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Title: Manyoshu [Book 10]
Author: Anonymous
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Makoto Yoshimura, Akihiro Okajima, et al.
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第十巻春雜歌1812
[原文]久方之 天芳山 此夕 霞霏d 春立下 [訓読]ひさかたの天の香具山この夕霞たなびく春立つらしも [仮名],ひさかたの,あめのかぐやま,このゆふへ,かすみたなびく,はるたつらしも
1813
[原文]巻向之 桧原丹立流 春霞 欝之思者 名積米八方 [訓読]巻向の桧原に立てる春霞おほにし思はばなづみ来めやも [仮名],まきむくの,ひはらにたてる,はるかすみ,おほにしおもはば,なづみこめやも
1814
[原文]古 人之殖兼 杉枝 霞<霏>d 春者来良之 [訓読]いにしへの人の植ゑけむ杉が枝に霞たなびく春は来ぬらし [仮名],いにしへの,ひとのうゑけむ,すぎがえに,かすみたなびく,はるはきぬらし
1815
[原文]子等我手乎 巻向山丹 春去者 木葉凌而 霞霏d [訓読]子らが手を巻向山に春されば木の葉しのぎて霞たなびく [仮名],こらがてを,まきむくやまに,はるされば,このはしのぎて,かすみたなびく
1816
[原文]玉蜻 夕去来者 佐豆人之 弓月我高荷 霞霏d [訓読]玉かぎる夕さり来ればさつ人の弓月が岳に霞たなびく [仮名],たまかぎる,ゆふさりくれば,さつひとの,ゆつきがたけに,かすみたなびく
1817
[原文]今朝去而 明日者来牟等 云子鹿丹 旦妻山丹 霞霏d [訓読]今朝行きて明日には来なむと云子鹿丹朝妻山に霞たなびく [仮名],けさゆきて,あすにはきなむと,****,あさづまやまに,かすみたなびく
1818
[原文]子等名丹 關之宜 朝妻之 片山木之尓 霞多奈引 [訓読]子らが名に懸けのよろしき朝妻の片山崖に霞たなびく [仮名],こらがなに,かけのよろしき,あさづまの,かたやまきしに,かすみたなびく
1819
[原文]打霏 春立奴良志 吾門之 柳乃宇礼尓 鴬鳴都 [訓読]うち靡く春立ちぬらし我が門の柳の末に鴬鳴きつ [仮名],うちなびく,はるたちぬらし,わがかどの,やなぎのうれに,うぐひすなきつ
1820
[原文]梅花 開有岳邊尓 家居者 乏毛不有 鴬之音 [訓読]梅の花咲ける岡辺に家居れば乏しくもあらず鴬の声 [仮名],うめのはな,さけるをかへに,いへをれば,ともしくもあらず,うぐひすのこゑ
1821
[原文]春霞 流共尓 青柳之 枝喙持而 鴬鳴毛 [訓読]春霞流るるなへに青柳の枝くひ持ちて鴬鳴くも [仮名],はるかすみ,ながるるなへに,あをやぎの,えだくひもちて,うぐひすなくも
1822
[原文]吾瀬子乎 莫越山能 喚子鳥 君喚變瀬 夜之不深刀尓 [訓読]我が背子を莫越の山の呼子鳥君呼び返せ夜の更けぬとに [仮名],わがせこを,なこしのやまの,よぶこどり,きみよびかへせ,よのふけぬとに
1823
[原文]朝井代尓 来鳴<杲>鳥 汝谷文 君丹戀八 時不終鳴 [訓読]朝ゐでに来鳴く貌鳥汝れだにも君に恋ふれや時終へず鳴く [仮名],あさゐでに,きなくかほどり,なれだにも,きみにこふれや,ときをへずなく
1824
[原文]冬隠 春去来之 足比木乃 山二文野二文 鴬鳴裳 [訓読]冬こもり春さり来ればあしひきの山にも野にも鴬鳴くも [仮名],ふゆこもり,はるさりくれば,あしひきの,やまにものにも,うぐひすなくも
1825
[原文]紫之 根延横野之 春野庭 君乎懸管 鴬名雲 [訓読]紫草の根延ふ横野の春野には君を懸けつつ鴬鳴くも [仮名],むらさきの,ねばふよこのの,はるのには,きみをかけつつ,うぐひすなくも
1826
[原文]春之<在>者 妻乎求等 鴬之 木末乎傳 鳴乍本名 [訓読]春されば妻を求むと鴬の木末を伝ひ鳴きつつもとな [仮名],はるされば,つまをもとむと,うぐひすの,こぬれをつたひ,なきつつもとな
1827
[原文]春日有 羽買之山従 <狭>帆之内敝 鳴徃成者 孰喚子鳥 [訓読]春日なる羽がひの山ゆ佐保の内へ鳴き行くなるは誰れ呼子鳥 [仮名],かすがなる,はがひのやまゆ,さほのうちへ,なきゆくなるは,たれよぶこどり
1828
[原文]不答尓 勿喚動曽 喚子鳥 佐保乃山邊乎 上下二 [訓読]答へぬにな呼び響めそ呼子鳥佐保の山辺を上り下りに [仮名],こたへぬに,なよびとよめそ,よぶこどり,さほのやまへを,のぼりくだりに
1829
[原文]梓弓 春山近 家居之 續而聞良牟 鴬之音 [訓読]梓弓春山近く家居れば継ぎて聞くらむ鴬の声 [仮名],あづさゆみ,はるやまちかく,いへをれば,つぎてきくらむ,うぐひすのこゑ
1830
[原文]打靡 春去来者 小竹之末丹 尾羽打觸而 鴬鳴毛 [訓読]うち靡く春さり来れば小竹の末に尾羽打ち触れて鴬鳴くも [仮名],うちなびく,はるさりくれば,しののうれに,をはうちふれて,うぐひすなくも
1831
[原文]朝霧尓 之<努>々尓所沾而 喚子鳥 三船山従 喧渡所見 [訓読]朝霧にしののに濡れて呼子鳥三船の山ゆ鳴き渡る見ゆ [仮名],あさぎりに,しののにぬれて,よぶこどり,みふねのやまゆ,なきわたるみゆ
1832
[原文]打靡 春去来者 然為蟹 天雲霧相 雪者零管 [訓読]うち靡く春さり来ればしかすがに天雲霧らひ雪は降りつつ [仮名],うちなびく,はるさりくれば,しかすがに,あまくもきらひ,ゆきはふりつつ
1833
[原文]梅花 零覆雪乎 L持 君令見跡 取者消管 [訓読]梅の花降り覆ふ雪を包み持ち君に見せむと取れば消につつ [仮名],うめのはな,ふりおほふゆきを,つつみもち,きみにみせむと,とればけにつつ
1834
[原文]梅花 咲落過奴 然為蟹 白雪庭尓 零重管 [訓読]梅の花咲き散り過ぎぬしかすがに白雪庭に降りしきりつつ [仮名],うめのはな,さきちりすぎぬ,しかすがに,しらゆきにはに,ふりしきりつつ
1835
[原文]今更 雪零目八方 蜻火之 燎留春部常 成西物乎 [訓読]今さらに雪降らめやもかぎろひの燃ゆる春へとなりにしものを [仮名],いまさらに,ゆきふらめやも,かぎろひの,もゆるはるへと,なりにしものを
1836
[原文]風交 雪者零乍 然為蟹 霞田菜引 春去尓来 [訓読]風交り雪は降りつつしかすがに霞たなびき春さりにけり [仮名],かぜまじり,ゆきはふりつつ,しかすがに,かすみたなびき,はるさりにけり
1837
