉を
村雨の名殘の露はかつ落ちて本末にとまる蝉のもろごゑ
前大納言俊光女
雨晴るゝ夕かげ山に鳴く蝉の聲より落つる木々の下つゆ
後山本前左大臣
文保の百首の歌奉りける時
わけ過ぐる山志た道の追風にはるかに送る蝉のもろごゑ
前中納言定家
名所の百首の歌奉りける頃
蝉の羽の衣に秋をまつら潟ひれふる山のくれぞすゞしき
太政大臣
延文二年百首のうた奉りけるに、納凉
涼しさはいづれともなし松風の聲のうちなる山の瀧つ瀬
源頼之朝臣
同じ心を
靜かなる心の中や松かげのみづよりも猶すゞしかるらむ
前中納言雅孝
山もとのならの木蔭の夕すゞみ岩もるみづに秋風ぞ吹く
後醍醐院御製
凉しくば行きても汲まむ水草ゐる板井の清水里遠くとも
後京極攝政前太政大臣
和歌所にて六首の歌奉りける時
松立てる與謝の湊の夕すゞみ今も吹かなむ沖つ志ほかぜ
好忠
題志らず
芦の葉に隱れて住めば難波女のこやは夏こそ凉しかりけれ
等持院贈左大臣
貞和二年百首の歌奉りける時
難波人御祓すらしも夏かりの芦の一夜にあきをへだてゝ
權大納言爲遠
百首の歌奉りし時、六月祓
みたらしや誰が御祓とも白木綿の知らず流るゝ夏の暮哉
入道二品親王尊道
みたらしや引く手も今日は大幣の幾瀬に流す御祓なる覽
前大納言資名
夏の歌の中に
御祓川年も今宵の中空に更くるをあきとかぜぞすゞしき
入道二品親王覺譽
延文の百首の歌奉りける時、夏祓
御祓してかへさ夜深き河波の秋にかゝれる音のすゞしさ
左京大夫顯輔
同じ心を
河の瀬に生ふる玉藻の行く水になびきてもする夏禊かな
[2] The kanji for A is not available in the JIS code table. The kanji is Morohashi's Dai Kan-wa jiten kanji number 21114. Tetsuji Morohashi, ed., Dai Kan-Wa jiten (Tokyo: Taishukan shoten, 1966-68).
太政大臣
百首の歌奉りし時、初秋の心を
朝戸あけの軒端の荻に吹きてけり一葉のさきの秋の初風
等持院贈左大臣
貞和二年百首の歌奉りける時
此寐ぬる朝げの風の變るより荻の葉そよぎ秋や來ぬらむ
前中納言爲相
文保三年百首の歌奉りける時
昨日まで人に待たれし凉しさをおのれと急ぐ秋の初かぜ
前關白近衛
百首の歌奉りし時
凉しさの増る計りを吹き變る風とて今日は秋や來ぬらむ
西宮左大臣
題志らず
今日よりは秋の始と聞くからに袖こそ痛く露けかりけれ
皇太后宮大夫俊成女
寶治の百首の歌奉りける時
風かはる夏の扇は手になれて袖にまづ置く秋のしらつゆ
贈從三位爲子
嘉元の百首の歌奉りけるに、七夕
淵は瀬にかはらぬ程も天の河としのわたりの契にぞ知る
花園院御製
同じ心を詠ませ給うける
鵲の渡せる橋のひまを遠み逢はぬ絶間の多くもあるかな
御製
百首の歌めされしついでに
年を經て今日よりほかの逢ふ瀬をば誰が柵ぞ天の川なみ
入道二品親王性助
きても猶うすき契や恨むらむとしに稀なる天の羽ごろも
入道一品親王法守
織女契と云ふ事を
七夕の戀も恨もいかにして一夜のほどに云ひつくすらむ
左大臣
百首の歌奉りける時、荻
夜の程の露の下荻おと立てゝ今朝ほにしるき秋風ぞ吹く
前關白太閤
秋風の吹きしく時は荻の葉のおとぞ中々きこえざりける
後西園寺入道前太政大臣
文保三年百首の歌奉りけるに
音づるゝ情ばかりを待ちえてもおのれ寂しき荻の上かぜ
祝部行氏
題志らず
荻の葉の露をも袖に誘ひきてあまる涙にあきかぜぞ吹く
前中納言定資
小牡鹿の朝立つ跡もあらはれて露まばらなる野邊の萩原
從二位嚴子
宮城野に志がらむ鹿の跡なれや本あらの小萩露も溜らず
