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Title: Manyoshu [Book 4]
Author: Anonymous
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Makoto Yoshimura, Akihiro Okajima, et al.
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Sachiko Iwabuchi and Christine Ruotolo, University of Virginia Library Electronic Text Center.
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第四巻相聞484
[原文]一日社 人母待<吉> 長氣乎 如此<耳>待者 有不得勝 [訓読]一日こそ人も待ちよき長き日をかくのみ待たば有りかつましじ [仮名],ひとひこそ,ひともまちよき,ながきけを,かくのみまたば,ありかつましじ
485
[原文]神代従 生継来者 人多 國尓波満而 味村乃 去来者行跡 吾戀流 君尓之不有者 晝波 日乃久流留麻弖 夜者 夜之明流寸食 念乍 寐宿難尓登 阿可思通良久茂 長此夜乎 [訓読]神代より 生れ継ぎ来れば 人さはに 国には満ちて あぢ群の 通ひは行けど 我が恋ふる 君にしあらねば 昼は 日の暮るるまで 夜は 夜の明くる極み 思ひつつ 寐も寝かてにと 明かしつらくも 長きこの夜を [仮名],かむよより,あれつぎくれば,ひとさはに,くににはみちて,あぢむらの,かよひはゆけど,あがこふる,きみにしあらねば,ひるは,ひのくるるまで,よるは,よのあくるきはみ,おもひつつ,いもねかてにと,あかしつらくも,ながきこのよを
486
[原文]山羽尓 味村驂 去奈礼騰 吾者左夫思恵 君二四不<在>者 [訓読]山の端にあぢ群騒き行くなれど我れは寂しゑ君にしあらねば [仮名],やまのはに,あぢむらさわき,ゆくなれど,われはさぶしゑ,きみにしあらねば
487
[原文]淡海路乃 鳥篭之山有 不知哉川 氣乃己呂其侶波 戀乍裳将有 [訓読]近江道の鳥篭の山なる不知哉川日のころごろは恋ひつつもあらむ [仮名],あふみちの,とこのやまなる,いさやかは,けのころごろは,こひつつもあらむ
488
[原文]君待登 吾戀居者 我屋戸之 簾動之 秋風吹 [訓読]君待つと我が恋ひ居れば我が宿の簾動かし秋の風吹く [仮名],きみまつと,あがこひをれば,わがやどの,すだれうごかし,あきのかぜふく
489
[原文]風乎太尓 戀流波乏之 風小谷 将来登時待者 何香将嘆 [訓読]風をだに恋ふるは羨し風をだに来むとし待たば何か嘆かむ [仮名],かぜをだに,こふるはともし,かぜをだに,こむとしまたば,なにかなげかむ
490
[原文]真野之浦乃 与騰<乃>継橋 情由毛 思哉妹之 伊目尓之所見 [訓読]真野の浦の淀の継橋心ゆも思へや妹が夢にし見ゆる [仮名],まののうらの,よどのつぎはし,こころゆも,おもへやいもが,いめにしみゆる
491
[原文]河上乃 伊都藻之花乃 何時<々々> 来益我背子 時自異目八方 [訓読]川上のいつ藻の花のいつもいつも来ませ我が背子時じけめやも [仮名],かはかみの,いつものはなの,いつもいつも,きませわがせこ,ときじけめやも
492
[原文]衣手尓 取等騰己保里 哭兒尓毛 益有吾乎 置而如何将為 [舎人吉年] [訓読]衣手に取りとどこほり泣く子にもまされる我れを置きていかにせむ [舎人吉年] [仮名],ころもでに,とりとどこほり,なくこにも,まされるわれを,おきていかにせむ
493
[原文]置而行者 妹将戀可聞 敷細乃 黒髪布而 長此夜乎 <[田部忌寸櫟子]> [訓読]置きていなば妹恋ひむかも敷栲の黒髪敷きて長きこの夜を <[田部忌寸櫟子]> [仮名],おきていなば,いもこひむかも,しきたへの,くろかみしきて,ながきこのよを
494
[原文]吾妹兒乎 相令知 人乎許曽 戀之益者 恨三念 [訓読]我妹子を相知らしめし人をこそ恋のまされば恨めしみ思へ [仮名],わぎもこを,あひしらしめし,ひとをこそ,こひのまされば,うらめしみおもへ
495
[原文]朝日影 尓保敝流山尓 照月乃 不Q君乎 山越尓置手 [訓読]朝日影にほへる山に照る月の飽かざる君を山越しに置きて [仮名],あさひかげ,にほへるやまに,てるつきの,あかざるきみを,やまごしにおきて
496
[原文]三熊野之 浦乃濱木綿 百重成 心者雖念 直不相鴨 [訓読]み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へど直に逢はぬかも [仮名],みくまのの,うらのはまゆふ,ももへなす,こころはもへど,ただにあはぬかも
497
[原文]古尓 有兼人毛 如吾歟 妹尓戀乍 宿不勝家牟 [訓読]いにしへにありけむ人も我がごとか妹に恋ひつつ寐ねかてずけむ [仮名],いにしへに,ありけむひとも,あがごとか,いもにこひつつ,いねかてずけむ
498
[原文]今耳之 行事庭不有 古 人曽益而 哭左倍鳴四 [訓読]今のみのわざにはあらずいにしへの人ぞまさりて音にさへ泣きし [仮名],いまのみの,わざにはあらず,いにしへの,ひとぞまさりて,ねにさへなきし
499
[原文]百重二物 来及毳常 念鴨 公之使乃 雖見不飽有<武> [訓読]百重にも来及かぬかもと思へかも君が使の見れど飽かずあらむ [仮名],ももへにも,きしかぬかもと,おもへかも,きみがつかひの,みれどあかずあらむ
500
[原文]神風之 伊勢乃濱荻 折伏 客宿也将為 荒濱邊尓 [訓読]神風の伊勢の浜荻折り伏せて旅寝やすらむ荒き浜辺に [仮名],かむかぜの,いせのはまをぎ,をりふせて,たびねやすらむ,あらきはまへに
501
[原文]未通女等之 袖振山乃 水垣之 久時従 憶寸吾者 [訓読]娘子らが袖布留山の瑞垣の久しき時ゆ思ひき我れは [仮名],をとめらが,そでふるやまの,みづかきの,ひさしきときゆ,おもひきわれは
502
[原文]夏野去 小<壮>鹿之角乃 束間毛 妹之心乎 忘而念哉 [訓読]夏野行く牡鹿の角の束の間も妹が心を忘れて思へや [仮名],なつのゆく,をしかのつのの,つかのまも,いもがこころを,わすれておもへや
503
[原文]珠衣乃 狭藍左謂沈 家妹尓 物不語来而 思金津裳 [訓読]玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に物言はず来にて思ひかねつも [仮名],たまきぬの,さゐさゐしづみ,いへのいもに,ものいはずきにて,おもひかねつも
504
[原文]君家尓 吾住坂乃 家道乎毛 吾者不忘 命不死者 [訓読]君が家に我が住坂の家道をも我れは忘れじ命死なずは [仮名],きみがいへに,わがすみさかの,いへぢをも,われはわすれじ,いのちしなずは