[原文]山際尓 鴬喧而 打靡 春跡雖念 雪落布沼 [訓読]山の際に鴬鳴きてうち靡く春と思へど雪降りしきぬ [仮名],やまのまに,うぐひすなきて,うちなびく,はるとおもへど,ゆきふりしきぬ
1838
[原文]峯上尓 零置雪師 風之共 此聞散良思 春者雖有 [訓読]峰の上に降り置ける雪し風の共ここに散るらし春にはあれども [仮名],をのうへに,ふりおけるゆきし,かぜのむた,ここにちるらし,はるにはあれども
1839
[原文]為君 山田之澤 恵具採跡 雪消之水尓 裳裾所沾 [訓読]君がため山田の沢にゑぐ摘むと雪消の水に裳の裾濡れぬ [仮名],きみがため,やまたのさはに,ゑぐつむと,ゆきげのみづに,ものすそぬれぬ
1840
[原文]梅枝尓 鳴而移<徙> 鴬之 翼白妙尓 沫雪曽落 [訓読]梅が枝に鳴きて移ろふ鴬の羽白妙に沫雪ぞ降る [仮名],うめがえに,なきてうつろふ,うぐひすの,はねしろたへに,あわゆきぞふる
1841
[原文]山高三 零来雪乎 梅花 <落>鴨来跡 念鶴鴨 [一云 梅花 開香裳落跡] [訓読]山高み降り来る雪を梅の花散りかも来ると思ひつるかも [一云 梅の花咲きかも散ると] [仮名],やまたかみ,ふりくるゆきを,うめのはな,ちりかもくると,おもひつるかも,[うめのはな,さきかもちると]
1842
[原文]除雪而 梅莫戀 足曳之 山片就而 家居為流君 [訓読]雪をおきて梅をな恋ひそあしひきの山片付きて家居せる君 [仮名],ゆきをおきて,うめをなこひそ,あしひきの,やまかたづきて,いへゐせるきみ
1843
[原文]昨日社 年者極之賀 春霞 春日山尓 速立尓来 [訓読]昨日こそ年は果てしか春霞春日の山に早立ちにけり [仮名],きのふこそ,としははてしか,はるかすみ,かすがのやまに,はやたちにけり
1844
[原文]寒過 暖来良思 朝烏指 滓鹿能山尓 霞軽引 [訓読]冬過ぎて春来るらし朝日さす春日の山に霞たなびく [仮名],ふゆすぎて,はるきたるらし,あさひさす,かすがのやまに,かすみたなびく
1845
[原文]鴬之 春成良思 春日山 霞棚引 夜目見侶 [訓読]鴬の春になるらし春日山霞たなびく夜目に見れども [仮名],うぐひすの,はるになるらし,かすがやま,かすみたなびく,よめにみれども
1846
[原文]霜干 冬柳者 見人之 蘰可為 目生来鴨 [訓読]霜枯れの冬の柳は見る人のかづらにすべく萌えにけるかも [仮名],しもがれの,ふゆのやなぎは,みるひとの,かづらにすべく,もえにけるかも
1847
[原文]淺緑 染懸有跡 見左右二 春楊者 目生来鴨 [訓読]浅緑染め懸けたりと見るまでに春の柳は萌えにけるかも [仮名],あさみどり,そめかけたりと,みるまでに,はるのやなぎは,もえにけるかも
1848
[原文]山際尓 雪者零管 然為我二 此河楊波 毛延尓家留可聞 [訓読]山の際に雪は降りつつしかすがにこの川楊は萌えにけるかも [仮名],やまのまに,ゆきはふりつつ,しかすがに,このかはやぎは,もえにけるかも
1849
[原文]山際之 雪<者>不消有乎 水飯合 川之副者 目生来鴨 [訓読]山の際の雪は消ずあるをみなぎらふ川の沿ひには萌えにけるかも [仮名],やまのまの,ゆきはけずあるを,みなぎらふ,かはのそひには,もえにけるかも
1850
[原文]朝旦 吾見柳 鴬之 来居而應鳴 森尓早奈礼 [訓読]朝な朝な我が見る柳鴬の来居て鳴くべく森に早なれ [仮名],あさなさな,わがみるやなぎ,うぐひすの,きゐてなくべく,もりにはやなれ
1851
[原文]青柳之 絲乃細紗 春風尓 不乱伊間尓 令視子裳欲得 [訓読]青柳の糸のくはしさ春風に乱れぬい間に見せむ子もがも [仮名],あをやぎの,いとのくはしさ,はるかぜに,みだれぬいまに,みせむこもがも
1852
[原文]百礒城 大宮人之 蘰有 垂柳者 雖見不飽鴨 [訓読]ももしきの大宮人のかづらけるしだり柳は見れど飽かぬかも [仮名],ももしきの,おほみやひとの,かづらける,しだりやなぎは,みれどあかぬかも
1853
[原文]梅花 取持見者 吾屋前之 柳乃眉師 所念可聞 [訓読]梅の花取り持ち見れば我が宿の柳の眉し思ほゆるかも [仮名],うめのはな,とりもちみれば,わがやどの,やなぎのまよし,おもほゆるかも
1854
[原文]鴬之 木傳梅乃 移者 櫻花之 時片設奴 [訓読]鴬の木伝ふ梅のうつろへば桜の花の時かたまけぬ [仮名],うぐひすの,こづたふうめの,うつろへば,さくらのはなの,ときかたまけぬ
1855
[原文]櫻花 時者雖不過 見人之 戀盛常 今之将落 [訓読]桜花時は過ぎねど見る人の恋ふる盛りと今し散るらむ [仮名],さくらばな,ときはすぎねど,みるひとの,こふるさかりと,いましちるらむ
1856
[原文]我刺 柳絲乎 吹乱 風尓加妹之 梅乃散覧 [訓読]我がかざす柳の糸を吹き乱る風にか妹が梅の散るらむ [仮名],わがかざす,やなぎのいとを,ふきみだる,かぜにかいもが,うめのちるらむ
1857
[原文]毎年 梅者開友 空蝉之 <世>人君羊蹄 春無有来 [訓読]年のはに梅は咲けどもうつせみの世の人我れし春なかりけり [仮名],としのはに,うめはさけども,うつせみの,よのひとわれし,はるなかりけり
1858
[原文]打細尓 鳥者雖<不>喫 縄延 守巻欲寸 梅花鴨 [訓読]うつたへに鳥は食まねど縄延へて守らまく欲しき梅の花かも [仮名],うつたへに,とりははまねど,なははへて,もらまくほしき,うめのはなかも
1859
[原文]馬並而 高山<部>乎 白妙丹 令艶色有者 梅花鴨 [訓読]馬並めて多賀の山辺を白栲ににほはしたるは梅の花かも [仮名],うまなめて,たかのやまへを,しろたへに,にほはしたるは,うめのはなかも
1860
[原文]花咲而 實者不成登裳 長氣 所念鴨 山振之花 [訓読]花咲きて実はならねども長き日に思ほゆるかも山吹の花 [仮名],はなさきて,みはならねども,ながきけに,おもほゆるかも,やまぶきのはな
1861
[原文]能登河之 水底并尓 光及尓 三笠乃山者 咲来鴨 [訓読]能登川の水底さへに照るまでに御笠の山は咲きにけるかも [仮名],のとがはの,みなそこさへに,てるまでに,みかさのやまは,さきにけるかも
1862
[原文]見雪者 未冬有 然為蟹 春霞立 梅者散乍 [訓読]雪見ればいまだ冬なりしかすがに春霞立ち梅は散りつつ [仮名],ゆきみれば,いまだふゆなり,しかすがに,はるかすみたち,うめはちりつつ
1863
[原文]去年咲之 久木今開 徒 土哉将堕 見人名四二 [訓読]去年咲きし久木今咲くいたづらに地にか落ちむ見る人なしに [仮名],こぞさきし,ひさぎいまさく,いたづらに,つちにかおちむ,みるひとなしに
1864
[原文]足日木之 山間照 櫻花 是春雨尓 散去鴨 [訓読]あしひきの山の際照らす桜花この春雨に散りゆかむかも [仮名],あしひきの,やまのまてらす,さくらばな,このはるさめに,ちりゆかむかも