前參議忠定
名所の百首の歌奉りけるに
宮城野の露わけ衣朝立てばわすれがたみのはぎが花ずり
正三位通藤女
題志らず
露のぬき弱きも知らず宮城野の萩のにしきに秋風ぞ吹く
藤原行輔朝臣
眞萩咲く秋の花野のすり衣露にまかせてなほや分けまし
前大納言爲定
文保三年百首の歌奉りける時
咲きてこそ野中の水に映りけれ古枝の萩の本のこゝろは
御製
百首の歌めされし時、萩を詠ませ給うける
九重や今住む宿の萩の戸をいく世古枝のいろに咲くらむ
前大納言爲世
嘉元の百首の歌奉りける時
野邊ごとに招けばとても花薄袖をたのみてくる人もなし
山階入道左大臣
題志らず
招くとて行くもとまるも同じ野に人だのめなる花薄かな
法印長舜
民部卿爲藤詠ませ侍りける十首の歌に
招くとはよそに見れども花薄我かと云ひて訪ふ人もなし
源頼之朝臣
野徑薄を
打拂ふ袖よりなびく初尾花わくるを野邊とあき風ぞ吹く
民部卿爲藤
嘉元の百首の歌奉りけるに
花薄誰をとまれといはくらの小野のあきつに人招くらむ
中務卿宗尊親王
題志らず
いまよりの誰が手枕も夜寒にて入野の薄あきかぜぞ吹く
後京極攝政前太政大臣
家の百首の歌合に、野分
昨日まで蓬に閉ぢし柴の戸も野分に晴るゝ岡のべのさと
從二位家隆
かりにさす庵までこそ靡きけれ野分に堪へぬ小野の篠原
瞻西上人
苅萱を詠める
咲き交る花のあだ名も立ちぬべし何亂るらむ野邊の苅萱
前中納言定家
入道二品親王の家の五十首の歌に、尋虫聲
松虫の鳴く方遠く咲く花のいろ/\惜しき露やこぼれむ
後西園寺入道前太政大臣
弘安元年百首の歌奉りける時
暮れ行けば虫の音にさへ埋れて露もはらはぬ蓬生のやど
前大納言爲氏
弘長元年百首の歌に、虫を
芦垣のまぢかきほどの蛬おもひやなぞといかでとはまし
太政大臣
貞和二年百首の歌奉りける時
よそに聞くこゑだにあるを蛬枕の志たになにうらむらむ
後嵯峨院御製
人々に百首の歌めしけるに、曉虫を詠ませたまうける
曉の枕の志たに住みなれて寐覺ことゝふきり%\すかな
寶篋院贈左大臣
延文二年奉りける百首の歌に
見るまゝに門田の面は暮れ果てゝ稻葉に殘る風の音かな
從三位仲子
百首の歌奉りし時
見渡せば山だの穗波かた寄りに靡けばやがて秋風ぞ吹く
前大納言俊光
文保の百首の歌に
夢覺むるひたの庵の明け方に鹿の音寒くあきかぜぞ吹く
參議雅經
健保二年内裏の秋の十五首の歌合に、秋鹿
思ひ入る山にても又鳴く鹿の尚憂きときやあきの夕ぐれ
從二位業子
夜鹿と云ふ事を
妻戀の心は知らず小牡鹿の月にのみ鳴くこゑぞ更けゆく
御製
百首の歌召されしついでに
心からあはれならひの妻戀に誰が秋ならぬ小牡鹿のこゑ
讀人志らず
題志らず
秋を經て變らぬ聲に鳴く鹿は同じつまをや戀ひ渡るらむ
祝部成光
權大納言爲遠の家にて人々三首の歌詠みはべりけるに
眞萩散る秋の野風やさむからし尚この暮は鹿ぞ鳴くなる
左衛門督資教
百首の歌奉りし時、鹿
ねに立てゝ秋に變らぬ妻戀をなれぬる物と鹿や鳴くらむ
前大納言爲世
嘉元の百首の歌に、秋夕
詠めじと思ひ棄つれど哀のみ身にそひて憂き秋の夕ぐれ
權中納言爲重
百首の歌奉りし時、同じ心を
一方に思ひわくべき身の憂さのそれにもあらぬ秋の夕暮
前中納言定家
健保の百首の歌奉りけるに
誰が方による鳴く鹿の音に立てゝ涙移ろふ武藏野のはら
崇徳院御製
秋の御歌の中に
雁がねのかき連ねたる玉章を絶え%\にけつ今朝の秋霧
權少僧都覺家
題志らず
霧晴れぬ空にはそこと知らねどもくるを頼むの雁の玉章
前關白太閤
百首の歌奉りし時、雁
誰が爲とうはの空なる玉づさを必ずかけて雁はきぬらむ
坂上是則
同じ心を
いく千里ほどは雲居の秋ごとに都を旅とかりのきぬらむ
寶篋院贈左大臣
延文二年百首のうた奉りけるに、雁