505
[原文]今更 何乎可将念 打靡 情者君尓 縁尓之物乎 [訓読]今さらに何をか思はむうち靡き心は君に寄りにしものを [仮名],いまさらに,なにをかおもはむ,うちなびき,こころはきみに,よりにしものを
506
[原文]吾背子波 物莫念 事之有者 火尓毛水尓<母> 吾莫七國 [訓読]我が背子は物な思ひそ事しあらば火にも水にも我れなけなくに [仮名],わがせこは,ものなおもひそ,ことしあらば,ひにもみづにも,われなけなくに
507
[原文]敷細乃 枕従久<々>流 涙二曽 浮宿乎思家類 戀乃繁尓 [訓読]敷栲の枕ゆくくる涙にぞ浮寝をしける恋の繁きに [仮名],しきたへの,まくらゆくくる,なみたにぞ,うきねをしける,こひのしげきに
508
[原文]衣手乃 別今夜従 妹毛吾母 甚戀名 相因乎奈美 [訓読]衣手の別かる今夜ゆ妹も我れもいたく恋ひむな逢ふよしをなみ [仮名],ころもでの,わかるこよひゆ,いももあれも,いたくこひむな,あふよしをなみ
509
[原文]臣女乃 匣尓乗有 鏡成 見津乃濱邊尓 狭丹頬相 紐解不離 吾妹兒尓 戀乍居者 明晩乃 旦霧隠 鳴多頭乃 哭耳之所哭 吾戀流 干重乃一隔母 名草漏 情毛有哉跡 家當 吾立見者 青旗乃 葛木山尓 多奈引流 白雲隠 天佐我留 夷乃國邊尓 直向 淡路乎過 粟嶋乎 背尓見管 朝名寸二 水手之音喚 暮名寸二 梶之聲為乍 浪上乎 五十行左具久美 磐間乎 射徃廻 稲日都麻 浦箕乎過而 鳥自物 魚津左比去者 家乃嶋 荒礒之宇倍尓 打靡 四時二生有 莫告我 奈騰可聞妹尓 不告来二計謀 [訓読]臣の女の 櫛笥に乗れる 鏡なす 御津の浜辺に さ丹つらふ 紐解き放けず 我妹子に 恋ひつつ居れば 明け暮れの 朝霧隠り 鳴く鶴の 音のみし泣かゆ 我が恋ふる 千重の一重も 慰もる 心もありやと 家のあたり 我が立ち見れば 青旗の 葛城山に たなびける 白雲隠る 天さがる 鄙の国辺に 直向ふ 淡路を過ぎ 粟島を そがひに見つつ 朝なぎに 水手の声呼び 夕なぎに 楫の音しつつ 波の上を い行きさぐくみ 岩の間を い行き廻り 稲日都麻 浦廻を過ぎて 鳥じもの なづさひ行けば 家の島 荒磯の上に うち靡き 繁に生ひたる なのりそが などかも妹に 告らず来にけむ [仮名],おみのめの,くしげにのれる,かがみなす,みつのはまべに,さにつらふ,ひもときさけず,わぎもこに,こひつつをれば,あけくれの,あさぎりごもり,なくたづの,ねのみしなかゆ,あがこふる,ちへのひとへも,なぐさもる,こころもありやと,いへのあたり,わがたちみれば,あをはたの,かづらきやまに,たなびける,しらくもがくる,あまさがる,ひなのくにべに,ただむかふ,あはぢをすぎ,あはしまを,そがひにみつつ,あさなぎに,かこのこゑよび,ゆふなぎに,かぢのおとしつつ,なみのうへを,いゆきさぐくみ,いはのまを,いゆきもとほり,いなびつま,うらみをすぎて,とりじもの,なづさひゆけば,いへのしま,ありそのうへに,うちなびき,しじにおひたる,なのりそが,などかもいもに,のらずきにけむ
510
[原文]白<細>乃 袖解更而 還来武 月日乎數而 徃而来猿尾 [訓読]白栲の袖解き交へて帰り来む月日を数みて行きて来ましを [仮名],しろたへの,そでときかへて,かへりこむ,つきひをよみて,ゆきてこましを
511
[原文]吾背子者 何處将行 己津物 隠之山乎 今日歟超良<武> [訓読]我が背子はいづく行くらむ沖つ藻の名張の山を今日か越ゆらむ [仮名],わがせこは,いづくゆくらむ,おきつもの,なばりのやまを,けふかこゆらむ
512
[原文]秋田之 穂田乃苅婆加 香縁相者 彼所毛加人之 吾乎事将成 [訓読]秋の田の穂田の刈りばかか寄りあはばそこもか人の我を言成さむ [仮名],あきのたの,ほたのかりばか,かよりあはば,そこもかひとの,わをことなさむ
513
[原文]大原之 此市柴乃 何時鹿跡 吾念妹尓 今夜相有香裳 [訓読]大原のこのいち柴のいつしかと我が思ふ妹に今夜逢へるかも [仮名],おほはらの,このいちしばの,いつしかと,あがおもふいもに,こよひあへるかも
514
[原文]吾背子之 盖世流衣之 針目不落 入尓家良之 我情副 [訓読]我が背子が着せる衣の針目おちず入りにけらしも我が心さへ [仮名],わがせこが,けせるころもの,はりめおちず,いりにけらしも,あがこころさへ
515
[原文]獨宿而 絶西紐緒 忌見跡 世武為便不知 哭耳之曽泣 [訓読]ひとり寝て絶えにし紐をゆゆしみと為むすべ知らに音のみしぞ泣く [仮名],ひとりねて,たえにしひもを,ゆゆしみと,せむすべしらに,ねのみしぞなく
516
[原文]吾以在 三相二搓流 絲用而 附手益物 今曽悔寸 [訓読]我が持てる三相に搓れる糸もちて付けてましもの今ぞ悔しき [仮名],わがもてる,みつあひによれる,いともちて,つけてましもの,いまぞくやしき
517
[原文]神樹尓毛 手者觸云乎 打細丹 人妻跡云者 不觸物可聞 [訓読]神木にも手は触るといふをうつたへに人妻といへば触れぬものかも [仮名],かむきにも,てはふるといふを,うつたへに,ひとづまといへば,ふれぬものかも
518
[原文]春日野之 山邊道乎 与曽理無 通之君我 不所見許呂香聞 [訓読]春日野の山辺の道をよそりなく通ひし君が見えぬころかも [仮名],かすがのの,やまへのみちを,よそりなく,かよひしきみが,みえぬころかも
519
[原文]雨障 常為公者 久堅乃 昨夜雨尓 将懲鴨 [訓読]雨障み常する君はひさかたの昨夜の夜の雨に懲りにけむかも [仮名],あまつつみ,つねするきみは,ひさかたの,きぞのよのあめに,こりにけむかも
520
[原文]久堅乃 雨毛落<粳> 雨乍見 於君副而 此日令晩 [訓読]ひさかたの雨も降らぬか雨障み君にたぐひてこの日暮らさむ [仮名],ひさかたの,あめもふらぬか,あまつつみ,きみにたぐひて,このひくらさむ
521
[原文]庭立 麻手苅干 布<暴> 東女乎 忘賜名 [訓読]庭に立つ麻手刈り干し布曝す東女を忘れたまふな [仮名],にはにたつ,あさでかりほし,ぬのさらす,あづまをみなを,わすれたまふな
522
[原文]D嬬等之 珠篋有 玉櫛乃 神家武毛 妹尓阿波受有者 [訓読]娘子らが玉櫛笥なる玉櫛の神さびけむも妹に逢はずあれば [仮名],をとめらが,たまくしげなる,たまくしの,かむさびけむも,いもにあはずあれば
523
[原文]好渡 人者年母 有云乎 何時間曽毛 吾戀尓来 [訓読]よく渡る人は年にもありといふをいつの間にぞも我が恋ひにける [仮名],よくわたる,ひとはとしにも,ありといふを,いつのまにぞも,あがこひにける
524
[原文]蒸被 奈胡也我下丹 雖臥 与妹不宿者 肌之寒霜 [訓読]むし衾なごやが下に伏せれども妹とし寝ねば肌し寒しも [仮名],むしふすま,なごやがしたに,ふせれども,いもとしねねば,はだしさむしも
525