1865
[原文]打靡 春避来之 山際 最木末乃 咲徃見者 [訓読]うち靡く春さり来らし山の際の遠き木末の咲きゆく見れば [仮名],うちなびく,はるさりくらし,やまのまの,とほきこぬれの,さきゆくみれば
1866
[原文]春雉鳴 高圓邊丹 櫻花 散流歴 見人毛我<母> [訓読]雉鳴く高円の辺に桜花散りて流らふ見む人もがも [仮名],きぎしなく,たかまとのへに,さくらばな,ちりてながらふ,みむひともがも
1867
[原文]阿保山之 佐宿木花者 今日毛鴨 散乱 見人無二 [訓読]阿保山の桜の花は今日もかも散り乱ふらむ見る人なしに [仮名],あほやまの,さくらのはなは,けふもかも,ちりまがふらむ,みるひとなしに
1868
[原文]川津鳴 吉野河之 瀧上乃 馬酔之花會 置末勿動 [訓読]かはづ鳴く吉野の川の滝の上の馬酔木の花ぞはしに置くなゆめ [仮名],かはづなく,よしののかはの,たきのうへの,あしびのはなぞ,はしにおくなゆめ
1869
[原文]春雨尓 相争不勝而 吾屋前之 櫻花者 開始尓家里 [訓読]春雨に争ひかねて我が宿の桜の花は咲きそめにけり [仮名],はるさめに,あらそひかねて,わがやどの,さくらのはなは,さきそめにけり
1870
[原文]春雨者 甚勿零 櫻花 未見尓 散巻惜裳 [訓読]春雨はいたくな降りそ桜花いまだ見なくに散らまく惜しも [仮名],はるさめは,いたくなふりそ,さくらばな,いまだみなくに,ちらまくをしも
1871
[原文]春去者 散巻惜 梅花 片時者不咲 含而毛欲得 [訓読]春されば散らまく惜しき梅の花しましは咲かずふふみてもがも [仮名],はるされば,ちらまくをしき,うめのはな,しましはさかず,ふふみてもがも
1872
[原文]見渡者 春日之野邊尓 霞立 開艶者 櫻花鴨 [訓読]見わたせば春日の野辺に霞立ち咲きにほへるは桜花かも [仮名],みわたせば,かすがののへに,かすみたち,さきにほへるは,さくらばなかも
1873
[原文]何時鴨 此夜乃将明 鴬之 木傳落 <梅>花将見 [訓読]いつしかもこの夜の明けむ鴬の木伝ひ散らす梅の花見む [仮名],いつしかも,このよのあけむ,うぐひすの,こづたひちらす,うめのはなみむ
1874
[原文]春霞 田菜引今日之 暮三伏一向夜 不穢照良武 高松之野尓 [訓読]春霞たなびく今日の夕月夜清く照るらむ高松の野に [仮名],はるかすみ,たなびくけふの,ゆふづくよ,きよくてるらむ,たかまつののに
1875
[原文]春去者 紀之許能暮之 夕月夜 欝束無裳 山陰尓指天 [一云 春去者 木陰多 暮月夜] [訓読]春されば木の暗多み夕月夜おほつかなしも山蔭にして [一云 春されば木蔭を多み夕月夜] [仮名],はるされば,このくれおほみ,ゆふづくよ,おほつかなしも,やまかげにして,[はるされば,こかげをおほみ,ゆふづくよ]
1876
[原文]朝霞 春日之晩者 従木間 移歴月乎 何時可将待 [訓読]朝霞春日の暮は木の間より移ろふ月をいつとか待たむ [仮名],あさかすみ,はるひのくれは,このまより,うつろふつきを,いつとかまたむ
1877
[原文]春之雨尓 有来物乎 立隠 妹之家道尓 此日晩都 [訓読]春の雨にありけるものを立ち隠り妹が家道にこの日暮らしつ [仮名],はるのあめに,ありけるものを,たちかくり,いもがいへぢに,このひくらしつ
1878
[原文]今徃而 聞物尓毛我 明日香川 春雨零而 瀧津湍音乎 [訓読]今行きて聞くものにもが明日香川春雨降りてたぎつ瀬の音を [仮名],いまゆきて,きくものにもが,あすかがは,はるさめふりて,たぎつせのおとを
1879
[原文]春日野尓 煙立所見 D嬬等四 春野之菟芽子 採而煮良思文 [訓読]春日野に煙立つ見ゆ娘子らし春野のうはぎ摘みて煮らしも [仮名],かすがのに,けぶりたつみゆ,をとめらし,はるののうはぎ,つみてにらしも
1880
[原文]春日野之 淺茅之上尓 念共 遊今日 忘目八方 [訓読]春日野の浅茅が上に思ふどち遊ぶ今日の日忘らえめやも [仮名],かすがのの,あさぢがうへに,おもふどち,あそぶけふのひ,わすらえめやも
1881
[原文]春霞 立春日野乎 徃還 吾者相見 弥年之黄土 [訓読]春霞立つ春日野を行き返り我れは相見むいや年のはに [仮名],はるかすみ,たつかすがのを,ゆきかへり,われはあひみむ,いやとしのはに
1882
[原文]春野尓 意将述跡 <念>共 来之今日者 不晩毛荒粳 [訓読]春の野に心延べむと思ふどち来し今日の日は暮れずもあらぬか [仮名],はるののに,こころのべむと,おもふどち,こしけふのひは,くれずもあらぬか
1883
[原文]百礒城之 大宮人者 暇有也 梅乎挿頭而 此間集有 [訓読]ももしきの大宮人は暇あれや梅をかざしてここに集へる [仮名],ももしきの,おほみやひとは,いとまあれや,うめをかざして,ここにつどへる
1884
[原文]寒過 暖来者 年月者 雖新有 人者舊去 [訓読]冬過ぎて春し来れば年月は新たなれども人は古りゆく [仮名],ふゆすぎて,はるしきたれば,としつきは,あらたなれども,ひとはふりゆく
1885
[原文]物皆者 新吉 唯 人者舊之 應宜 [訓読]物皆は新たしきよしただしくも人は古りにしよろしかるべし [仮名],ものみなは,あらたしきよし,ただしくも,ひとはふりにし,よろしかるべし
1886
[原文]佐吉之 里<行>之鹿歯 春花乃 益希見 君相有香開 [訓読]住吉の里行きしかば春花のいやめづらしき君に逢へるかも [仮名],すみのえの,さとゆきしかば,はるはなの,いやめづらしき,きみにあへるかも
1887
[原文]春日在 三笠乃山尓 月母出奴可母 佐紀山尓 開有櫻之 花乃可見 [訓読]春日なる御笠の山に月も出でぬかも佐紀山に咲ける桜の花の見ゆべく [仮名],かすがなる,みかさのやまに,つきもいでぬかも,さきやまに,さけるさくらの,はなのみゆべく
1888
[原文]白雪之 常敷冬者 過去家良霜 春霞 田菜引野邊之 鴬鳴焉 [訓読]白雪の常敷く冬は過ぎにけらしも春霞たなびく野辺の鴬鳴くも [仮名],しらゆきの,つねしくふゆは,すぎにけらしも,はるかすみ,たなびくのへの,うぐひすなくも
1889
[原文]吾屋前之 毛桃之下尓 月夜指 下心吉 菟楯項者 [訓読]我が宿の毛桃の下に月夜さし下心よしうたてこのころ [仮名],わがやどの,けもものしたに,つくよさし,したこころよし,うたてこのころ
春相聞1890
[原文]春<山> <友>鴬 鳴別 <眷>益間 思御吾 [訓読]春山の友鴬の泣き別れ帰ります間も思ほせ我れを [仮名],はるやまの,ともうぐひすの,なきわかれ,かへりますまも,おもほせわれを