いつしかと鳴きて來にけり秋風の夜寒知らるゝ衣雁がね
中務卿宗尊親王
秋の歌の中に
この里は村雨降りて雁がねの聞ゆる山にあきかぜぞ吹く
衣笠前内大臣
題志らず
佐保山の木ずゑも色や變るらむ霧立つ空に雁はきにけり
入道二品親王覺譽
をち力の霧のうちより聞き初めて月に近づく初雁のこゑ
前中納言定家
名所の百首の歌奉りける時
はつ雁の來鳴く常磐のもりの露そめぬ雫も秋は見えけり
常磐井入道前太政大臣
弘長元年百首の歌奉りける時
かへりみば此方もさこそ隔つらめ霧に分け入る秋の旅人
後光明照院前關白左大臣
文保三年百首の歌奉りけるに
峯になる夕日の影は殘れども霧より晴るゝをちの山もと
讀人志らず
河霧のみをも末より隙見えて絶え%\落つる宇治の柴舟
權中納言爲重
百首の歌奉りし時、霧
立ち曇る霧のへだても末見えて阿武隈河にあまる志ら浪
皇太后宮大夫俊成女
寶治の百首の歌奉りける時
立ちこむる關路も知らぬ夕霧に猶吹き越ゆる須磨の秋風
後岡屋前關白左大臣
貞和の百首の歌に
暮るゝよりやがて待たるゝ心にも習はで遅き山の端の月
前右大臣
百首の歌奉りし時、峯月
出でやらぬ嶺よりをちの月影にあたり映ろふ村雲のそら
等持院贈左大臣
題志らず
程もなく松より上になりにけり樹間に見つる山の端の月
權大納言爲遠
延文二年百首の歌奉りける時
峯越ゆる程こそ知らねゐる雲の立ちそふ隙を出づる月影
後鳥羽院御製
月の御歌の中に
石見潟高津の山にくも晴れてひれふる峯を出づる月かげ
伏見院御製
月前風と云ふ事を詠ませ給うける
むら雲も山の端遠くなり果てゝ月にのみ吹く峰の松かぜ
嵐吹く峯のうき雲さそはれて心もそらに澄めるつきかげ
後光嚴院御製
延文二年百首の歌召されし次でに
行くへなく漂ふ雲を吹きかけて風にもしばし曇る月かな
後宇多院御製
龜山殿にて人々題を探りて千首の歌仕うまつりけるついでに、月を
空に澄む物ならなくに我が心月見る度にあくがれて行く
後京極攝政前太政大臣
同じ心を
雲消ゆる千里のほかの空冴えて月よりうづむ秋の白ゆき
藤原盛徳
山の端の月に立ちそふ浮雲のよそになるまで秋風ぞ吹く
津守國久
吹分くる木の間も著し秋風につれて出でぬる山の端の月
正三位成國
雲拂ふ風のあとより出で初めてさはる影なき秋の夜の月
源經氏
誘はれて月にかゝれる浮雲もやがて晴れ行くよはの秋風
津守國夏
天の原月のみやこも玉敷のひかりにみがく秋かぜぞ吹く
前大納言爲定
文保の百首の歌奉りける時
天つ風いかに吹くらむ久方の雲のかよひぢ月ぞさやけき
後二條院御製
月の歌とて詠ませ給うける
更科や姨捨山もさもあらばあれ唯我がやどの雲の上の月
待賢門院堀河
題志らず
逢坂の關の杉むら霧こめて立つとも見えぬゆふかげの駒
皇太后宮大夫俊成
法性寺入道前關白の家の百首の歌に
清見潟波路さやけき月を見てやがて心やせきをもるらむ
皇太后宮大夫俊成女
健保の内裏の三首の歌合に、秋野月
思ひ出でよ露を一夜の形見にて篠分くる野邊の袖の月影
太宰權帥仲光
題志らず
小男鹿の志がらむ萩に秋見えて月もいろなる野路の玉川
大藏卿有家
絶々に見ゆる野中の忘れ水夜がれがちにや月も澄むらむ
前大納言爲兼
弘安の百首の歌に
蓬生の露のみ深き古さとにもと見しよりも月ぞすみける
前大納言實教
建武元年九月十三夜内裏にて人々題を探りて歌つかうまつりけるに、水邊月
夜もすがら空を映して行く水に流れて更くる月の影かな
津守國道
題志らず
三島江は芦の葉隱れ茂ければ漕ぎ出でゝ見る秋の夜の月
讀人志らず
水上月を
水やそら空や水とも見え分かず通ひて澄める秋の夜の月
順徳院御製
秋の御歌の中に
秋田もるかりほの苫屋薄からし月に濡れたるよはのさ莚
仁和寺二品法親王守覺
田家曉月と云へる事を