[原文]狭穂河乃 小石踐渡 夜干玉之 黒馬之来夜者 年尓母有粳 [訓読]佐保川の小石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は年にもあらぬか [仮名],さほがはの,こいしふみわたり,ぬばたまの,くろまくるよは,としにもあらぬか
526
[原文]千鳥鳴 佐保乃河瀬之 小浪 止時毛無 吾戀者 [訓読]千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波やむ時もなし我が恋ふらくは [仮名],ちどりなく,さほのかはせの,さざれなみ,やむときもなし,あがこふらくは
527
[原文]将来云毛 不来時有乎 不来云乎 将来常者不待 不来云物乎 [訓読]来むと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを [仮名],こむといふも,こぬときあるを,こじといふを,こむとはまたじ,こじといふものを
528
[原文]千鳥鳴 佐保乃河門乃 瀬乎廣弥 打橋渡須 奈我来跡念者 [訓読]千鳥鳴く佐保の川門の瀬を広み打橋渡す汝が来と思へば [仮名],ちどりなく,さほのかはとの,せをひろみ,うちはしわたす,ながくとおもへば
529
[原文]佐保河乃 涯之官能 <少>歴木莫苅焉 在乍毛 張之来者 立隠金 [訓読]佐保川の岸のつかさの柴な刈りそねありつつも春し来たらば立ち隠るがね [仮名],さほがはの,きしのつかさの,しばなかりそね,ありつつも,はるしきたらば,たちかくるがね
530
[原文]赤駒之 越馬柵乃 緘結師 妹情者 疑毛奈思 [訓読]赤駒の越ゆる馬柵の標結ひし妹が心は疑ひもなし [仮名],あかごまの,こゆるうませの,しめゆひし,いもがこころは,うたがひもなし
531
[原文]梓弓 爪引夜音之 遠音尓毛 君之御幸乎 聞之好毛 [訓読]梓弓爪引く夜音の遠音にも君が御幸を聞かくしよしも [仮名],あづさゆみ,つまびくよおとの,とほとにも,きみがみゆきを,きかくしよしも
532
[原文]打日指 宮尓行兒乎 真悲見 留者苦 聴去者為便無 [訓読]うちひさす宮に行く子をま悲しみ留むれば苦し遣ればすべなし [仮名],うちひさす,みやにゆくこを,まかなしみ,とむればくるし,やればすべなし
533
[原文]難波方 塩干之名凝 飽左右二 人之見兒乎 吾四乏毛 [訓読]難波潟潮干のなごり飽くまでに人の見る子を我れし羨しも [仮名],なにはがた,しほひのなごり,あくまでに,ひとのみるこを,われしともしも
534
[原文]遠嬬 此間不在者 玉桙之 道乎多遠見 思空 安莫國 嘆虚 不安物乎 水空徃 雲尓毛欲成 高飛 鳥尓毛欲成 明日去而 於妹言問 為吾 妹毛事無 為妹 吾毛事無久 今裳見如 副而毛欲得 [訓読]遠妻の ここにしあらねば 玉桙の 道をた遠み 思ふそら 安けなくに 嘆くそら 苦しきものを み空行く 雲にもがも 高飛ぶ 鳥にもがも 明日行きて 妹に言どひ 我がために 妹も事なく 妹がため 我れも事なく 今も見るごと たぐひてもがも [仮名],とほづまの,ここにしあらねば,たまほこの,みちをたどほみ,おもふそら,やすけなくに,なげくそら,くるしきものを,みそらゆく,くもにもがも,たかとぶ,とりにもがも,あすゆきて,いもにことどひ,あがために,いももことなく,いもがため,あれもことなく,いまもみるごと,たぐひてもがも
535
[原文]敷細乃 手枕不纒 間置而 年曽經来 不相念者 [訓読]敷栲の手枕まかず間置きて年ぞ経にける逢はなく思へば [仮名],しきたへの,たまくらまかず,あひだおきて,としぞへにける,あはなくおもへば
536
[原文]飫宇能海之 塩干乃<鹵>之 片念尓 思哉将去 道之永手呼 [訓読]意宇の海の潮干の潟の片思に思ひや行かむ道の長手を [仮名],おうのうみの,しほひのかたの,かたもひに,おもひやゆかむ,みちのながてを
537
[原文]事清 甚毛莫言 一日太尓 君伊之哭者 痛寸<敢>物 [訓読]言清くいたもな言ひそ一日だに君いしなくはあへかたきかも [仮名],こときよく,いともないひそ,ひとひだに,きみいしなくは,あへかたきかも
538
[原文]他辞乎 繁言痛 不相有寸 心在如 莫思吾背<子> [訓読]人言を繁み言痛み逢はずありき心あるごとな思ひ我が背子 [仮名],ひとごとを,しげみこちたみ,あはずありき,こころあるごと,なおもひわがせこ
539
[原文]吾背子師 遂常云者 人事者 繁有登毛 出而相麻志<乎> [訓読]我が背子し遂げむと言はば人言は繁くありとも出でて逢はましを [仮名],わがせこし,とげむといはば,ひとごとは,しげくありとも,いでてあはましを
540
[原文]吾背子尓 復者不相香常 思墓 今朝別之 為便無有都流 [訓読]我が背子にまたは逢はじかと思へばか今朝の別れのすべなかりつる [仮名],わがせこに,またはあはじか,とおもへばか,けさのわかれの,すべなかりつる
541
[原文]現世尓波 人事繁 来生尓毛 将相吾背子 今不有十方 [訓読]この世には人言繁し来む世にも逢はむ我が背子今ならずとも [仮名],このよには,ひとごとしげし,こむよにも,あはむわがせこ,いまならずとも
542
[原文]常不止 通之君我 使不来 今者不相跡 絶多比奴良思 [訓読]常やまず通ひし君が使ひ来ず今は逢はじとたゆたひぬらし [仮名],つねやまず,かよひしきみが,つかひこず,いまはあはじと,たゆたひぬらし
543
[原文]天皇之 行幸乃随意 物部乃 八十伴雄与 出去之 愛夫者 天翔哉 軽路従 玉田次 畝火乎見管 麻裳吉 木道尓入立 真土山 越良武公者 黄葉乃 散飛見乍 親 吾者不念 草枕 客乎便宜常 思乍 公将有跡 安蘇々二破 且者雖知 之加須我仁 黙然得不在者 吾背子之 徃乃萬々 将追跡者 千遍雖念 手<弱>女 吾身之有者 道守之 将問答乎 言将遣 為便乎不知跡 立而爪衝 [訓読]大君の 行幸のまにま もののふの 八十伴の男と 出で行きし 愛し夫は 天飛ぶや 軽の路より 玉たすき 畝傍を見つつ あさもよし 紀路に入り立ち 真土山 越ゆらむ君は 黄葉の 散り飛ぶ見つつ にきびにし 我れは思はず 草枕 旅をよろしと 思ひつつ 君はあらむと あそそには かつは知れども しかすがに 黙もえあらねば 我が背子が 行きのまにまに 追はむとは 千たび思へど 手弱女の 我が身にしあれば 道守の 問はむ答へを 言ひやらむ すべを知らにと 立ちてつまづく [仮名],おほきみの,みゆきのまにま,もののふの,やそとものをと,いでゆきし,うるはしづまは,あまとぶや,かるのみちより,たまたすき,うねびをみつつ,あさもよし,きぢにいりたち,まつちやま,こゆらむきみは,もみちばの,ちりとぶみつつ,にきびにし,われはおもはず,くさまくら,たびをよろしと,おもひつつ,きみはあらむと,あそそには,かつはしれども,しかすがに,もだもえあらねば,わがせこが,ゆきのまにまに,おはむとは,ちたびおもへど,たわやめの,わがみにしあれば,みちもりの,とはむこたへを,いひやらむ,すべをしらにと,たちてつまづく