1891
[原文]冬隠 春開花 手折以 千遍限 戀渡鴨 [訓読]冬こもり春咲く花を手折り持ち千たびの限り恋ひわたるかも [仮名],ふゆこもり,はるさくはなを,たをりもち,ちたびのかぎり,こひわたるかも
1892
[原文]春山 霧惑在 鴬 我益 物念哉 [訓読]春山の霧に惑へる鴬も我れにまさりて物思はめやも [仮名],はるやまの,きりにまとへる,うぐひすも,われにまさりて,ものもはめやも
1893
[原文]出見 向岡 本繁 開在花 不成不止 [訓読]出でて見る向ひの岡に本茂く咲きたる花のならずはやまじ [仮名],いでてみる,むかひのをかに,もとしげく,さきたるはなの,ならずはやまじ
1894
[原文]霞發 春永日 戀暮 夜深去 妹相鴨 [訓読]霞立つ春の長日を恋ひ暮らし夜も更けゆくに妹も逢はぬかも [仮名],かすみたつ,はるのながひを,こひくらし,よもふけゆくに,いももあはぬかも
1895
[原文]春去 先三枝 幸命在 後相 莫戀吾妹 [訓読]春さればまづさきくさの幸くあらば後にも逢はむな恋ひそ我妹 [仮名],はるされば,まづさきくさの,さきくあらば,のちにもあはむ,なこひそわぎも
1896
[原文]春去 為垂柳 十緒 妹心 乗在鴨 [訓読]春さればしだり柳のとををにも妹は心に乗りにけるかも [仮名],はるされば,しだりやなぎの,とををにも,いもはこころに,のりにけるかも
1897
[原文]春之在者 伯勞鳥之草具吉 雖不所見 吾者見<将遣> 君之當<乎>婆 [訓読]春さればもずの草ぐき見えずとも我れは見やらむ君があたりをば [仮名],はるされば,もずのくさぐき,みえずとも,われはみやらむ,きみがあたりをば
1898
[原文]容鳥之 間無數鳴 春野之 草根乃繁 戀毛為鴨 [訓読]貌鳥の間なくしば鳴く春の野の草根の繁き恋もするかも [仮名],かほどりの,まなくしばなく,はるののの,くさねのしげき,こひもするかも
1899
[原文]春去者 宇乃花具多思 吾越之 妹我垣間者 荒来鴨 [訓読]春されば卯の花ぐたし我が越えし妹が垣間は荒れにけるかも [仮名],はるされば,うのはなぐたし,わがこえし,いもがかきまは,あれにけるかも
1900
[原文]梅花 咲散苑尓 吾将去 君之使乎 片待香花光 [訓読]梅の花咲き散る園に我れ行かむ君が使を片待ちがてり [仮名],うめのはな,さきちるそのに,われゆかむ,きみがつかひを,かたまちがてり
1901
[原文]藤浪 咲春野尓 蔓葛 下夜之戀者 久雲在 [訓読]藤波の咲く春の野に延ふ葛の下よし恋ひば久しくもあらむ [仮名],ふぢなみの,さくはるののに,はふくずの,したよしこひば,ひさしくもあらむ
1902
[原文]春野尓 霞棚引 咲花乃 如是成二手尓 不逢君可母 [訓読]春の野に霞たなびき咲く花のかくなるまでに逢はぬ君かも [仮名],はるののに,かすみたなびき,さくはなの,かくなるまでに,あはぬきみかも
1903
[原文]吾瀬子尓 吾戀良久者 奥山之 馬酔花之 今盛有 [訓読]我が背子に我が恋ふらくは奥山の馬酔木の花の今盛りなり [仮名],わがせこに,あがこふらくは,おくやまの,あしびのはなの,いまさかりなり
1904
[原文]梅花 四垂柳尓 折雜 花尓供養者 君尓相可毛 [訓読]梅の花しだり柳に折り交へ花に供へば君に逢はむかも [仮名],うめのはな,しだりやなぎに,をりまじへ,はなにそなへば,きみにあはむかも
1905
[原文]姫部思 咲野尓生 白管自 不知事以 所言之吾背 [訓読]をみなへし佐紀野に生ふる白つつじ知らぬこともち言はえし我が背 [仮名],をみなへし,さきのにおふる,しらつつじ,しらぬこともち,いはえしわがせ
1906
[原文]梅花 吾者不令落 青丹吉 平城之人 来管見之根 [訓読]梅の花我れは散らさじあをによし奈良なる人も来つつ見るがね [仮名],うめのはな,われはちらさじ,あをによし,ならなるひとも,きつつみるがね
1907
[原文]如是有者 何如殖兼 山振乃 止時喪哭 戀良苦念者 [訓読]かくしあらば何か植ゑけむ山吹のやむ時もなく恋ふらく思へば [仮名],かくしあらば,なにかうゑけむ,やまぶきの,やむときもなく,こふらくおもへば
1908
[原文]春去者 水草之上尓 置霜乃 消乍毛我者 戀度鴨 [訓読]春されば水草の上に置く霜の消につつも我れは恋ひわたるかも [仮名],はるされば,みくさのうへに,おくしもの,けにつつもあれは,こひわたるかも
1909
[原文]春霞 山棚引 欝 妹乎相見 後戀毳 [訓読]春霞山にたなびきおほほしく妹を相見て後恋ひむかも [仮名],はるかすみ,やまにたなびき,おほほしく,いもをあひみて,のちこひむかも
1910
[原文]春霞 立尓之日従 至今日 吾戀不止 本之繁家波 [一云 片念尓指天] [訓読]春霞立ちにし日より今日までに我が恋やまず本の繁けば [一云 片思にして] [仮名],はるかすみ,たちにしひより,けふまでに,あがこひやまず,もとのしげけば,[かたもひにして]
1911
[原文]左丹頬經 妹乎念登 霞立 春日毛晩尓 戀度可母 [訓読]さ丹つらふ妹を思ふと霞立つ春日もくれに恋ひわたるかも [仮名],さにつらふ,いもをおもふと,かすみたつ,はるひもくれに,こひわたるかも
1912
[原文]霊寸春 吾山之於尓 立霞 雖立雖座 君之随意 [訓読]たまきはる我が山の上に立つ霞立つとも居とも君がまにまに [仮名],たまきはる,わがやまのうへに,たつかすみ,たつともうとも,きみがまにまに
1913
[原文]見渡者 春日之野邊 立霞 見巻之欲 君之容儀香 [訓読]見わたせば春日の野辺に立つ霞見まくの欲しき君が姿か [仮名],みわたせば,かすがののへに,たつかすみ,みまくのほしき,きみがすがたか
1914
[原文]戀乍毛 今日者暮都 霞立 明日之春日乎 如何将晩 [訓読]恋ひつつも今日は暮らしつ霞立つ明日の春日をいかに暮らさむ [仮名],こひつつも,けふはくらしつ,かすみたつ,あすのはるひを,いかにくらさむ
1915
[原文]吾背子尓 戀而為便莫 春雨之 零別不知 出而来可聞 [訓読]我が背子に恋ひてすべなみ春雨の降るわき知らず出でて来しかも [仮名],わがせこに,こひてすべなみ,はるさめの,ふるわきしらず,いでてこしかも
1916
[原文]今更 君者伊不徃 春雨之 情乎人之 不知有名國 [訓読]今さらに君はい行かじ春雨の心を人の知らずあらなくに [仮名],いまさらに,きみはいゆかじ,はるさめの,こころをひとの,しらずあらなくに
1917
[原文]春雨尓 衣甚 将通哉 七日四零者 七<日>不来哉 [訓読]春雨に衣はいたく通らめや七日し降らば七日来じとや [仮名],はるさめに,ころもはいたく,とほらめや,なぬかしふらば,なぬかこじとや
1918