明けぬとは宵より見つる月なれど今ぞ門田に鴫も鳴くなる
津守國助
題志らず
霧晴るゝ田面の末の山の端に月立ち出でゝ秋かぜぞ吹く
如願法師
わさ田もる床の秋風吹き初めて假寐寂しき月を見るかな
前大納言爲定
文保の百首の歌奉りける時
夜な/\は月の影もやうつるらむ遠山どりのをろの鏡に
御製
人々に廿首の歌めされしついでに
天の河くもの志がらみ洩れ出でゝ緑の瀬々に澄める月影
讀人志らず
題志らず
月の舟さし出づるより空の海ほしの林は晴れにけらしも
津守經國
水郷月を
久方の中にありてふ里の名を空に知れとも澄める月かな
法眼慶融
題志らず
かずならぬ身を知る袖の涙とも月より外は誰かとふべき
爲冬朝臣
あくがるゝ心の果よ孰く迄さやけきよはの月にそふらむ
從三位爲信
嘉元の百首の歌奉りけるに、月
あくがれむ心の果も身の憂さも秋に任せて月を見るかな
藤原仲實朝臣
同じ心を
諸共に見るとはなしに行き歸り月に棹さす舟路なりけり
前大納言爲家
月の歌の中に
さしかへる雫も袖の影なれば月になれたる宇治の河をさ
月かげもにほてる浦の秋なれば鹽やくあまの烟だになし
御製
百首の歌めされしついでに、潟月
夕汐のさすには連れし影ながら干潟にのこる秋の夜の月
左兵衛督基氏
磯月を
舟とむる磯の松蔭くるゝ間にはや月のぼる浦のとほやま
左大臣
百首の歌奉りし時、湖月
月ばかり澄めとぞなれる小波や荒れにし里は志賀の浦風
安嘉門院高倉
寶治の百首の歌奉りける時、同じ心を
鏡山くもらぬ秋の月なればひかりをみがく志賀の浦なみ
前關白近衞
百首の歌奉りし時
山の名を分けては云はじ月影のにほてる海も鏡なりけり
源頼春朝臣
月の歌とて
さゞ波の音にもよはや更けぬらし月に靜まる志賀の浦風
前中納言基成
あくがれてこと浦ならば出でなまし須磨の浮寐に見つる月影
藤原信實朝臣
西園寺入道前太政大臣の家にて人々十首の歌詠ませ侍りける時、橋月
道遠き佐野の舟橋夜をかけて月にぞ渡るあきのたびゞと
藤原長秀
題志らず
あらち山矢田の庵野の月影にやどり殘さぬ淺茅生のつゆ
從一位宣子
百首の歌奉りし時
小笹しく猪名野の月の更くる夜にふし原寒きつゆの手枕
伏見院御製
月前露を詠ませ給うける
更けぬるか露のやどりも夜寒にて淺茅が月に秋風ぞ吹く
仁和寺二品法親王守覺
題志らず
荒間もる軒端の月は露滋き志のぶよりこそ宿り初めけれ
信實朝臣
弘長元年百首の歌奉りける時、月
濡れてこそ月をも宿せ我が袖の露をばほさじ涙なりとも
正二位隆教
嘉元の百首の歌奉りけるに、同じ心を
それをだに身の思出と慰めて秋のいく夜か月を見つらむ
伏見院御製
山路月を
誰に又月より外はうれへましなれぬ山路の秋のこゝろを
大藏卿有家
題志らず
末の松待つ夜更け行く空晴れて涙より出づる山の端の月
等持院贈左大臣
延文二年百首の歌奉りけるに
音ばかり志ぐるとぞ聞く月影の曇らぬよはの峯の松かぜ
惟宗光之朝臣
前大納言實教人々に三十首の歌詠ませ侍りけるに、松間月
山風に志ぐるゝ松を洩る月は雲間に出づる影かとぞ見る
西行法師
題志らず
誠とも誰か思はむひとり見て後にこよひの月をかたらば
後鳥羽院御製
建永の頃太神宮に奉らせ給うける百首の御歌の中に
思ふこと我が身にありや空の月片敷く袖に置ける志ら露
正三位知家
月の歌とて詠める
積るとて厭ひしかども身はふりぬ今は飽く迄月をだに見む
光俊朝臣
秋の歌の中に
積るとも何のためにか厭ふべき老いぬる後の秋の夜の月
權中納言公雄
文保三年百首の歌奉りける時
身一つに積り果てたる老なれば心のまゝに月をこそ見れ
津守國冬
題志らず
夜寒なる野寺の鐘はおとづれて淺茅が霜と澄める月かげ
民部卿資宣
初瀬山明けぬと月におどろけば夜深き鐘の音ぞきこゆる
平貞秀