544
[原文]後居而 戀乍不有者 木國乃 妹背乃山尓 有益物乎 [訓読]後れ居て恋ひつつあらずは紀の国の妹背の山にあらましものを [仮名],おくれゐて,こひつつあらずは,きのくにの,いもせのやまに,あらましものを
545
[原文]吾背子之 跡履求 追去者 木乃關守伊 将留鴨 [訓読]我が背子が跡踏み求め追ひ行かば紀の関守い留めてむかも [仮名],わがせこが,あとふみもとめ,おひゆかば,きのせきもりい,とどめてむかも
546
[原文]三香<乃>原 客之屋取尓 珠桙乃 道能去相尓 天雲之 外耳見管 言将問 縁乃無者 情耳 咽乍有尓 天地 神祇辞因而 敷細乃 衣手易而 自妻跡 憑有今夜 秋夜之 百夜乃長 有与宿鴨 [訓読]三香の原 旅の宿りに 玉桙の 道の行き逢ひに 天雲の 外のみ見つつ 言問はむ よしのなければ 心のみ 咽せつつあるに 天地の 神言寄せて 敷栲の 衣手交へて 己妻と 頼める今夜 秋の夜の 百夜の長さ ありこせぬかも [仮名],みかのはら,たびのやどりに,たまほこの,みちのゆきあひに,あまくもの,よそのみみつつ,こととはむ,よしのなければ,こころのみ,むせつつあるに,あめつちの,かみことよせて,しきたへの,ころもでかへて,おのづまと,たのめるこよひ,あきのよの,ももよのながさ,ありこせぬかも
547
[原文]天雲之 外従見 吾妹兒尓 心毛身副 縁西鬼尾 [訓読]天雲の外に見しより我妹子に心も身さへ寄りにしものを [仮名],あまくもの,よそにみしより,わぎもこに,こころもみさへ,よりにしものを
548
[原文]今夜之 早開者 為便乎無三 秋百夜乎 願鶴鴨 [訓読]今夜の早く明けなばすべをなみ秋の百夜を願ひつるかも [仮名],こよひの,はやくあけなば,すべをなみ,あきのももよを,ねがひつるかも
549
[原文]天地之 神毛助与 草枕 羈行君之 至家左右 [訓読]天地の神も助けよ草枕旅行く君が家にいたるまで [仮名],あめつちの,かみもたすけよ,くさまくら,たびゆくきみが,いへにいたるまで
550
[原文]大船之 念憑師 君之去者 吾者将戀名 直相左右二 [訓読]大船の思ひ頼みし君が去なば我れは恋ひむな直に逢ふまでに [仮名],おほぶねの,おもひたのみし,きみがいなば,あれはこひむな,ただにあふまでに
551
[原文]山跡道之 嶋乃浦廻尓 縁浪 間無牟 吾戀巻者 [訓読]大和道の島の浦廻に寄する波間もなけむ我が恋ひまくは [仮名],やまとぢの,しまのうらみに,よするなみ,あひだもなけむ,あがこひまくは
552
[原文]吾君者 和氣乎波死常 念可毛 相夜不相<夜> 二走良武 [訓読]我が君はわけをば死ねと思へかも逢ふ夜逢はぬ夜二走るらむ [仮名],あがきみは,わけをばしねと,おもへかも,あふよあはぬよ,ふたはしるらむ
553
[原文]天雲乃 遠隔乃極 遠鷄跡裳 情志行者 戀流物可聞 [訓読]天雲のそくへの極み遠けども心し行けば恋ふるものかも [仮名],あまくもの,そくへのきはみ,とほけども,こころしゆけば,こふるものかも
554
[原文]古人乃 令食有 吉備能酒 <病>者為便無 貫簀賜牟 [訓読]古人のたまへしめたる吉備の酒病めばすべなし貫簀賜らむ [仮名],ふるひとの,たまへしめたる,きびのさけ,やめばすべなし,ぬきすたばらむ
555
[原文]為君 醸之待酒 安野尓 獨哉将飲 友無二思手 [訓読]君がため醸みし待酒安の野にひとりや飲まむ友なしにして [仮名],きみがため,かみしまちざけ,やすののに,ひとりやのまむ,ともなしにして
556
[原文]筑紫船 未毛不来者 豫 荒振公乎 見之悲左 [訓読]筑紫船いまだも来ねばあらかじめ荒ぶる君を見るが悲しさ [仮名],つくしふね,いまだもこねば,あらかじめ,あらぶるきみを,みるがかなしさ
557
[原文]大船乎 榜乃進尓 磐尓觸 覆者覆 妹尓因而者 [訓読]大船を漕ぎの進みに岩に触れ覆らば覆れ妹によりては [仮名],おほぶねを,こぎのすすみに,いはにふれ,かへらばかへれ,いもによりては
558
[原文]千磐破 神之社尓 我<挂>師 幣者将賜 妹尓不相國 [訓読]ちはやぶる神の社に我が懸けし幣は賜らむ妹に逢はなくに [仮名],ちはやぶる,かみのやしろに,わがかけし,ぬさはたばらむ,いもにあはなくに
559
[原文]事毛無 生来之物乎 老奈美尓 如是戀<乎>毛 吾者遇流香聞 [訓読]事もなく生き来しものを老いなみにかかる恋にも我れは逢へるかも [仮名],こともなく,いきこしものを,おいなみに,かかるこひにも,われはあへるかも
560
[原文]孤悲死牟 後者何為牟 生日之 為社妹乎 欲見為礼 [訓読]恋ひ死なむ後は何せむ生ける日のためこそ妹を見まく欲りすれ [仮名],こひしなむ,のちはなにせむ,いけるひの,ためこそいもを,みまくほりすれ
561
[原文]不念乎 思常云者 大野有 三笠社之 神思知三 [訓読]思はぬを思ふと言はば大野なる御笠の杜の神し知らさむ [仮名],おもはぬを,おもふといはば,おほのなる,みかさのもりの,かみししらさむ
562
[原文]無暇 人之眉根乎 徒 令掻乍 不相妹可聞 [訓読]暇なく人の眉根をいたづらに掻かしめつつも逢はぬ妹かも [仮名],いとまなく,ひとのまよねを,いたづらに,かかしめつつも,あはぬいもかも
563
[原文]黒髪二 白髪交 至耆 如是有戀庭 未相尓 [訓読]黒髪に白髪交り老ゆるまでかかる恋にはいまだ逢はなくに [仮名],くろかみに,しろかみまじり,おゆるまで,かかるこひには,いまだあはなくに
564
[原文]山菅<之> 實不成事乎 吾尓所依 言礼師君者 与孰可宿良牟 [訓読]山菅の実ならぬことを我れに寄せ言はれし君は誰れとか寝らむ [仮名],やますげの,みならぬことを,われによせ,いはれしきみは,たれとかぬらむ
565
[原文]大伴乃 見津跡者不云 赤根指 照有月夜尓 直相在登聞 [訓読]大伴の見つとは言はじあかねさし照れる月夜に直に逢へりとも [仮名],おほともの,みつとはいはじ,あかねさし,てれるつくよに,ただにあへりとも
566
[原文]草枕 羈行君乎 愛見 副而曽来四 鹿乃濱邊乎 [訓読]草枕旅行く君を愛しみたぐひてぞ来し志賀の浜辺を [仮名],くさまくら,たびゆくきみを,うるはしみ,たぐひてぞこし,しかのはまべを
567
[原文]周防在 磐國山乎 将超日者 手向好為与 荒其<道> [訓読]周防なる磐国山を越えむ日は手向けよくせよ荒しその道 [仮名],すはなる,いはくにやまを,こえむひは,たむけよくせよ,あらしそのみち
568
[原文]三埼廻之 荒礒尓縁 五百重浪 立毛居毛 我念流吉美 [訓読]み崎廻の荒磯に寄する五百重波立ちても居ても我が思へる君 [仮名],みさきみの,ありそによする,いほへなみ,たちてもゐても,あがもへるきみ
569
