Publicly-accessible
URL: http://etext.lib.virginia.edu/japanese/
Japanese Text Initiative
Produced by the Japanese Text Initiative at the University of Virginia and the University of Pittsburgh.
Prepared for the University of Virginia Library Electronic Text Center.
作
古今集の序に。「高砂住の江の松も相生のやうに覺え。」とあるに 本づきて。高砂 住吉の松の精あらはれ。松の謂れを述べ。和歌の道を語り。遂に住吉明 神出現して。神 人和合し。君を祝ひ國を祝ふ事を作れる。めでたき祝言の曲なり。其地 名によりて高砂 と名づく。
「今をはじめの旅衣。今をはじめの旅衣。 日もゆくすえぞ久し き。」
「そもそも是は 九州肥後の國。阿蘇の宮の神主友成とはわが事なり。われいまだ都を見ず候ふほどに。此度おもひたち都に上り候。又よき次なれば。播州高砂の浦をも一見せばやと存じ候。
「旅衣。末はるばるの都路を。末はるばるの都路を。けふ思ひ立つ浦の波。舟路のどけき春風も。幾日來ぬらん跡末も。いさ 白雲のはるばると。さしも思ひし播磨潟。高砂の浦に着きにけり。高砂の浦に着きにけり。
「高砂の。松の春風吹き暮れて。尾上の鐘もひ びくなり。」
「波は霞の磯がくれ。」
「音こそ汐の滿干なれ。
「誰をかも 知る人にせん高砂の。松も昔の友ならで。
「過ぎ來し世々は白雪の。積り積りて 老の鶴の。ねぐらに殘る有明の。 春の霜夜の 起き居にも 。松風をのみ聞き 馴れて。心を 友と菅莚の。 思ひを述ぶるばかりなり。」
「おとづれは松に事問ふ浦風の。落葉衣の袖そへて。木陰の塵を掻かうよ。木陰の塵を掻かうよ。
「所は高砂の。所は高砂の。尾上の 松も年ふりて。老の波もよりくるや。木の下陰の 落葉かく。なるまで命ながらへて。猶いつまでか生の松。それも久しき名所かな。それも久しき名所かな。
「 里人を 相待つところに。 老人 夫婦きたれり。いかに 是なる 老人に 尋ぬべき 事の候。
「こなたの事にて候ふか何事にて候ふぞ。
「高砂の 松とはいずれの木を申し候ふぞ。
「唯今木陰を清め候ふこそ高砂の松にて候へ。
「 高砂 住の 江の 松に 相生の 名あり。 當所と 住吉とは 國をへだてたるに。 何とて 相生の 松とは 申し 候ふぞ。
「仰せの如く古今の序に。高砂住の江の松も。相生のやうに 覺えとありさりながら。此尉は津の國住吉のもの。 是なる姥こそ 當所の人なれ。知る事あらば申さ給へ。
「ふしぎや見れば老人の。夫婦一所にありながら。遠き住の江高砂の。浦山國をへだてて 住むと。いふはいかなる事やらん。
「うたての仰せ候ふや。山川万里を隔つれども。たがひに通ふ心づかひの。妹背の 道は遠からず。
「まづ案じても御覽ぜよ。
「高砂住の江の。松は非情のものだにも。相生の名はあるぞかし。ましてや生ある人として。年久しくも住吉より。通ひ馴れたる尉と姥は。松もろともに此年まで。相生の夫婦となるものを。
「いはれを聞けばおもしろや。さてさてさきに聞えつる。 相生の松の 物語を。所に 言ひおく謂れはなきか。
「昔の人の申ししは。是れはめでたき世のためしなり。
「高砂といふは上代の。萬葉集の古の義。
「住吉と 申すは。いま此御世に住み給ふ延喜の 御事。