曉月の心を詠める
いづるより入る迄見るを秋の夜の月には誰か寐覺しつ覽
前大納言爲世
同じ心を
西になる影は木の間に顯れて松の葉見ゆるありあけの月
皇太后宮大夫俊成
爲忠朝臣の家の百首の歌に、有明月
秋の夜のふかき哀は有明の月見しよりぞ知られ初めにし
從二位爲敦
永和四年九月十三夜内裏にて十三首の歌構ぜられけるに、月前虫
露はまだ結びもかへぬ月影を草葉の霜とむしや鳴くらむ
大江宗秀
題志らず
終夜つゆのやどりに鳴くむしのなみだ數そふ庭の淺茅生
太政大臣
宵の間に置くなる野邊の露よりも猶こと繁き虫の聲かな
按察使資明
蛬を詠める
長き夜は絶間もあれや蛬鳴きつくすべきうらみならぬを
式乾門院御匣
前大納言爲氏人々に詠ませ侍りし住吉の社の十首の歌に
きり%\す鳴く音も悲し人知れず秋の思のふかき寢覺に
津守國冬
嘉元の百首の歌奉りけるに
浪を越す尾花がもとによわるなり夜寒の末の松虫のこゑ
後京極攝政前太政大臣
題志らず
今年見る我が元結の初霜に三十ぢあまりの秋ぞ更けぬる
頓阿法師
里人は衣うつなり志がらきの外山の秋や夜さむなるらむ
神祇伯顯仲
堀河院に百首の歌奉りける時
唐衣この里人のうつ聲を聞き初めしよりぬる夜半ぞなき
前中納言定宗
入道二品親王詠ませ侍りける五十首の歌に
里人や夜寒の霜のおきゐつゝ更くるも知らず衣うつらむ
兵部卿長綱
題志らず
小夜衣うつ聲さむし秋風の更け行く袖に志もや置くらむ
三善爲連
あくがるゝ心なればや小夜衣明くるも知らず月に擣つ覽
前大僧正覺濟
秋ふかき夜寒は里を分かねばや同じ心にころも擣つらむ
鎌倉右大臣
月前擣衣を
小夜更けて半たけ行く月かげにあかでや人の衣擣つらむ
寶篋院贈左大臣
題志らず
宵の間は志ばしとだえて有明の月よりさらに擣つ衣かな
從二位行家
九條前内大臣の家の百首の歌合に
あすかには衣擣つなりたをやめの袖の秋風夜寒なるらし
前中納言定家
題志らず
山水の老いせぬ千代をせきとめておのれ移ろふ白菊の花
貫之
小野宮の大いまうち君の屏風の繪に長月の九日の日のかたかけるを詠める
露とてもあだにやは見る長月の菊は千歳を過すと思へば
藤原基任
題志らず
いつまでに老いせぬ秋とかざしけむ戴く霜の志ら菊の花
前大納言爲定
文保三年百首の歌奉りける時
分け過ぐる山路の菊の花の香に濡れてもほさぬ袖の白露
前大納言實教
日數こそ移ろひ果てめ暮れて行く秋をばのこせ庭の白菊
權大納言實直母
秋の歌に
白菊の一色ならず移ろふや八重咲く花の志るしなるらむ
中勢卿宗尊親王
古郷秋風と云ふ事を
故郷の垣ほの蔦もいろづきて河原のまつに秋かぜぞ吹く
藤原行朝
題志らず
初霜の岡の葛はら今よりはうらがれわたる秋かぜぞ吹く
好忠
最どしく夜を長月になりぬれば寢覺がちにて明すべき哉
從二位家隆
明方に秋の寐ざめやなりぬらむ殘るかたなく物ぞ悲しき
讀人志らず
夕されば雁の越え行く立田山時雨にきほひ色づきにけり
入道一品親王法守
山紅葉を
初時雨降りにし日より足引の山の木の葉は紅葉しぬらし
柿本人丸
同じ心を
露霜の置く朝より神なびの三室のやまはいろづきにけり
欣子内親王
日に添へて色こそ増れ昨日より今日は志ぐるゝ峯のもみぢ葉
前内大臣實
百首の歌奉りし時、杜紅葉
染めてけり時雨も露もほしやらぬ雫の杜の秋のもみぢ葉
讀人志らず
題志らず
唐錦おりはへそめよ山姫のたちきる袖のつゆも志ぐれも
立田姫紅葉の庵にすみなさばたまらで染めよ露も時雨も
源和義朝臣
むら時雨降り出てそむる紅も今いくしほの紅葉なるらむ
津守國夏
唐錦時雨の雨のたてぬきに織りかけてほす山のもみぢ葉
太政大臣
延文二年百首の歌奉りけるに
立田川紅葉を水のみかさとやうつるも深き色に見ゆらむ
津守國冬
伏見院に三十首の歌奉りける時、山紅葉を