[原文]辛人之 衣染云 紫之 情尓染而 所念鴨 [訓読]韓人の衣染むといふ紫の心に染みて思ほゆるかも [仮名],からひとの,ころもそむといふ,むらさきの,こころにしみて,おもほゆるかも
570
[原文]山跡邊 君之立日乃 近付者 野立鹿毛 動而曽鳴 [訓読]大和へに君が発つ日の近づけば野に立つ鹿も響めてぞ鳴く [仮名],やまとへに,きみがたつひの,ちかづけば,のにたつしかも,とよめてぞなく
571
[原文]月夜吉 河音清之 率此間 行毛不去毛 遊而将歸 [訓読]月夜よし川の音清しいざここに行くも行かぬも遊びて行かむ [仮名],つくよよし,かはのおときよし,いざここに,ゆくもゆかぬも,あそびてゆかむ
572
[原文]真十鏡 見不飽君尓 所贈哉 旦夕尓 左備乍将居 [訓読]まそ鏡見飽かぬ君に後れてや朝夕にさびつつ居らむ [仮名],まそかがみ,みあかぬきみに,おくれてや,あしたゆふへに,さびつつをらむ
573
[原文]野干玉之 黒髪變 白髪手裳 痛戀庭 相時有来 [訓読]ぬばたまの黒髪変り白けても痛き恋には逢ふ時ありけり [仮名],ぬばたまの,くろかみかはり,しらけても,いたきこひには,あふときありけり
574
[原文]此間在而 筑紫也何處 白雲乃 棚引山之 方西有良思 [訓読]ここにありて筑紫やいづち白雲のたなびく山の方にしあるらし [仮名],ここにありて,つくしやいづち,しらくもの,たなびくやまの,かたにしあるらし
575
[原文]草香江之 入江二求食 蘆鶴乃 痛多豆多頭思 友無二指天 [訓読]草香江の入江にあさる葦鶴のあなたづたづし友なしにして [仮名],くさかえの,いりえにあさる,あしたづの,あなたづたづし,ともなしにして
576
[原文]従今者 城山道者 不樂牟 吾将通常 念之物乎 [訓読]今よりは城の山道は寂しけむ我が通はむと思ひしものを [仮名],いまよりは,きのやまみちは,さぶしけむ,わがかよはむと,おもひしものを
577
[原文]吾衣 人莫著曽 網引為 難波壮士乃 手尓者雖觸 [訓読]我が衣人にな着せそ網引する難波壮士の手には触るとも [仮名],あがころも,ひとになきせそ,あびきする,なにはをとこの,てにはふるとも
578
[原文]天地与 共久 住波牟等 念而有師 家之庭羽裳 [訓読]天地とともに久しく住まはむと思ひてありし家の庭はも [仮名],あめつちと,ともにひさしく,すまはむと,おもひてありし,いへのにははも
579
[原文]奉見而 未時太尓 不更者 如年月 所念君 [訓読]見まつりていまだ時だに変らねば年月のごと思ほゆる君 [仮名],みまつりて,いまだときだに,かはらねば,としつきのごと,おもほゆるきみ
580
[原文]足引乃 山尓生有 菅根乃 懃見巻 欲君可聞 [訓読]あしひきの山に生ひたる菅の根のねもころ見まく欲しき君かも [仮名],あしひきの,やまにおひたる,すがのねの,ねもころみまく,ほしききみかも
581
[原文]生而有者 見巻毛不知 何如毛 将死与妹常 夢所見鶴 [訓読]生きてあらば見まくも知らず何しかも死なむよ妹と夢に見えつる [仮名],いきてあらば,みまくもしらず,なにしかも,しなむよいもと,いめにみえつる
582
[原文]大夫毛 如此戀家流乎 幼婦之 戀情尓 比有目八方 [訓読]ますらをもかく恋ひけるをたわやめの恋ふる心にたぐひあらめやも [仮名],ますらをも,かくこひけるを,たわやめの,こふるこころに,たぐひあらめやも
583
[原文]月草之 徙安久 念可母 我念人之 事毛告不来 [訓読]月草のうつろひやすく思へかも我が思ふ人の言も告げ来ぬ [仮名],つきくさの,うつろひやすく,おもへかも,わがおもふひとの,こともつげこぬ
584
[原文]春日山 朝立雲之 不居日無 見巻之欲寸 君毛有鴨 [訓読]春日山朝立つ雲の居ぬ日なく見まくの欲しき君にもあるかも [仮名],かすがやま,あさたつくもの,ゐぬひなく,みまくのほしき,きみにもあるかも
585
[原文]出而将去 時之波将有乎 故 妻戀為乍 立而可去哉 [訓読]出でていなむ時しはあらむをことさらに妻恋しつつ立ちていぬべしや [仮名],いでていなむ,ときしはあらむを,ことさらに,つまごひしつつ,たちていぬべしや
586
[原文]不相見者 不戀有益乎 妹乎見而 本名如此耳 戀者奈何将為 [訓読]相見ずは恋ひずあらましを妹を見てもとなかくのみ恋ひばいかにせむ [仮名],あひみずは,こひずあらましを,いもをみて,もとなかくのみ,こひばいかにせむ
587
[原文]吾形見 々管之努波世 荒珠 年之緒長 吾毛将思 [訓読]我が形見見つつ偲はせあらたまの年の緒長く我れも偲はむ [仮名],わがかたみ,みつつしのはせ,あらたまの,としのをながく,われもしのはむ
588
[原文]白鳥能 飛羽山松之 待乍曽 吾戀度 此月比乎 [訓読]白鳥の飛羽山松の待ちつつぞ我が恋ひわたるこの月ごろを [仮名],しらとりの,とばやままつの,まちつつぞ,あがこひわたる,このつきごろを
589
[原文]衣手乎 打廻乃里尓 有吾乎 不知曽人者 待跡不来家留 [訓読]衣手を打廻の里にある我れを知らにぞ人は待てど来ずける [仮名],ころもでを,うちみのさとに,あるわれを,しらにぞひとは,まてどこずける
590
[原文]荒玉 年之經去者 今師波登 勤与吾背子 吾<名>告為莫 [訓読]あらたまの年の経ぬれば今しはとゆめよ我が背子我が名告らすな [仮名],あらたまの,としのへぬれば,いましはと,ゆめよわがせこ,わがなのらすな
591
[原文]吾念乎 人尓令知哉 玉匣 開阿氣津跡 夢西所見 [訓読]我が思ひを人に知るれか玉櫛笥開きあけつと夢にし見ゆる [仮名],わがおもひを,ひとにしるれか,たまくしげ,ひらきあけつと,いめにしみゆる
592
[原文]闇夜尓 鳴奈流鶴之 外耳 聞乍可将有 相跡羽奈之尓 [訓読]闇の夜に鳴くなる鶴の外のみに聞きつつかあらむ逢ふとはなしに [仮名],やみのよに,なくなるたづの,よそのみに,ききつつかあらむ,あふとはなしに
593
[原文]君尓戀 痛毛為便無見 楢山之 小松之下尓 立嘆鴨 [訓読]君に恋ひいたもすべなみ奈良山の小松が下に立ち嘆くかも [仮名],きみにこひ,いたもすべなみ,ならやまの,こまつがしたに,たちなげくかも
594
[原文]吾屋戸之 暮陰草乃 白露之 消蟹本名 所念鴨 [訓読]我がやどの夕蔭草の白露の消ぬがにもとな思ほゆるかも [仮名],わがやどの,ゆふかげくさの,しらつゆの,けぬがにもとな,おもほゆるかも
595
[原文]吾命之 将全<牟>限 忘目八 弥日異者 念益十方 [訓読]我が命の全けむ限り忘れめやいや日に異には思ひ増すとも [仮名],わがいのちの,またけむかぎり,わすれめや,いやひにけには,おもひますとも
596
[原文]八百日徃 濱之沙毛 吾戀二 豈不益歟 奥嶋守 [訓読]八百日行く浜の真砂も我が恋にあにまさらじか沖つ島守 [仮名],やほかゆく,はまのまなごも,あがこひに,あにまさらじか,おきつしまもり
597