[原文]梅花 令散春雨 多零 客尓也君之 廬入西留良武 [訓読]梅の花散らす春雨いたく降る旅にや君が廬りせるらむ [仮名],うめのはな,ちらすはるさめ,いたくふる,たびにやきみが,いほりせるらむ
1919
[原文]國栖等之 春菜将採 司馬乃野之 數君麻 思比日 [訓読]国栖らが春菜摘むらむ司馬の野のしばしば君を思ふこのころ [仮名],くにすらが,はるなつむらむ,しまののの,しばしばきみを,おもふこのころ
1920
[原文]春草之 繁吾戀 大海 方徃浪之 千重積 [訓読]春草の繁き我が恋大海の辺に行く波の千重に積もりぬ [仮名],はるくさの,しげきあがこひ,おほうみの,へにゆくなみの,ちへにつもりぬ
1921
[原文]不明 公乎相見而 菅根乃 長春日乎 孤<悲>渡鴨 [訓読]おほほしく君を相見て菅の根の長き春日を恋ひわたるかも [仮名],おほほしく,きみをあひみて,すがのねの,ながきはるひを,こひわたるかも
1922
[原文]梅花 咲而落去者 吾妹乎 将来香不来香跡 吾待乃木曽 [訓読]梅の花咲きて散りなば我妹子を来むか来じかと我が松の木ぞ [仮名],うめのはな,さきてちりなば,わぎもこを,こむかこじかと,わがまつのきぞ
1923
[原文]白檀弓 今春山尓 去雲之 逝哉将別 戀敷物乎 [訓読]白真弓今春山に行く雲の行きや別れむ恋しきものを [仮名],しらまゆみ,いまはるやまに,ゆくくもの,ゆきやわかれむ,こほしきものを
1924
[原文]大夫之 伏居嘆而 造有 四垂柳之 蘰為吾妹 [訓読]大夫の伏し居嘆きて作りたるしだり柳のかづらせ我妹 [仮名],ますらをの,ふしゐなげきて,つくりたる,しだりやなぎの,かづらせわぎも
1925
[原文]朝戸出乃 君之儀乎 曲不見而 長春日乎 戀八九良三 [訓読]朝戸出の君が姿をよく見ずて長き春日を恋ひや暮らさむ [仮名],あさとでの,きみがすがたを,よくみずて,ながきはるひを,こひやくらさむ
1926
[原文]春山之 馬酔花之 不悪 公尓波思恵也 所因友好 [訓読]春山の馬酔木の花の悪しからぬ君にはしゑや寄そるともよし [仮名],はるやまの,あしびのはなの,あしからぬ,きみにはしゑや,よそるともよし
1927
[原文]石上 振乃神杉 神備<西> 吾八更々 戀尓相尓家留 [訓読]石上布留の神杉神びにし我れやさらさら恋にあひにける [仮名],いそのかみ,ふるのかむすぎ,かむびにし,われやさらさら,こひにあひにける
1928
[原文]狭野方波 實尓雖不成 花耳 開而所見社 戀之名草尓 [訓読]さのかたは実にならずとも花のみに咲きて見えこそ恋のなぐさに [仮名],さのかたは,みにならずとも,はなのみに,さきてみえこそ,こひのなぐさに
1929
[原文]狭野方波 實尓成西乎 今更 春雨零而 花将咲八方 [訓読]さのかたは実になりにしを今さらに春雨降りて花咲かめやも [仮名],さのかたは,みになりにしを,いまさらに,はるさめふりて,はなさかめやも
1930
[原文]梓弓 引津邊有 莫告藻之 花咲及二 不會君毳 [訓読]梓弓引津の辺なるなのりその花咲くまでに逢はぬ君かも [仮名],あづさゆみ,ひきつのへなる,なのりその,はなさくまでに,あはぬきみかも
1931
[原文]川上之 伊都藻之花乃 何時々々 来座吾背子 時自異目八方 [訓読]川の上のいつ藻の花のいつもいつも来ませ我が背子時じけめやも [仮名],かはのうへの,いつものはなの,いつもいつも,きませわがせこ,ときじけめやも
1932
[原文]春雨之 不止零々 吾戀 人之目尚矣 不令相見 [訓読]春雨のやまず降る降る我が恋ふる人の目すらを相見せなくに [仮名],はるさめの,やまずふるふる,あがこふる,ひとのめすらを,あひみせなくに
1933
[原文]吾妹子尓 戀乍居者 春雨之 彼毛知如 不止零乍 [訓読]我妹子に恋ひつつ居れば春雨のそれも知るごとやまず降りつつ [仮名],わぎもこに,こひつつをれば,はるさめの,それもしるごと,やまずふりつつ
1934
[原文]相不念 妹哉本名 菅根乃 長春日乎 念晩牟 [訓読]相思はぬ妹をやもとな菅の根の長き春日を思ひ暮らさむ [仮名],あひおもはぬ,いもをやもとな,すがのねの,ながきはるひを,おもひくらさむ
1935
[原文]春去者 先鳴鳥乃 鴬之 事先立之 君乎之将待 [訓読]春さればまづ鳴く鳥の鴬の言先立ちし君をし待たむ [仮名],はるされば,まづなくとりの,うぐひすの,ことさきだちし,きみをしまたむ
1936
[原文]相不念 将有兒故 玉緒 長春日乎 念晩久 [訓読]相思はずあるらむ子ゆゑ玉の緒の長き春日を思ひ暮らさく [仮名],あひおもはず,あるらむこゆゑ,たまのをの,ながきはるひを,おもひくらさく
夏雜歌1937
[原文]大夫<之> 出立向 故郷之 神名備山尓 明来者 柘之左枝尓 暮去者 小松之若末尓 里人之 聞戀麻田 山彦乃 答響萬田 霍公鳥 都麻戀為良思 左夜中尓鳴 [訓読]大夫の 出で立ち向ふ 故郷の 神なび山に 明けくれば 柘のさ枝に 夕されば 小松が末に 里人の 聞き恋ふるまで 山彦の 相響むまで 霍公鳥 妻恋ひすらし さ夜中に鳴く [仮名],ますらをの,いでたちむかふ,ふるさとの,かむなびやまに,あけくれば,つみのさえだに,ゆふされば,こまつがうれに,さとびとの,ききこふるまで,やまびこの,あひとよむまで,ほととぎす,つまごひすらし,さよなかになく
1938
[原文]客尓為而 妻戀為良思 霍公鳥 神名備山尓 左夜深而鳴 [訓読]旅にして妻恋すらし霍公鳥神なび山にさ夜更けて鳴く [仮名],たびにして,つまごひすらし,ほととぎす,かむなびやまに,さよふけてなく
1939
[原文]霍公鳥 汝始音者 於吾欲得 五月之珠尓 交而将貫 [訓読]霍公鳥汝が初声は我れにもが五月の玉に交へて貫かむ [仮名],ほととぎす,ながはつこゑは,われにもが,さつきのたまに,まじへてぬかむ
1940
[原文]朝霞 棚引野邊 足桧木乃 山霍公鳥 何時来将鳴 [訓読]朝霞たなびく野辺にあしひきの山霍公鳥いつか来鳴かむ [仮名],あさかすみ,たなびくのへに,あしひきの,やまほととぎす,いつかきなかむ
1941
[原文]旦<霧> 八重山越而 喚孤鳥 吟八汝来 屋戸母不有九<二> [訓読]朝霧の八重山越えて呼子鳥鳴きや汝が来る宿もあらなくに [仮名],あさぎりの,やへやまこえて,よぶこどり,なきやながくる,やどもあらなくに
1942
[原文]霍公鳥 <鳴>音聞哉 宇能花乃 開落岳尓 田葛引D嬬 [訓読]霍公鳥鳴く声聞くや卯の花の咲き散る岡に葛引く娘女 [仮名],ほととぎす,なくこゑきくや,うのはなの,さきちるをかに,くずひくをとめ
1943