もみぢ葉も誰が禊とて立田山秋風吹けばぬさと散るらむ
儀同三司
百首の歌奉りし時、瀧紅葉
となせ川山もひとつのもみぢ葉に染めて殘らぬ瀧の白糸
源義將朝臣
となせ川紅葉に咽ぶたきつ瀬の中なる淀や色まさるらむ
前内大臣
まだきより散るかとぞ見るもみぢ葉の移りて落つる山の瀧つ瀬
内大臣
題志らず
嵐山散らぬ紅葉の影ながら移れば落つるたきの志らなみ
前大納言爲兼
弘安の百首の歌に
秋深き紅葉の幣の唐にしきけふも手向のやまぞ志ぐるゝ
伏見院御製
題志らず
行く秋の末葉の淺茅露ばかりなほ影とむるありあけの月
後深草院辨内侍
百首の歌奉りける時
名殘をば夕の空にとゞめ置きて明日とだになき秋の別路
中務卿宗尊親王
初冬の心を
秋よりも音ぞ寂しき神無月あらぬ時雨や降りかはるらむ
前大納言爲定
文保三年百首の歌奉りける時
今朝はなほ志ぐれもあへず神無月日數や冬の始なるらむ
等持院贈左大臣
貞治二年三百首の歌奉りけるに
信樂の外山の空のうちしぐれ今日や里人ふゆを知るらむ
山階入道前左大臣
弘安元年龜山殿にて十首の歌講ぜられけるに、初冬雨時
袖濡れし秋のなごりも慕はれて時雨を冬と定めかねつゝ
深守法親王
百首の歌奉りし時、時雨
降るもかつ晴るゝもやすき我袖の涙乾かぬ時雨なりけり
前大納言爲世
同じ心を
風に行くたゞ一村の浮雲にあたりは晴れて降る時雨かな
源高秀
聞きなれし木の葉の音はそれながら時雨に變る神無月哉
藤原爲量朝臣
山風のさそひもやらぬうき雲の漂ふ空はなほしぐれつゝ
前大僧正道意
わきて又曇るとはなき村雲の往來につけて猶志ぐれつゝ
津守國冬
嘉元の百首の歌奉りける時
山の端に暫し絶間のある程や里までめぐる時雨なるらむ
法印慶運
題志らず
曇るとも分かぬ山路の木の間より日影と共に洩る時雨哉
山本入道前太政大臣
山時雨と云へる事を
山の端に漂ふ雲の晴れぞのみ浮きて時雨の降らぬ日ぞなき
前中納言定家
名所の百首の歌奉りける時
淡路島むかひの雲の村時雨そめもおよばぬすみよしの松
前大納言爲氏
弘安元年百首の歌奉りける時
嵐山脆き木の葉に降りそへて峯行く雲もまた志ぐれつゝ
藤原泰宗
題志らず
誘はるゝ嵐と共に志ぐれきて軒端に散るは木の葉
なりけり
藤原行春
神無月今や落葉の初時雨にはを木ずゑにそめ變へてけり
源藤經
寶篋院贈左大臣の家にて人々三首の歌詠み侍りけるに、落葉
山風の吹く方にのみ誘れて木の葉は根にも歸らざりけり
前大僧正公朝
同じ心を
足引の山颪吹きて冬はきぬいかに木の葉の降り増るらむ
前參議能清
外山なる楢の落葉をさそひ來て枯野にさわぐ木枯のかぜ
前關白近衞
百首の歌奉りし時
千しほとは何急ぎけむ色深き木葉よりこそ散初めにけれ
源重之女
題志らず
四方の山木々の紅葉も散果てゝ冬はあらはになりにける哉
昭慶門院一條
嘉元の百首の歌奉りける時
梢にはさてもかへらぬもみぢ葉を庭よりおくる木枯の風
權大納言忠光
百首の歌奉りける時
落ち積る程より薄き紅葉かなあらしやにはを又拂ふらむ
太政大臣
貞和二年百首の歌奉りし時
亂れつる落葉は庭に志づまりて弱るあらしを梢にぞ聞く
皇太后宮大夫俊成
百首の歌詠み侍りけるに
初霜は降りにけらしな志ながどり猪名の笹原色變るまで
俊頼朝臣
堀川院に百首の歌奉りけるに、霜
住吉の千木の片そぎ行きも逢はで霜置き迷ふ冬は來に鳬
祝部成光
寒草の心を詠める
人目さへかれ行く霜の古郷に殘るも寂しにはのふゆぐさ
前大納言爲定
文保三年百首の歌奉りける時
枯れ殘る冬野の尾花うちなびき誰が手枕も霜や置くらむ
皇太后宮大夫俊成
冬の歌の中に
難波潟芦の枯葉にかぜさえて汀のたづも志もに鳴くなり
權中納言爲重
江寒蘆を
難波江やあしの夜な/\霜氷り枯葉亂れて浦かぜぞ吹く