[原文]宇都蝉之 人目乎繁見 石走 間近<君>尓 戀度可聞 [訓読]うつせみの人目を繁み石橋の間近き君に恋ひわたるかも [仮名],うつせみの,ひとめをしげみ,いしはしの,まちかききみに,こひわたるかも
598
[原文]戀尓毛曽 人者死為 水<無>瀬河 下従吾痩 月日異 [訓読]恋にもぞ人は死にする水無瀬川下ゆ我れ痩す月に日に異に [仮名],こひにもぞ,ひとはしにする,みなせがは,したゆわれやす,つきにひにけに
599
[原文]朝霧之 欝相見之 人故尓 命可死 戀渡鴨 [訓読]朝霧のおほに相見し人故に命死ぬべく恋ひわたるかも [仮名],あさぎりの,おほにあひみし,ひとゆゑに,いのちしぬべく,こひわたるかも
600
[原文]伊勢海之 礒毛動尓 因流波 恐人尓 戀渡鴨 [訓読]伊勢の海の礒もとどろに寄する波畏き人に恋ひわたるかも [仮名],いせのうみの,いそもとどろに,よするなみ,かしこきひとに,こひわたるかも
601
[原文]従情毛 吾者不念寸 山河毛 隔莫國 如是戀常羽 [訓読]心ゆも我は思はずき山川も隔たらなくにかく恋ひむとは [仮名],こころゆも,わはおもはずき,やまかはも,へだたらなくに,かくこひむとは
602
[原文]暮去者 物念益 見之人乃 言問為形 面景尓而 [訓読]夕されば物思ひまさる見し人の言とふ姿面影にして [仮名],ゆふされば,ものもひまさる,みしひとの,こととふすがた,おもかげにして
603
[原文]念西 死為物尓 有麻世波 千遍曽吾者 死變益 [訓読]思ふにし死にするものにあらませば千たびぞ我れは死にかへらまし [仮名],おもひにし,しにするものに,あらませば,ちたびぞわれは,しにかへらまし
604
[原文]劔大刀 身尓取副常 夢見津 何如之恠曽毛 君尓相為 [訓読]剣大刀身に取り添ふと夢に見つ何のさがぞも君に逢はむため [仮名],つるぎたち,みにとりそふと,いめにみつ,なにのさがぞも,きみにあはむため
605
[原文]天地之 神理 無者社 吾念君尓 不相死為目 [訓読]天地の神の理なくはこそ我が思ふ君に逢はず死にせめ [仮名],あめつちの,かみのことわり,なくはこそ,あがおもふきみに,あはずしにせめ
606
[原文]吾毛念 人毛莫忘 多奈和丹 浦吹風之 止時無有 [訓読]我れも思ふ人もな忘れおほなわに浦吹く風のやむ時もなし [仮名],われもおもふ,ひともなわすれ,おほなわに,うらふくかぜの,やむときもなし
607
[原文]皆人乎 宿与殿金者 打礼杼 君乎之念者 寐不勝鴨 [訓読]皆人を寝よとの鐘は打つなれど君をし思へば寐ねかてぬかも [仮名],みなひとを,ねよとのかねは,うつなれど,きみをしおもへば,いねかてぬかも
608
[原文]不相念 人乎思者 大寺之 餓鬼之後尓 額衝如 [訓読]相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後方に額つくごとし [仮名],あひおもはぬ,ひとをおもふは,おほてらの,がきのしりへに,ぬかつくごとし
609
[原文]従情毛 我者不念寸 又更 吾故郷尓 将還来者 [訓読]心ゆも我は思はずきまたさらに我が故郷に帰り来むとは [仮名],こころゆも,わはおもはずき,またさらに,わがふるさとに,かへりこむとは
610
[原文]近有者 雖不見在乎 弥遠 君之伊座者 有不勝<自> [訓読]近くあれば見ねどもあるをいや遠く君がいまさば有りかつましじ [仮名],ちかくあれば,みねどもあるを,いやとほく,きみがいまさば,ありかつましじ
611
[原文]今更 妹尓将相八跡 念可聞 幾許吾胸 欝悒将有 [訓読]今さらに妹に逢はめやと思へかもここだ我が胸いぶせくあるらむ [仮名],いまさらに,いもにあはめやと,おもへかも,ここだあがむね,いぶせくあるらむ
612
[原文]中々者 黙毛有益<乎> 何為跡香 相見始兼 不遂尓 [訓読]なかなかに黙もあらましを何すとか相見そめけむ遂げざらまくに [仮名],なかなかに,もだもあらましを,なにすとか,あひみそめけむ,とげざらまくに
613
[原文]物念跡 人尓不<所>見常 奈麻強<尓> 常念弊利 在曽金津流 [訓読]もの思ふと人に見えじとなまじひに常に思へりありぞかねつる [仮名],ものもふと,ひとにみえじと,なまじひに,つねにおもへり,ありぞかねつる
614
[原文]不相念 人乎也本名 白細之 袖漬左右二 哭耳四泣裳 [訓読]相思はぬ人をやもとな白栲の袖漬つまでに音のみし泣くも [仮名],あひおもはぬ,ひとをやもとな,しろたへの,そでひつまでに,ねのみしなくも
615
[原文]吾背子者 不相念跡裳 敷細乃 君之枕者 夢<所>見乞 [訓読]我が背子は相思はずとも敷栲の君が枕は夢に見えこそ [仮名],わがせこは,あひおもはずとも,しきたへの,きみがまくらは,いめにみえこそ
616
[原文]劔大刀 名惜雲 吾者無 君尓不相而 年之經去礼者 [訓読]剣太刀名の惜しけくも我れはなし君に逢はずて年の経ぬれば [仮名],つるぎたち,なのをしけくも,われはなし,きみにあはずて,としのへぬれば
617
[原文]従蘆邊 満来塩乃 弥益荷 念歟君之 忘金鶴 [訓読]葦辺より満ち来る潮のいや増しに思へか君が忘れかねつる [仮名],あしへより,みちくるしほの,いやましに,おもへかきみが,わすれかねつる
618
[原文]狭夜中尓 友喚千鳥 物念跡 和備居時二 鳴乍本名 [訓読]さ夜中に友呼ぶ千鳥物思ふとわびをる時に鳴きつつもとな [仮名],さよなかに,ともよぶちとり,ものもふと,わびをるときに,なきつつもとな
619
[原文]押照 難波乃菅之 根毛許呂尓 君之聞四<手> 年深 長四云者 真十鏡 磨師情乎 縦手師 其日之極 浪之共 靡珠藻乃 云々 意者不持 大船乃 憑有時丹 千磐破 神哉将離 空蝉乃 人歟禁良武 通為 君毛不来座 玉梓之 使母不所見 成奴礼婆 痛毛為便無三 夜干玉乃 夜者須我良尓 赤羅引 日母至闇 雖嘆 知師乎無三 雖念 田付乎白二 幼婦常 言雲知久 手小童之 哭耳泣管 俳徊 君之使乎 待八兼手六 [訓読]おしてる 難波の菅の ねもころに 君が聞こして 年深く 長くし言へば まそ鏡 磨ぎし心を ゆるしてし その日の極み 波の共 靡く玉藻の かにかくに 心は持たず 大船の 頼める時に ちはやぶる 神か離くらむ うつせみの 人か障ふらむ 通はしし 君も来まさず 玉梓の 使も見えず なりぬれば いたもすべなみ ぬばたまの 夜はすがらに 赤らひく 日も暮るるまで 嘆けども 験をなみ 思へども たづきを知らに たわや女と 言はくもしるく たわらはの 音のみ泣きつつ た廻り 君が使を 待ちやかねてむ [仮名],おしてる,なにはのすげの,ねもころに,きみがきこして,としふかく,ながくしいへば,まそかがみ,とぎしこころを,ゆるしてし,そのひのきはみ,なみのむた,なびくたまもの,かにかくに,こころはもたず,おほぶねの,たのめるときに,ちはやぶる,かみかさくらむ,うつせみの,ひとかさふらむ,かよはしし,きみもきまさず,たまづさの,つかひもみえず,なりぬれば,いたもすべなみ,ぬばたまの,よるはすがらに,あからひく,ひもくるるまで,なげけども,しるしをなみ,おもへども,たづきをしらに,たわやめと,いはくもしるく,たわらはの,ねのみなきつつ,たもとほり,きみがつかひを,まちやかねてむ