[原文]月夜吉 鳴霍公鳥 欲見 吾草取有 見人毛欲得 [訓読]月夜よみ鳴く霍公鳥見まく欲り我れ草取れり見む人もがも [仮名],つくよよみ,なくほととぎす,みまくほり,われくさとれり,みむひともがも
1944
[原文]藤浪之 散巻惜 霍公鳥 今城岳S 鳴而越奈利 [訓読]藤波の散らまく惜しみ霍公鳥今城の岡を鳴きて越ゆなり [仮名],ふぢなみの,ちらまくをしみ,ほととぎす,いまきのをかを,なきてこゆなり
1945
[原文]旦霧 八重山越而 霍公鳥 宇能花邊柄 鳴越来 [訓読]朝霧の八重山越えて霍公鳥卯の花辺から鳴きて越え来ぬ [仮名],あさぎりの,やへやまこえて,ほととぎす,うのはなへから,なきてこえきぬ
1946
[原文]木高者 曽木不殖 霍公鳥 来鳴令響而 戀令益 [訓読]木高くはかつて木植ゑじ霍公鳥来鳴き響めて恋まさらしむ [仮名],こだかくは,かつてきうゑじ,ほととぎす,きなきとよめて,こひまさらしむ
1947
[原文]難相 君尓逢有夜 霍公鳥 他時従者 今<社>鳴目 [訓読]逢ひかたき君に逢へる夜霍公鳥他時よりは今こそ鳴かめ [仮名],あひかたき,きみにあへるよ,ほととぎす,ことときよりは,いまこそなかめ
1948
[原文]木晩之 暮闇有尓 [一云 有者] 霍公鳥 何處乎家登 鳴渡良<武> [訓読]木の暗の夕闇なるに [一云 なれば] 霍公鳥いづくを家と鳴き渡るらむ [仮名],このくれの,ゆふやみなるに[なれば],ほととぎす,いづくをいへと,なきわたるらむ
1949
[原文]霍公鳥 今朝之旦明尓 鳴都流波 君将聞可 朝宿疑将寐 [訓読]霍公鳥今朝の朝明に鳴きつるは君聞きけむか朝寐か寝けむ [仮名],ほととぎす,けさのあさけに,なきつるは,きみききけむか,あさいかねけむ
1950
[原文]霍公鳥 花橘之 枝尓居而 鳴響者 花波散乍 [訓読]霍公鳥花橘の枝に居て鳴き響もせば花は散りつつ [仮名],ほととぎす,はなたちばなの,えだにゐて,なきとよもせば,はなはちりつつ
1951
[原文]慨哉 四去霍公鳥 今社者 音之干蟹 来喧響目 [訓読]うれたきや醜霍公鳥今こそば声の嗄るがに来鳴き響めめ [仮名],うれたきや,しこほととぎす,いまこそば,こゑのかるがに,きなきとよめめ
1952
[原文]今夜乃 於保束無荷 霍公鳥 喧奈流聲之 音乃遥左 [訓読]今夜のおほつかなきに霍公鳥鳴くなる声の音の遥けさ [仮名],こよひの,おほつかなきに,ほととぎす,なくなるこゑの,おとのはるけさ
1953
[原文]五月山 宇能花月夜 霍公鳥 雖聞不飽 又鳴鴨 [訓読]五月山卯の花月夜霍公鳥聞けども飽かずまた鳴かぬかも [仮名],さつきやま,うのはなづくよ,ほととぎす,きけどもあかず,またなかぬかも
1954
[原文]霍公鳥 来居裳鳴香 吾屋前乃 花橘乃 地二落六見牟 [訓読]霍公鳥来居も鳴かぬか我がやどの花橘の地に落ちむ見む [仮名],ほととぎす,きゐもなかぬか,わがやどの,はなたちばなの,つちにおちむみむ
1955
[原文]霍公鳥 厭時無 菖蒲 蘰将為日 従此鳴度礼 [訓読]霍公鳥いとふ時なしあやめぐさかづらにせむ日こゆ鳴き渡れ [仮名],ほととぎす,いとふときなし,あやめぐさ,かづらにせむひ,こゆなきわたれ
1956
[原文]山跡庭 啼而香将来 霍公鳥 汝鳴毎 無人所念 [訓読]大和には鳴きてか来らむ霍公鳥汝が鳴くごとになき人思ほゆ [仮名],やまとには,なきてかくらむ,ほととぎす,ながなくごとに,なきひとおもほゆ
1957
[原文]宇能花乃 散巻惜 霍公鳥 野出山入 来鳴令動 [訓読]卯の花の散らまく惜しみ霍公鳥野に出で山に入り来鳴き響もす [仮名],うのはなの,ちらまくをしみ,ほととぎす,のにいでやまにいり,きなきとよもす
1958
[原文]橘之 林乎殖 霍公鳥 常尓冬及 住度金 [訓読]橘の林を植ゑむ霍公鳥常に冬まで棲みわたるがね [仮名],たちばなの,はやしをうゑむ,ほととぎす,つねにふゆまで,すみわたるがね
1959
[原文]雨へ之 雲尓副而 霍公鳥 指春日而 従此鳴度 [訓読]雨晴れの雲にたぐひて霍公鳥春日をさしてこゆ鳴き渡る [仮名],あまばれの,くもにたぐひて,ほととぎす,かすがをさして,こゆなきわたる
1960
[原文]物念登 不宿旦開尓 霍公鳥 鳴而左度 為便無左右二 [訓読]物思ふと寐ねぬ朝明に霍公鳥鳴きてさ渡るすべなきまでに [仮名],ものもふと,いねぬあさけに,ほととぎす,なきてさわたる,すべなきまでに
1961
[原文]吾衣 於君令服与登 霍公鳥 吾乎領 袖尓来居管 [訓読]我が衣を君に着せよと霍公鳥我れをうながす袖に来居つつ [仮名],わがきぬを,きみにきせよと,ほととぎす,われをうながす,そでにきゐつつ
1962
[原文]本人 霍公鳥乎八 希将見 今哉汝来 戀乍居者 [訓読]本つ人霍公鳥をやめづらしく今か汝が来る恋ひつつ居れば [仮名],もとつひと,ほととぎすをや,めづらしく,いまかながくる,こひつつをれば
1963
[原文]如是許 雨之零尓 霍公鳥 宇<乃>花山尓 猶香将鳴 [訓読]かくばかり雨の降らくに霍公鳥卯の花山になほか鳴くらむ [仮名],かくばかり,あめのふらくに,ほととぎす,うのはなやまに,なほかなくらむ
1964
[原文]黙然毛将有 時母鳴奈武 日晩乃 物念時尓 鳴管本名 [訓読]黙もあらむ時も鳴かなむひぐらしの物思ふ時に鳴きつつもとな [仮名],もだもあらむ,ときもなかなむ,ひぐらしの,ものもふときに,なきつつもとな
1965
[原文]思子之 衣将摺尓 々保比与 嶋之榛原 秋不立友 [訓読]思ふ子が衣摺らむににほひこそ島の榛原秋立たずとも [仮名],おもふこが,ころもすらむに,にほひこそ,しまのはりはら,あきたたずとも
1966
[原文]風散 花橘S 袖受而 為君御跡 思鶴鴨 [訓読]風に散る花橘を袖に受けて君がみ跡と偲ひつるかも [仮名],かぜにちる,はなたちばなを,そでにうけて,きみがみあとと,しのひつるかも
1967
[原文]香細寸 花橘乎 玉貫 将送妹者 三礼而毛有香 [訓読]かぐはしき花橘を玉に貫き贈らむ妹はみつれてもあるか [仮名],かぐはしき,はなたちばなを,たまにぬき,おくらむいもは,みつれてもあるか
1968
[原文]霍公鳥 来鳴響 橘之 花散庭乎 将見人八孰 [訓読]霍公鳥来鳴き響もす橘の花散る庭を見む人や誰れ [仮名],ほととぎす,きなきとよもす,たちばなの,はなちるにはを,みむひとやたれ
1969
[原文]吾屋前之 花橘者 落尓家里 悔時尓 相在君鴨 [訓読]我が宿の花橘は散りにけり悔しき時に逢へる君かも [仮名],わがやどの,はなたちばなは,ちりにけり,くやしきときに,あへるきみかも
1970
[原文]見渡者 向野邊乃 石竹之 落巻惜毛 雨莫零行年 [訓読]見わたせば向ひの野辺のなでしこの散らまく惜しも雨な降りそね [仮名],みわたせば,むかひののへの,なでしこの,ちらまくをしも,あめなふりそね