津守國助
後西園寺入道前太政大臣の家の十首の歌に
入江なるあしの霜枯かりにだに難波の冬をとふ人もがな
從三位雅家
百首の歌奉りし時、寒蘆
難波潟枯れても立てる芦の葉の折れ臥す迄と浦風ぞ吹く
源義種
題志らず
霜さやぐよはも更け行く篠の葉に氷れる月を拂ふ山かぜ
平重時朝臣
霜枯の野なかにこほる忘水志のぶかげなきふゆの夜の月
權中納言公時
閨の上に積る木葉を吹きわけて風ぞ板間の月は見せける
從二位行家
弘長元年百首の歌奉りける時、冬月
村雲の斯れとてしも烏羽玉の夜渡る月のなど志ぐるらむ
順徳院御製
同じ心を詠ませ給うける
志ぐれつる村雲ながら吹く風を知らでや月の山を出づ覽
百首の歌召されしついでに
清瀧や岩間によどむ冬がはのうへは氷にむすぶつきかげ
從二位隆博
弘安の百首の歌に
庭まではやどるとも見ず山川の氷のうへをみがく月かげ
寶篋院贈左大臣
延文二年百首の歌奉りける時
空よりも影や冴ゆらむ池水の氷にやどるふゆの夜のつき
前大納言資季
題志らず
久かたの月のかゞみとなる水をみがくは冬の氷なりけり
等持院贈左大臣
延文二年百首の歌奉りけるに
二見潟月影冴えて更くる夜に伊勢島とほく千鳥鳴くなり
醍醐入道太政大臣
千五百番歌合に
小夜千鳥浦傳ひ行く涙の上にかたぶく月も遠ざかりぬる
御製
百首の歌召されしついでに、千鳥
風に寄る浪のまくらを厭ひ來て汐干や床と千鳥鳴くらむ
前大納言爲定
文保三年百首の歌奉りけるに
友千鳥何をかたみの浦づたひ跡なき波に鳴きて行くらむ
左近中將親雅
上のをのこども三首の歌仕うまつりける時、浦千鳥
浪よりも先にと立ちて浦風の吹き越す磯に鳴く千鳥かな
伴周清
題志らず
沖つ波立ちも歸らで潮風の吹き志くかたに鳴く千鳥かな
按察使資明
貞和二年百首の歌奉りける時
舟いだす與謝の港のあけ方に友呼ぶこゑは千鳥なりけり
寶篋院贈左大臣
延文二年百首の歌奉りけるに、千鳥
解けて寐ぬ須磨の關守夜や寒き友呼ぶ千鳥月に鳴くなり
源氏頼
題志らず
楫枕うき寐も寒き浦風にゆめをさそひて鳴く千どりかな
贈從三位爲子
嘉元の百首の歌奉りける時
冬の夜はつがはぬをしも友と見よ同じ入江にやどる月影
郁芳門院安藝
題志らず
逢ふ事の滯りたる水の上につがはぬ鴛のうき音をぞ鳴く
等持院贈左大臣
貞和二年百首の歌奉りし時
置く霜を拂ひかねてや青羽なる鴨の羽がひも色變るらむ
權大納言具通
題志らず
下くゞる道と見し間に鳰どりのうき巣をかけて氷る池水
左大臣
百首の歌奉りし時、水鳥
薄氷なほ閉ぢやらで池水の鴨のうき寐を志たふなみかな
二品法親王承覺
題志らず
おのづから氷に洩れて行く浪も末は音せぬ山がはのみづ
正三位成國
絶え%\になほ水上は流れきて氷にとまる山がはのみづ
前中納言實遠
百首の歌奉りし時、氷
落ちたぎつ碎くる波は岩越えて行く瀬に氷る山川のみづ
藤原長秀
同じ心を
澤田川袖つく程のなみもなしこほりにわたる眞木の繼橋
入道贈一品親王尊圓
貞和二年百首の歌奉りけるに
あじろ木にせかるゝ水や氷るらむ音こそ弱れ宇治の川波
惟明親王
題志らず
網代木に寄りくる色は一つにて止らぬ氷魚や宇治の川波
從二位家隆
冬の歌の中に
志ぐれつる宵の村雲冴えかへり更け行く風に霰降るなり
後二條院御製
嵐吹く楢のひろ葉の冬枯にたまらぬ玉はあられなりけり
入道二品親王尊道
百首の歌奉りし時、霰
暫しこそ音も聞ゆれ楢の葉のともにたまらず散る霰かな
常磐井入道前太政大臣
弘長元年百首の歌奉りける時、同じ心を
枯れ果てゝ霜の下なる荻の葉も碎くばかりに降る霰かな
源頼光
題志らず
音たてゝ降れどもいとゞ溜らぬや小笹が上の霰なるらむ
寶篋院贈左大臣
延文の百首の歌の中に、鷹狩
今日も早交野のみのに立つ鳥の行方も見えず狩暮しつゝ