620
[原文]従元 長謂管 不<令>恃者 如是念二 相益物歟 [訓読]初めより長く言ひつつ頼めずはかかる思ひに逢はましものか [仮名],はじめより,ながくいひつつ,たのめずは,かかるおもひに,あはましものか
621
[原文]無間 戀尓可有牟 草枕 客有公之 夢尓之所見 [訓読]間なく恋ふれにかあらむ草枕旅なる君が夢にし見ゆる [仮名],あひだなく,こふれにかあらむ,くさまくら,たびなるきみが,いめにしみゆる
622
[原文]草枕 客尓久 成宿者 汝乎社念 莫戀吾妹 [訓読]草枕旅に久しくなりぬれば汝をこそ思へな恋ひそ我妹 [仮名],くさまくら,たびにひさしく,なりぬれば,なをこそおもへ,なこひそわぎも
623
[原文]松之葉尓 月者由移去 黄葉乃 過哉君之 不相夜多焉 [訓読]松の葉に月はゆつりぬ黄葉の過ぐれや君が逢はぬ夜ぞ多き [仮名],まつのはに,つきはゆつりぬ,もみちばの,すぐれやきみが,あはぬよぞおほき
624
[原文]道相而 咲之柄尓 零雪乃 消者消香二 戀云君妹 [訓読]道に逢ひて笑まししからに降る雪の消なば消ぬがに恋ふといふ我妹 [仮名],みちにあひて,ゑまししからに,ふるゆきの,けなばけぬがに,こふといふわぎも
625
[原文]奥弊徃 邊去伊麻夜 為妹 吾漁有 藻臥束鮒 [訓読]沖辺行き辺を行き今や妹がため我が漁れる藻臥束鮒 [仮名],おきへゆき,へをゆきいまや,いもがため,わがすなどれる,もふしつかふな
626
[原文]君尓因 言之繁乎 古郷之 明日香乃河尓 潔身為尓去 [一尾云龍田超 三津之濱邊尓 潔身四二由久] [訓読]君により言の繁きを故郷の明日香の川にみそぎしに行く [一尾云龍田越え御津の浜辺にみそぎしに行く] [仮名],きみにより,ことのしげきを,ふるさとの,あすかのかはに,みそぎしにゆく,[たつたこえ,みつのはまべに,みそぎしにゆく]
627
[原文]吾手本 将巻跡念牟 大夫者 <變>水<f> 白髪生二有 [訓読]我がたもとまかむと思はむ大夫は変若水求め白髪生ひにけり [仮名],わがたもと,まかむとおもはむ,ますらをは,をちみづもとめ,しらかおひにけり
628
[原文]白髪生流 事者不念 <變>水者 鹿煮藻闕二毛 求而将行 [訓読]白髪生ふることは思はず変若水はかにもかくにも求めて行かむ [仮名],しらかおふる,ことはおもはず,をちみづは,かにもかくにも,もとめてゆかむ
629
[原文]奈何鹿 使之来流 君乎社 左右裳 待難為礼 [訓読]何すとか使の来つる君をこそかにもかくにも待ちかてにすれ [仮名],なにすとか,つかひのきつる,きみをこそ,かにもかくにも,まちかてにすれ
630
[原文]初花之 可散物乎 人事乃 繁尓因而 止息比者鴨 [訓読]初花の散るべきものを人言の繁きによりてよどむころかも [仮名],はつはなの,ちるべきものを,ひとごとの,しげきによりて,よどむころかも
631
[原文]宇波弊無 物可聞人者 然許 遠家路乎 令還念者 [訓読]うはへなきものかも人はしかばかり遠き家路を帰さく思へば [仮名],うはへなき,ものかもひとは,しかばかり,とほきいへぢを,かへさくおもへば
632
[原文]目二破見而 手二破不所取 月内之 楓如 妹乎奈何責 [訓読]目には見て手には取らえぬ月の内の楓のごとき妹をいかにせむ [仮名],めにはみて,てにはとらえぬ,つきのうちの,かつらのごとき,いもをいかにせむ
633
[原文]幾許 思異目鴨 敷細之 枕片去 夢所見来之 [訓読]ここだくも思ひけめかも敷栲の枕片さる夢に見え来し [仮名],ここだくも,おもひけめかも,しきたへの,まくらかたさる,いめにみえこし
634
[原文]家二四手 雖見不飽乎 草枕 客毛妻与 有之乏左 [訓読]家にして見れど飽かぬを草枕旅にも妻とあるが羨しさ [仮名],いへにして,みれどあかぬを,くさまくら,たびにもつまと,あるがともしさ
635
[原文]草枕 客者嬬者 雖率有 匣内之 珠社所念 [訓読]草枕旅には妻は率たれども櫛笥のうちの玉をこそ思へ [仮名],くさまくら,たびにはつまは,ゐたれども,くしげのうちの,たまをこそおもへ
636
[原文]余衣 形見尓奉 布細之 枕不離 巻而左宿座 [訓読]我が衣形見に奉る敷栲の枕を放けずまきてさ寝ませ [仮名],あがころも,かたみにまつる,しきたへの,まくらをさけず,まきてさねませ
637
[原文]吾背子之 形見之衣 嬬問尓 <余>身者不離 事不問友 [訓読]我が背子が形見の衣妻どひに我が身は離けじ言とはずとも [仮名],わがせこが,かたみのころも,つまどひに,あがみはさけじ,こととはずとも
638
[原文]直一夜 隔之可良尓 荒玉乃 月歟經去跡 心遮 [訓読]ただ一夜隔てしからにあらたまの月か経ぬると心惑ひぬ [仮名],ただひとよ,へだてしからに,あらたまの,つきかへぬると,こころまどひぬ
639
[原文]吾背子我 如是戀礼許曽 夜干玉能 夢所見管 寐不所宿家礼 [訓読]我が背子がかく恋ふれこそぬばたまの夢に見えつつ寐ねらえずけれ [仮名],わがせこが,かくこふれこそ,ぬばたまの,いめにみえつつ,いねらえずけれ
640
[原文]波之家也思 不遠里乎 雲<居>尓也 戀管将居 月毛不經國 [訓読]はしけやし間近き里を雲居にや恋ひつつ居らむ月も経なくに [仮名],はしけやし,まちかきさとを,くもゐにや,こひつつをらむ,つきもへなくに
641
[原文]絶常云者 和備染責跡 焼大刀乃 隔付經事者 幸也吾君 [訓読]絶ゆと言はばわびしみせむと焼大刀のへつかふことは幸くや我が君 [仮名],たゆといはば,わびしみせむと,やきたちの,へつかふことは,さきくやあがきみ
642
[原文]吾妹兒尓 戀而乱<者> 久流部寸二 懸而縁与 余戀始 [訓読]我妹子に恋ひて乱ればくるべきに懸けて寄せむと我が恋ひそめし [仮名],わぎもこに,こひてみだれば,くるべきに,かけてよせむと,あがこひそめし
643
[原文]世間之 女尓思有者 吾渡 痛背乃河乎 渡金目八 [訓読]世の中の女にしあらば我が渡る痛背の川を渡りかねめや [仮名],よのなかの,をみなにしあらば,わがわたる,あなせのかはを,わたりかねめや
644
[原文]今者吾羽 和備曽四二結類 氣乃緒尓 念師君乎 縦左<久>思者 [訓読]今は我はわびぞしにける息の緒に思ひし君をゆるさく思へば [仮名],いまはわは,わびぞしにける,いきのをに,おもひしきみを,ゆるさくおもへば
645
[原文]白<細乃> 袖可別 日乎近見 心尓咽飯 哭耳四所泣 [訓読]白栲の袖別るべき日を近み心にむせひ音のみし泣かゆ [仮名],しろたへの,そでわかるべき,ひをちかみ,こころにむせひ,ねのみしなかゆ