1971
[原文]雨間開而 國見毛将為乎 故郷之 花橘者 散家<武>可聞 [訓読]雨間明けて国見もせむを故郷の花橘は散りにけむかも [仮名],あままあけて,くにみもせむを,ふるさとの,はなたちばなは,ちりにけむかも
1972
[原文]野邊見者 瞿麦之花 咲家里 吾待秋者 近就良思母 [訓読]野辺見ればなでしこの花咲きにけり我が待つ秋は近づくらしも [仮名],のへみれば,なでしこのはな,さきにけり,わがまつあきは,ちかづくらしも
1973
[原文]吾妹子尓 相市乃花波 落不過 今咲有如 有与奴香聞 [訓読]我妹子に楝の花は散り過ぎず今咲けるごとありこせぬかも [仮名],わぎもこに,あふちのはなは,ちりすぎず,いまさけるごと,ありこせぬかも
1974
[原文]春日野之 藤者散去而 何物鴨 御狩人之 折而将挿頭 [訓読]春日野の藤は散りにて何をかもみ狩の人の折りてかざさむ [仮名],かすがのの,ふぢはちりにて,なにをかも,みかりのひとの,をりてかざさむ
1975
[原文]不時 玉乎曽連有 宇能花乃 五月乎待者 可久有 [訓読]時ならず玉をぞ貫ける卯の花の五月を待たば久しくあるべみ [仮名],ときならず,たまをぞぬける,うのはなの,さつきをまたば,ひさしくあるべみ
1976
[原文]宇能花乃 咲落岳従 霍公鳥 鳴而沙<度> 公者聞津八 [訓読]卯の花の咲き散る岡ゆ霍公鳥鳴きてさ渡る君は聞きつや [仮名],うのはなの,さきちるをかゆ,ほととぎす,なきてさわたる,きみはききつや
1977
[原文]聞津八跡 君之問世流 霍公鳥 小竹野尓所沾而 従此鳴綿類 [訓読]聞きつやと君が問はせる霍公鳥しののに濡れてこゆ鳴き渡る [仮名],ききつやと,きみがとはせる,ほととぎす,しののにぬれて,こゆなきわたる
1978
[原文]橘 花落里尓 通名者 山霍公鳥 将令響鴨 [訓読]橘の花散る里に通ひなば山霍公鳥響もさむかも [仮名],たちばなの,はなちるさとに,かよひなば,やまほととぎす,とよもさむかも
夏相聞1979
[原文]春之在者 酢軽成野之 霍公鳥 保等穂跡妹尓 不相来尓家里 [訓読]春さればすがるなす野の霍公鳥ほとほと妹に逢はず来にけり [仮名],はるされば,すがるなすのの,ほととぎす,ほとほといもに,あはずきにけり
1980
[原文]五月山 花橘尓 霍公鳥 隠合時尓 逢有公鴨 [訓読]五月山花橘に霍公鳥隠らふ時に逢へる君かも [仮名],さつきやま,はなたちばなに,ほととぎす,こもらふときに,あへるきみかも
1981
[原文]霍公鳥 来鳴五月之 短夜毛 獨宿者 明不得毛 [訓読]霍公鳥来鳴く五月の短夜もひとりし寝れば明かしかねつも [仮名],ほととぎす,きなくさつきの,みじかよも,ひとりしぬれば,あかしかねつも
1982
[原文]日倉足者 時常雖鳴 我戀 手弱女我者 不定哭 [訓読]ひぐらしは時と鳴けども片恋にたわや女我れは時わかず泣く [仮名],ひぐらしは,ときとなけども,かたこひに,たわやめわれは,ときわかずなく
1983
[原文]人言者 夏野乃草之 繁友 妹与吾<師> 携宿者 [訓読]人言は夏野の草の繁くとも妹と我れとし携はり寝ば [仮名],ひとごとは,なつののくさの,しげくとも,いもとあれとし,たづさはりねば
1984
[原文]廼者之 戀乃繁久 夏草乃 苅掃友 生布如 [訓読]このころの恋の繁けく夏草の刈り掃へども生ひしくごとし [仮名],このころの,こひのしげけく,なつくさの,かりはらへども,おひしくごとし
1985
[原文]真田葛延 夏野之繁 如是戀者 信吾命 常有目八<面> [訓読]ま葛延ふ夏野の繁くかく恋ひばまこと我が命常ならめやも [仮名],まくずはふ,なつののしげく,かくこひば,まことわがいのち,つねならめやも
1986
[原文]吾耳哉 如是戀為良武 <垣>津旗 丹<頬合>妹者 如何将有 [訓読]我れのみやかく恋すらむかきつはた丹つらふ妹はいかにかあるらむ [仮名],あれのみや,かくこひすらむ,かきつはた,につらふいもは,いかにかあるらむ
1987
[原文]片搓尓 絲S曽吾搓 吾背兒之 花橘乎 将貫跡母日手 [訓読]片縒りに糸をぞ我が縒る我が背子が花橘を貫かむと思ひて [仮名],かたよりに,いとをぞわがよる,わがせこが,はなたちばなを,ぬかむとおもひて
1988
[原文]鴬之 徃来垣根乃 宇能花之 厭事有哉 君之不来座 [訓読]鴬の通ふ垣根の卯の花の憂きことあれや君が来まさぬ [仮名],うぐひすの,かよふかきねの,うのはなの,うきことあれや,きみがきまさぬ
1989
[原文]宇能花之 開登波無二 有人尓 戀也将渡 獨念尓指天 [訓読]卯の花の咲くとはなしにある人に恋ひやわたらむ片思にして [仮名],うのはなの,さくとはなしに,あるひとに,こひやわたらむ,かたもひにして
1990
[原文]吾社葉 憎毛有目 吾屋前之 花橘乎 見尓波不来鳥屋 [訓読]我れこそば憎くもあらめ我がやどの花橘を見には来じとや [仮名],われこそば,にくくもあらめ,わがやどの,はなたちばなを,みにはこじとや
1991
[原文]霍公鳥 来鳴動 岡<邊>有 藤浪見者 君者不来登夜 [訓読]霍公鳥来鳴き響もす岡辺なる藤波見には君は来じとや [仮名],ほととぎす,きなきとよもす,をかへなる,ふぢなみみには,きみはこじとや
1992
[原文]隠耳 戀者苦 瞿麦之 花尓開出与 朝旦将見 [訓読]隠りのみ恋ふれば苦しなでしこの花に咲き出よ朝な朝な見む [仮名],こもりのみ,こふればくるし,なでしこの,はなにさきでよ,あさなさなみむ
1993
[原文]外耳 見筒戀牟 紅乃 末採花之 色不出友 [訓読]外のみに見つつ恋ひなむ紅の末摘花の色に出でずとも [仮名],よそのみに,みつつこひなむ,くれなゐの,すゑつむはなの,いろにいでずとも
1994
[原文]夏草乃 露別衣 不著尓 我衣手乃 干時毛名寸 [訓読]夏草の露別け衣着けなくに我が衣手の干る時もなき [仮名],なつくさの,つゆわけごろも,つけなくに,わがころもでの,ふるときもなき
1995
[原文]六月之 地副割而 照日尓毛 吾袖将乾哉 於君不相四手 [訓読]六月の地さへ裂けて照る日にも我が袖干めや君に逢はずして [仮名],みなづきの,つちさへさけて,てるひにも,わがそでひめや,きみにあはずして
秋雜歌1996
[原文]天漢 水左閇而照 舟竟 舟人 妹等所見寸哉 [訓読]天の川水さへに照る舟泊てて舟なる人は妹と見えきや [仮名],あまのがは,みづさへにてる,ふねはてて,ふねなるひとは,いもとみえきや
1997
[原文]久方之 天漢原丹 奴延鳥之 裏歎座<都> 乏諸手丹 [訓読]久方の天の川原にぬえ鳥のうら歎げましつすべなきまでに [仮名],ひさかたの,あまのかはらに,ぬえどりの,うらなげましつ,すべなきまでに