源貞世
同じ心を
はし鷹のと返る山の木の下にやどり取るまで狩暮しつゝ
前參議實名
延文の百首の歌奉りける時
御狩する交野の雪の夕ぐれに天の川かぜさむく吹くらし
皇太后宮大夫俊成
百首の歌詠み侍りけるに
御狩する交野の小野に日は暮れぬ草の枕を誰にからまし
按察使資康
百首の歌奉りし時
狩人の暮るれば歸る鈴の音に合せぬとりや草がくるらむ
寂眞法師
題志らず
御狩塲のつかれの鳥のおち草は中々雪のつもるにぞ知る
前大納言爲兼
弘安の百首の歌に
この里は志ぐれて寒き冬の夜の明くる高嶺に降れる白雪
御製
百首の歌めされし時、庭雪
峯にまづよその眺めはふりぬれど庭こそ雪の始なりけれ
龜山院御製
曙雪を詠ませ給うける
ほの%\と明け行く山の高嶺より横雲かけて降れる白雪
藤原雅幸朝臣
題志らず
さえあかす嵐の程も今朝見えて雪に別るゝ峯のよこぐも
權大僧都經賢
月はなほ雲間に殘る影ながら雪に明け行くをちの山の端
讀人志らず
足引の山の白きは我が宿に昨日のくれに降りしゆきかも
從三位爲理
庭雪を
今朝はまづともなふ方に誘はれて人をも待たず庭の白雪
前中納言定家
名所の百首の歌奉りけるに
有乳山峯の木枯さきだてゝ雲の行くてに落つる志らゆき
前大納言爲家
雪の歌の中に
矢田の野に打出でゝ見れば山風の有乳の嶺は雪降りに鳬
津守國貴
今朝は猶まだ霜がれと見ゆるまで初雪うすき淺茅生の庭
後徳大寺左大臣
久かたの空も紛ひぬ雲かゝる高間の山にゆきの降れゝば
源兼氏朝臣
樵路雪と云ふ事を
さらでだにかへさ苦しき山人のつま木の上に積る雪かな
津守國助
題志らず
吉野山奧よりつもる志ら雪の古郷ちかくなりまさるかな
法印顯詮
三吉野の山の通路絶えしより雪降るさとは訪ふ人もなし
源氏經朝臣
奥山のまさ木のかづら埋れて雪にはいとゞ來る人もなし
源有長朝臣
誰か又同じ山路をたどるらむ越ゆればうづむ跡の志ら雪
仲實朝臣
八條太政大臣の家に歌合しはべりけるに、雪を詠める
いつの間に降り積りぬる雪なれば歸る山路に道迷ふらむ
從二位行家
弘長元年百首の歌奉りける時
降り積る上葉の雪の夕ごりに氷りてかゝるまつの下つゆ
光明峰寺入道前攝政左大臣
後鳥羽院に奉りける百首の歌の中に
佐野の岡越え行く人の衣手に寒き朝げのゆきはふりつゝ
左大臣
百首の歌奉りし時、庭雪
草枯に殘ると見えし籬さへ猶あともなくうづむゆきかな
入道二品親王尊道
野雪を
立ち歸る君ぞ殘さむ跡絶えし野べの深雪の古きためしは
源義將朝臣
氷るぞと見しよりくまぬいなみ野の野中の水を埋む白雪
法眼行濟
題志らず
訪はでふる日數のみこそ積りけれ今日も跡なき庭の白雪
法印淨辨
閑居雪を
山深きすみかならずば庭の雪に訪はれぬ迄も跡や待たれむ
寂蓮法師
和歌所にて六首奉りけるに
山人の道のたよりも自から思ひ絶えねとゆきは降りつゝ
贈從三位爲子
嘉元の百首の歌奉りける時
跡惜む我が習はしに云ひなさむさのみ訪はれぬ庭の白雪
前大納言爲世
題志らず
踏分けて出でつるもとの跡をさへ又降り埋む庭の雪かな
小侍從
千五百番歌合に
跡つけしその昔こそ悲しけれ長閑につもる雪を見るにも
式部卿邦省親王
題志らず
庭にこそ積り添へけれ松が枝の梢のゆきを拂ふあらしに
後三條入道前太政大臣
文保の百首の歌に
沖つ風吹き越す磯の岩根松浪こそかゝれゆきはたまらず
元可法師
海邊雪を
埋もれぬ烟をやどの志るべにて雪に潮くむさとの海士人
權中納言爲重
同じ心を
渡つ海の浪もひとつに冴ゆる日の雪ぞかざしの淡路島山
從三位頼政
題志らず
身の上にかゝらむことぞ遠からぬ黒髮山に降れる志ら雪
卜部兼直
雲のぼる富士の山風そら冴えて烟も見えず雪ぞ降りつゝ
源頼春朝臣
冴ゆる日に猶たき増る炭竈の烟はゆきもうづまざりけり