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[原文]大夫之 思和備乍 遍多 嘆久嘆乎 不負物可聞 [訓読]ますらをの思ひわびつつたびまねく嘆く嘆きを負はぬものかも [仮名],ますらをの,おもひわびつつ,たびまねく,なげくなげきを,おはぬものかも
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[原文]心者 忘日無久 雖念 人之事社 繁君尓阿礼 [訓読]心には忘るる日なく思へども人の言こそ繁き君にあれ [仮名],こころには,わするるひなく,おもへども,ひとのことこそ,しげききみにあれ
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[原文]不相見而 氣長久成奴 比日者 奈何好去哉 言借吾妹 [訓読]相見ずて日長くなりぬこの頃はいかに幸くやいふかし我妹 [仮名],あひみずて,けながくなりぬ,このころは,いかにさきくや,いふかしわぎも
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[原文]夏葛之 不絶使乃 不通<有>者 言下有如 念鶴鴨 [訓読]夏葛の絶えぬ使のよどめれば事しもあるごと思ひつるかも [仮名],なつくずの,たえぬつかひの,よどめれば,ことしもあるごと,おもひつるかも
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[原文]吾妹兒者 常世國尓 住家<良>思 昔見従 變若益尓家利 [訓読]我妹子は常世の国に住みけらし昔見しより変若ましにけり [仮名],わぎもこは,とこよのくにに,すみけらし,むかしみしより,をちましにけり
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[原文]久堅乃 天露霜 置二家里 宅有人毛 待戀奴濫 [訓読]ひさかたの天の露霜置きにけり家なる人も待ち恋ひぬらむ [仮名],ひさかたの,あめのつゆしも,おきにけり,いへなるひとも,まちこひぬらむ
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[原文]玉主尓 珠者授而 勝且毛 枕与吾者 率二将宿 [訓読]玉守に玉は授けてかつがつも枕と我れはいざふたり寝む [仮名],たまもりに,たまはさづけて,かつがつも,まくらとわれは,いざふたりねむ
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[原文]情者 不忘物乎 <儻> 不見日數多 月曽經去来 [訓読]心には忘れぬものをたまさかに見ぬ日さまねく月ぞ経にける [仮名],こころには,わすれぬものを,たまさかに,みぬひさまねく,つきぞへにける
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[原文]相見者 月毛不經尓 戀云者 乎曽呂登吾乎 於毛保寒毳 [訓読]相見ては月も経なくに恋ふと言はばをそろと我れを思ほさむかも [仮名],あひみては,つきもへなくに,こふといはば,をそろとわれを,おもほさむかも
655
[原文]不念乎 思常云者 天地之 神祇毛知寒 邑礼左變 [訓読]思はぬを思ふと言はば天地の神も知らさむ邑礼左変 [仮名],おもはぬを,おもふといはば,あめつちの,かみもしらさむ,****
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[原文]吾耳曽 君尓者戀流 吾背子之 戀云事波 言乃名具左曽 [訓読]我れのみぞ君には恋ふる我が背子が恋ふといふことは言のなぐさぞ [仮名],あれのみぞ,きみにはこふる,わがせこが,こふといふことは,ことのなぐさぞ
657
[原文]不念常 日手師物乎 翼酢色之 變安寸 吾意可聞 [訓読]思はじと言ひてしものをはねず色のうつろひやすき我が心かも [仮名],おもはじと,いひてしものを,はねずいろの,うつろひやすき,あがこころかも
658
[原文]雖念 知僧裳無跡 知物乎 奈何幾許 吾戀渡 [訓読]思へども験もなしと知るものを何かここだく我が恋ひわたる [仮名],おもへども,しるしもなしと,しるものを,なにかここだく,あがこひわたる
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[原文]豫 人事繁 如是有者 四恵也吾背子 奥裳何如荒海藻 [訓読]あらかじめ人言繁しかくしあらばしゑや我が背子奥もいかにあらめ [仮名],あらかじめ,ひとごとしげし,かくしあらば,しゑやわがせこ,おくもいかにあらめ
660
[原文]汝乎与吾乎 人曽離奈流 乞吾君 人之中言 聞起名湯目 [訓読]汝をと我を人ぞ離くなるいで我が君人の中言聞きこすなゆめ [仮名],なをとあを,ひとぞさくなる,いであがきみ,ひとのなかごと,ききこすなゆめ
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[原文]戀々而 相有時谷 愛寸 事盡手四 長常念者 [訓読]恋ひ恋ひて逢へる時だにうるはしき言尽してよ長くと思はば [仮名],こひこひて,あへるときだに,うるはしき,ことつくしてよ,ながくとおもはば
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[原文]網兒之山 五百重隠有 佐堤乃埼 左手蝿師子之 夢二四所見 [訓読]網児の山五百重隠せる佐堤の崎さで延へし子が夢にし見ゆる [仮名],あごのやま,いほへかくせる,さでのさき,さではへしこが,いめにしみゆる
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[原文]佐穂度 吾家之上二 鳴鳥之 音夏可思吉 愛妻之兒 [訓読]佐保渡り我家の上に鳴く鳥の声なつかしきはしき妻の子 [仮名],さほわたり,わぎへのうへに,なくとりの,こゑなつかしき,はしきつまのこ
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[原文]石上 零十方雨二 将關哉 妹似相武登 言義之鬼尾 [訓読]石上降るとも雨につつまめや妹に逢はむと言ひてしものを [仮名],いそのかみ,ふるともあめに,つつまめや,いもにあはむと,いひてしものを
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[原文]向座而 雖見不飽 吾妹子二 立離徃六 田付不知毛 [訓読]向ひ居て見れども飽かぬ我妹子に立ち別れ行かむたづき知らずも [仮名],むかひゐて,みれどもあかぬ,わぎもこに,たちわかれゆかむ,たづきしらずも
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