1998
[原文]吾戀 嬬者知遠 徃船乃 過而應来哉 事毛告火 [訓読]我が恋を嬬は知れるを行く舟の過ぎて来べしや言も告げなむ [仮名],あがこひを,つまはしれるを,ゆくふねの,すぎてくべしや,こともつげなむ
1999
[原文]朱羅引 色妙子 數見者 人妻故 吾可戀奴 [訓読]赤らひく色ぐはし子をしば見れば人妻ゆゑに我れ恋ひぬべし [仮名],あからひく,いろぐはしこを,しばみれば,ひとづまゆゑに,あれこひぬべし
2000
[原文]天漢 安渡丹 船浮而 秋立待等 妹告与具 [訓読]天の川安の渡りに舟浮けて秋立つ待つと妹に告げこそ [仮名],あまのがは,やすのわたりに,ふねうけて,あきたつまつと,いもにつげこそ
2001
[原文]従蒼天 徃来吾等須良 汝故 天漢道 名積而叙来 [訓読]大空ゆ通ふ我れすら汝がゆゑに天の川道をなづみてぞ来し [仮名],おほそらゆ,かよふわれすら,ながゆゑに,あまのかはぢを,なづみてぞこし
2002
[原文]八千<戈> 神自御世 乏つ 人知尓来 告思者 [訓読]八千桙の神の御代よりともし妻人知りにけり継ぎてし思へば [仮名],やちほこの,かみのみよより,ともしづま,ひとしりにけり,つぎてしおもへば
2003
[原文]吾等戀 丹穂面 今夕母可 天漢原 石枕巻 [訓読]我が恋ふる丹のほの面わこよひもか天の川原に石枕まかむ [仮名],あがこふる,にのほのおもわ,こよひもか,あまのかはらに,いしまくらまかむ
2004
[原文]己つ 乏子等者 竟津 荒礒巻而寐 君待難 [訓読]己夫にともしき子らは泊てむ津の荒礒巻きて寝む君待ちかてに [仮名],おのづまに,ともしきこらは,はてむつの,ありそまきてねむ,きみまちかてに
2005
[原文]天地等 別之時従 自つ 然叙<年>而在 金待吾者 [訓読]天地と別れし時ゆ己が妻しかぞ年にある秋待つ我れは [仮名],あめつちと,わかれしときゆ,おのがつま,しかぞかれてあり,あきまつわれは
2006
[原文]孫星 嘆須つ 事谷毛 告<尓>叙来鶴 見者苦弥 [訓読]彦星は嘆かす妻に言だにも告げにぞ来つる見れば苦しみ [仮名],ひこほしは,なげかすつまに,ことだにも,つげにぞきつる,みればくるしみ
2007
[原文]久方 天印等 水無<川> 隔而置之 神世之恨 [訓読]ひさかたの天つしるしと水無し川隔てて置きし神代し恨めし [仮名],ひさかたの,あまつしるしと,みなしがは,へだてておきし,かむよしうらめし
2008
[原文]黒玉 宵霧隠 遠鞆 妹傳 速告与 [訓読]ぬばたまの夜霧に隠り遠くとも妹が伝へは早く告げこそ [仮名],ぬばたまの,よぎりにこもり,とほくとも,いもがつたへは,はやくつげこそ
2009
[原文]汝戀 妹命者 飽足尓 袖振所見都 及雲隠 [訓読]汝が恋ふる妹の命は飽き足らに袖振る見えつ雲隠るまで [仮名],ながこふる,いものみことは,あきだらに,そでふるみえつ,くもがくるまで
2010
[原文]夕星毛 徃来天道 及何時鹿 仰而将待 月人<壮> [訓読]夕星も通ふ天道をいつまでか仰ぎて待たむ月人壮士 [仮名],ゆふつづも,かよふあまぢを,いつまでか,あふぎてまたむ,つきひとをとこ
2011
[原文]天漢 已向立而 戀等尓 事谷将告 つ言及者 [訓読]天の川い向ひ立ちて恋しらに言だに告げむ妻と言ふまでは [仮名],あまのがは,いむかひたちて,こひしらに,ことだにつげむ,つまといふまでは
2012
[原文]水良玉 五百<都>集乎 解毛不<見> 吾者干可太奴 相日待尓 [訓読]白玉の五百つ集ひを解きもみず我は干しかてぬ逢はむ日待つに [仮名],しらたまの,いほつつどひを,ときもみず,わはほしかてぬ,あはむひまつに
2013
[原文]天漢 水陰草 金風 靡見者 時来之 [訓読]天の川水蔭草の秋風に靡かふ見れば時は来にけり [仮名],あまのがは,みづかげくさの,あきかぜに,なびかふみれば,ときはきにけり
2014
[原文]吾等待之 白芽子開奴 今谷毛 尓寶比尓徃奈 越方人邇 [訓読]我が待ちし秋萩咲きぬ今だにもにほひに行かな彼方人に [仮名],わがまちし,あきはぎさきぬ,いまだにも,にほひにゆかな,をちかたひとに
2015
[原文]吾世子尓 裏戀居者 天<漢> 夜船滂動 梶音所聞 [訓読]我が背子にうら恋ひ居れば天の川夜舟漕ぐなる楫の音聞こゆ [仮名],わがせこに,うらこひをれば,あまのがは,よふねこぐなる,かぢのおときこゆ
2016
[原文]真氣長 戀心自 白風 妹音所聴 紐解徃名 [訓読]ま日長く恋ふる心ゆ秋風に妹が音聞こゆ紐解き行かな [仮名],まけながく,こふるこころゆ,あきかぜに,いもがおときこゆ,ひもときゆかな
2017
[原文]戀敷者 氣長物乎 今谷 乏<之>牟可哉 可相夜谷 [訓読]恋ひしくは日長きものを今だにもともしむべしや逢ふべき夜だに [仮名],こひしくは,けながきものを,いまだにも,ともしむべしや,あふべきよだに
2018
[原文]天漢 去歳渡代 遷閇者 河瀬於踏 夜深去来 [訓読]天の川去年の渡りで移ろへば川瀬を踏むに夜ぞ更けにける [仮名],あまのがは,こぞのわたりで,うつろへば,かはせをふむに,よぞふけにける
2019
[原文]自古 擧而之服 不顧 天河津尓 年序經去来 [訓読]いにしへゆあげてし服も顧みず天の川津に年ぞ経にける [仮名],いにしへゆ,あげてしはたも,かへりみず,あまのかはづに,としぞへにける
2020
[原文]天漢 夜船滂而 雖明 将相等念夜 袖易受将有 [訓読]天の川夜船を漕ぎて明けぬとも逢はむと思ふ夜袖交へずあらむ [仮名],あまのがは,よふねをこぎて,あけぬとも,あはむとおもふよ,そでかへずあらむ
2021
[原文]遥ほ等 手枕易 寐夜 鶏音莫動 明者雖明 [訓読]遠妻と手枕交へて寝たる夜は鶏がねな鳴き明けば明けぬとも [仮名],とほづまと,たまくらかへて,ねたるよは,とりがねななき,あけばあけぬとも
2022
[原文]相見久 Q雖不足 稲目 明去来理 舟出為牟つ [訓読]相見らく飽き足らねどもいなのめの明けさりにけり舟出せむ妻 [仮名],あひみらく,あきだらねども,いなのめの,あけさりにけり,ふなでせむつま
2023
[原文]左尼始而 何太毛不在者 白栲 帶可乞哉 戀毛不<過>者 [訓読]さ寝そめていくだもあらねば白栲の帯乞ふべしや恋も過ぎねば [仮名],さねそめて,いくだもあらねば,しろたへの,おびこふべしや,こひもすぎねば
2024
[原文]万世 携手居而 相見鞆 念可過 戀<尓>有莫國 [訓読]万代にたづさはり居て相見とも思ひ過ぐべき恋にあらなくに [仮名],よろづよに,たづさはりゐて,あひみとも,おもひすぐべき,こひにあらなくに
2025< |