「松とは盡きぬ言の葉の。
「榮えは古今相同じと。
「御代をあがむる喩なり。
「よくよく聞けばありがたや。今こそ不審春の日の。
「光やはらぐ 西の海の。
「かしこは住の 江。
「ここは高砂。
「松も色そひ。
「春も。
「のどかに。
「四海波しづかにて。國も 治まる時つ 風。枝を鳴らさぬ御代なれや。 逢ひに相生の。松こそめでたかりけれ。げにや仰ぎても。言もおろかや斯かる世に。住める民とてゆたかなる。君のめぐみぞあ りがたき。君の めぐみぞありがたき。
「なほなほ高砂の松のめでたきいはれくはしく御ものがたり候へ。
「それ草木こころなしとは申せども。花實の時をたがへず。 陽春の徳をそなへて。南枝花はじめて開く。
「然れども此松は。そのけしき長へにして。花葉時を分かず。
「四つの時至りても。一千年の色雪の内に深く。又は松花の色十かへりとも 云へり。
「かかるたよりを松が枝の。
「言の葉草の露の玉。心をみがく種となりて。
「生きとし 生けるもの毎に。
「敷島の陰によるとかや。
「しかるに長能が言葉にも。有情非情のその聲。みな 歌にもるる事なし。 草木土砂風聲水音まで。萬物のこもる心あり。春の林の東風に動き。秋の虫の北露に鳴くも。みな和歌の 姿ならずや。中にも此松は。萬木にすぐれて。十八公のよそほひ。 千秋の緑を 為して。古今の色を見ず。 始皇の御爵に。あづかるほどの木となりとて。 異國にも本朝にも。 萬民これを賞翫す。OB
「高砂の。 尾上の 鐘の音すなり。
「曉かけて。 霜はおけども松が 枝の。葉色は 同じ深みどり。 立ちよる陰の 朝夕に。かけども落葉の盡きせぬは。まことなり松の葉の。散りうせずして色はなほ。正木のかづら長き世の。たとへなりける常磐木の。中にも名は高砂の。末代のためしにも。相生の松ぞめでたき。
「げに名を 得たる松が枝の。げに名を得たる松が枝の。老木の昔あらはして。その名を名のり 給へや。
「今は 何をかつつむべき。是は高砂住の江の。相生の 松の精。
「夫婦と現じ來りたり。
「ふしぎやさては名どころの。松の奇特をあらはして。
「草木こ ころなけれども。
「かしこき世とて。
「草も 木も。
「わが大君の 國なれば。いつまでも君が代に。住吉にまづ行きて。あれにて 待ち申さんと。夕波の汀なる。海人の小舟に打ち乘りて。追風にまかせつつ。沖の方に出でにけりや。沖の方にいでにけり。(中入)
「高砂や。 此浦舟に帆をあげて。此浦舟に帆をあげて。月もろともに出でしほの。 波の淡路の島陰や。遠く鳴尾の沖すぎて。はや 住の江に着きにけり。はや住の江に着きにけり。
「われ見ても 久しくなりぬ住吉の。岸の姫松いくよ 經ぬらん。睦ましと 君は知らずや瑞籬の。久しき世々の声かぐら。夜の皷の拍子を揃へて。すずしめ 給へ宮つこたち。
「西の海。あをきが原の波間より。
「あらはれ出でし 神松の。春なれや 殘んの雪の朝香潟。
「玉藻刈るなる岸陰の。
「松根によつて 腰をすれば。
「千年の緑手に 滿てり。
「梅花を折つて頭にさせば。
「二月の雪ころもに落つ。
「ありがたの影向や。ありがたの影向や。月すみよしの神遊。御影を拝むあらたさよ。
「げにさまざまの舞姫の。聲も澄むなり住の江の。松影もうつるなる。 青海波とは是やらん。
「神と君との道すぐに。都の春にゆくべくは。
「それぞ還城樂の舞。
「さて萬歳の。
「小忌衣。
「さす腕には惡魔を拂ひ。をさむる手には壽福をいだき。千秋樂は民を撫で。萬歳樂には命を延ぶ。相生の松風。颯々の聲ぞたのしむ。颯々の聲ぞたのしむ。